看護師で働いている人の中には、専門学校を卒業してそのまま入職した職場で働き続けている方も多いのではないでしょうか?
大量の点滴やオペ出し、入退院対応など、毎日激務の中転職したくてもなかなか行動に移せない、そんな方も多いと思います。
今回は総合病院から、全く違う分野の訪問看護に転職した経験をお話したいと思います。
私が訪問看護に転職したきっかけは、育休明けに配属された部署でのパワハラが原因でした。産休前とは全く別の部署に配属され、自分以外の看護師は師長クラスの20歳以上歳の離れた方ばかり。
その方々が子育てしていた時は育休1年なんてありえない、残業なんてもちろんのこと、子供が熱が出ていても休めなくても仕方ない、そんな価値観の方ばかりでした。
しかし私が復職した当時は、コロナ真っ只中。子供が少しでも微熱が出たら保育園には登園できなかったり、濃厚接触者になったら何日も保育園に行けないので必然的に母親である自分が休まなければならない、そんな毎日でした。
休みの電話を入れるのも毎日苦痛で、やっと出勤できたと思っても、時短申請しているのに残業は当たり前、たくさん休んでいるんだしと早く帰りにくい職場でした。
そして全く新しい部署なので、いろいろと指導してもらわないと出来ないことばかり。10年以上後輩や学生指導もしていた立場から、毎日ダメ出しの連続、毎日心身ともにクタクタでした。
そしてある日のこと、ある書類を外来に届けなければいけない仕事がありました。「私がさせてもらいます!」と先輩看護師に申し出ると、まさかの返答が。「二度手間になるからいいよ」
この言葉で、それまでなんとか踏ん張っていた自分の心が崩れていく音が聞こえました。毎日パソコンに向かっているだけで自然と涙が出てきて、周りに話ができる人も居らず、トイレに隠れて涙を必死に拭っていました。家に帰っても3歳と1歳の子育て真っ最中。休める暇なんてどこにもありませんでした。
また、時間外の研修も毎月強制参加させられていました。
そんな中、夫がコロナになってしまいました。研修のレポートの提出期限が迫っていたのですが、資料は全て職場に置いていましたし、夫が二階に隔離だったので、3歳と1歳の子供の面倒を1人で見ないといけなくて、レポートなんてする余裕なんて全くありませんでした。しかし職場からは催促の電話がかかってきて、資料は全て職場に置いてあると伝えたら、まさかの自宅が近い方に頼んで自宅まで持ってきたのです。
当時の病院は看護学校の附属の病院で、自宅からも徒歩圏内の職場でしたし、このまま退職までずっとここで勤めるとばかり思っていました。家のローンもあるし、辞めるという選択肢が自分の中で選べなかったという方が正しいのかもしれません。
日に日にストレスは溜まっていき、子供にも些細なことで怒ってしまったり、その反省で夜に泣いてしまったり、メンタルはボロボロでした。夫とも喧嘩が多くなり、このままでは家族が崩壊してしまう!と転職を決意しました。
最初はもう病院は嫌だ!という気持ちが強く、病院以外の企業看護師はないかと転職サイトを毎日眺めていました。
しかし企業看護師はなかなか求人がありませんでした。
そこで求人が多く、月収も10年以上勤めた職場と謙遜ないくらいの額だったのが訪問看護ステーションでした。
訪問看護師って何するの?利用者さんの自宅に行ってバイタル測定?入浴介助?という実習で1週間経験しただけの知識だったので本当に未知の世界でした。
しかし、もう当時の職場に戻りたくないという気持ちが強く、転職サイトから求人の募集に進みました。
有難いことに応募した訪問看護ステーションさんに採用して頂き、私の人生初めての転職、訪問看護師としての第二の人生が始まりました。
私がまず訪問看護師として働いて感じたことは、利用者さんの時間の枠が決まっているのはすごく有難い!ということです。
総合病院では患者さんの処置中でも他の患者さんからのナースコール対応や、突然のオペ迎えなど、多重業務が多すぎて、毎日病院の中を走り回っていました。
しかし訪問看護では何時から何時という枠が決まっているので、その枠の中ではその方のことだけに集中することができます。
こんなにゆっくりとお話することは病院勤務の時は無かったなと心の底から感じました。ゆっくりお話することで、利用者さんの人となりや、家族背景、そして自分の話もできるようになり、密なコミュニケーションが取れるようになりました。
また、私が転職した訪問看護ステーションは自動車で利用者さんの家に訪問するので、訪問時間以外は自動車の中で1人の時間が作れるようになりました。これが一番、私の中では訪問看護師になって良かったと思う所でもあります。
病院勤務の時は記録やお昼休憩も、たくさんのスタッフと一緒で、落ち着く暇なんてありませんでした。
しかし訪問看護は車内でのプライベート空間があるので、記録も車内で音楽やカーナビでテレビを流しながらゆっくりとすることができます。また、昼食も1人でラーメンを食べに行ったり、カフェでまったりしたりと、子育てしていたらほとんど出来ない1人ランチができる環境にとても感激しました。
もちろん、訪問看護にも大変なこともたくさんあります。
先程一人一人の利用者さんの時間の枠が決まっていると延べましたが、逆にその時間内に次回訪問までの必要な処置や対応をする必要があります。また、家族さんやケアマネージャーさん、他事業所のヘルパーさんなどと上手くコミュニケーションを図る必要もあります。訪問看護を始めてみて、とても感じたことは、訪問看護に必要なのは高い看護技術ではなく、丁寧な対応能力だということです。
また、利用者さんの生活に入らせて頂くので、病院よりも利用者さんファーストが大切になってきます。医学的に言えば不正解でも、それを利用者さんに押し付けるのではなく、まず一番は利用者さんの生活になってくるので、その生活の中で実践可能なことを提案するというスタンスです。
また、看護師は責任感が強い方が多く、病院ではチームのリーダーになって動くことも多いので、訪問看護においてもそのようなリーダー的な対応で利用者さんや、ケアマネージャーさん、ヘルパーさんなどに接する方も居られるかもしれません。しかし、訪問看護師は他の医療従事者と同じように、利用者さんを支えるチームのいちメンバーに過ぎないという自覚が必要であると思います。
そのような自覚をすることで、高圧的な態度にならず、丁寧に利用者さんや他事業者さんと関わることができると思います。
訪問看護師として利用者さんに提供する看護は、バイタル測定や、服薬管理、浣腸、入浴介助など様々ですが、私の勤める訪問看護ステーションで一番多いのは利用者さんの話の傾聴です。
正直最初はバイタル測定だけして、こんなにずっと話をしているだけでいいのかな?と不安でした。
しかし今では利用者さんとゆっくりとお話することで、みえてくる問題がたくさんあったり、利用者さんが人と話すことでストレス発散になったりと、話を傾聴する重要性を感じています。
病院勤務の時は、忙し過ぎてゆっくり話を聞きたい気持ちはあるのに、話を遮って業務を遂行する気持ちが優先されていたことも多かったので、このようにゆっくり椅子に腰掛けて、利用者さんと趣味の話や家族の話など、様々なトークをすることがとても新鮮ですし、私自身にとっても、癒しの時間となっています。
前の病院でパワハラを受けた時は本当に辛くて、悲しくて、やるせない毎日だったけど、その経験がなかったら訪問看護という新しい領域に足を踏み入れることはなかったと思います。改めてチャレンジして転職して良かったと心から思っています。
まとめ
子育てや家のローンを抱えての転職は本当に勇気のいることだと思います。しかし実際に転職を経験してみて、人生今が全てではないと気づきました。右に行ったり左に行ったり、行くまでは不安でいっぱいだと思いますが、行ってみたら案外行った先で新たな可能性が見つかることも多いと思います。失敗してもやり直しは何度でもできますし、行ってみないと失敗かどうかもわかりません。そしてそれは失敗でもなく、自分の経験値という財産となります。今の職場で何か上手くいかないと悩んでいる方、ぜひ勇気を一歩出して転職にチャレンジしてみてはいかがでしょうか?
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