アセスメントという言葉は、看護学校の扉を開いた時から、幾度となく耳にした言葉ではないでしょうか。医療の現場において、アセスメントは切っても切り離せない大切な役割を果たすものとなっています。
一概にアセスメントと言っても、立場や職業によって重きを置く目線が変わってくるものだと私は思っています。経験も踏まえながら、「看護師としてのアセスメント」についてお伝えしていきます。
そもそもアセスメントとは、「人やものごとを数値的、客観的に評価・分析すること」を意味する言葉です。 つまりは、バイタルサインや採血データといった数値、そして患者様の言動や目線の動き、体の動きといった客観的視点から患者様の容態を判断していくものです。
アセスメントを簡略化して説明すると、
観察、コミュニケーション、検査データから
患者様の身体の状態を読み取る
(体温高い→体内や創部の炎症が起こってるかも→採血データでWBCやCRPをチェック→高値なのでやはり炎症が疑われる)
(患者様が創部に痛みがあると発言→創部を観察する→発赤、腫脹を確認→創部感染が疑われる)
上記のような形で身体状況から、様々な事象を連想し、医師へ報告、追加検査などの指示を待ちます。
アセスメントは度々看護記録SOAPのAに対応するものとして、記録の中でも重要視されています。
上記の例をSOAPに移すと、
S(患者様の発言):「創部が痛いんだよね。」
O(観察したこと、検査データ等):ドレーン刺入部に発赤、腫脹を確認。体温38.5℃。採血を実施し、WBC.CRP高値。
A(SとOを総合して考えられること、アセスメント):ドレーン刺入部の状態やバイタルサイン、採血結果より創部感染が疑われる。また、痛みの訴えがあり、クーリングなど疼痛コントロールを行う必要もあると考える。
P(看護計画通りに進んでいるか、変更が必要か):創部感染の疑いあり、新たに創部感染の看護計画を立案し経過を追っていく。
簡単に書くと上記のような形になります。
しかし、これは教科書を見れば載っているようなアセスメントの典型となります。
私は、この「アセスメント」結果は職種によって出せる答えに限界があると私は考えています。
例えば医師ではあれば、バイタルサインや採血データ、回診時の患者様の発言を総合的に考えて答えを出します。「血圧、脈拍、体温問題なし、患者さんも何ともないって言ってたから大丈夫だね。明日の手術、ようやく無事に迎えられるね」
また、理学療法士であれば「入院が長くなっているからリハビリで少し歩くのしんどそうでね。ご飯の後に動いたから脇腹が痛いなんて笑ってましたよ。手術終えたら離床をどんどん進めていかないとね。」なんて具合です。
そして看護師は、
たしかにバイタルも採血も今のところ問題ないし、患者さんも体調は変わらないよと言っている。でもなんだか横腹をたまに摩っているのが気になるな…?
「Aさん横腹痛いですか?」
『ん?いやぁ、さっき食後に運動したからだと思うけどちょっと違和感があるくらい。でも他変わりないから大丈夫だよ』
なんて会話をしました。たしかにAさんは心臓の病気で、事前の検査で腹部に異常は見つかっていません。
しかし、Aさんの言動に違和感を覚えた看護師は医師に報告しました。すると報告の最中Aさんのアラームが鳴り響き、コードブルー。必死に蘇生するも、そのまま帰らぬ人となりました。死因は心臓に出来た血栓が原因と考えられる脾塞栓による脾臓破裂。これはかなり稀な症例であり、事前に気付けなくても全く無理はないものであると判断されています。
今回は助けられなかった例となりますが、仮にAさんの脾臓破裂がもう少し後に起こったとしたら、この看護師の報告で事前に検査の追加などが出来たかもしれない。そうすると、この看護師のアセスメントはかなり有用になってくることは皆様おわかりいただけると思います。
私が先ほど申し上げた「看護師としてのアセスメント」はどこに着目したらよいか。
その私なりの答えをお伝えするならば「患者様の小さな動き、小さな呟き、小さな溜め息を見逃さず、また、その裏側を考える」ことにあると思っています。
もちろん、数値や患者様の発言は大前提としてアセスメントにおいて重要です。しかし、医師や他職種に比べて患者様と関わる時間が多いのが看護師です。そして(これは偏見も含まれているかもしれませんが)主に医師は、データなど数値を基にしてアセスメントを行います。手術や外来などがあるとどうしても患者様の元へ行けず、パソコンでわかる数値がまた最も身近になってくるからです。さらに、経験上多くの患者様は医師の前では「元気です」と言います。特に手術前などの場合はここでマイナスなことを言ったら手術が延期になるかも…などの考えから、医療者に本当のことを伝えないというケースも多く見てきました。
だからこそ、今回に関しては「一瞬でもお腹を摩っている様子があった」など患者様のいつもと「少し」でも違う様子に着目することが、看護師のアセスメントにおける観察において、非常に重要となってきます。そしてその観察を基に、どのようにアセスメントをするか。
「でも本人は大丈夫って言ってるし、この前の腹部の検査なんともなかったし問題ないか。」
これもひとつのアセスメントです。
しかし、やはり看護師として、より細かく患者様を観ることが必要であり、「もしも」を常に念頭に置いてアセスメントすることが重要です。
医療において「まさか」はよく起こります。だからこそ「もしも」の想定がとても大切になるのです。今回の例も、みんながまさかと思った出来事です。
医師のアセスメント、他職種のアセスメント、そして看護師のアセスメントを統合して、ようやく患者様の今の本当の容態がわかると思っています。
これからも看護師としての目線、アセスメントを大切にしていきたいと思う出来事でした。
今回は動きに注目しましたが、それ以外にも医療者がカーテンを閉めた向こう側から聞こえる溜め息から、患者様の本当の気持ちを汲み取る。目線から患者様の動揺や不安、後ろめたいことを感じ取ることもあります。看護師が来るたびにチラチラと棚の引き出しを不安そうに見る患者様がいらっしゃいます。実はそこにこっそりと買ったお菓子が入っていて、持ち込み食禁止のはずなのに血糖値が下がらない原因が分かったなんて話もよく聞きます。やはり看護師は草食動物の如く広い視野で状況を掴み取っていきたいですね。
ちなみに、上記のお菓子隠しの患者様の例も、これでお菓子を取り上げたから大丈夫!で終わってはアセスメント不足です。なぜお菓子をそんなに食べたいのか、お菓子が食べれないことによるストレスは幾分か、栄養士さんにどう相談していくか、そのまで考えてようやく看護師としてしっかりとしたアセスメントをしたということになると思います。
先輩看護師を見ていても、経験を重ねる度にどんどん視野が縦に横に広くなっていくような印象があります。そこに適切な医療知識が加われば、病態も患者様の悩みや不安や後ろめたさまでも加味したアセスメントができるのだと思います。私も経験と知識をどんどん付随させ、より患者様を全人的にみたアセスメントを行い、それをよりよい看護に繋げていけるよう努めていく所存です。
まとめ
医療職種によって、重要視する視点が違えばアセスメント結果が異なってくることは必然かと思います。だけれど、それが本当に正しいアセスメントなのか?病態としては正しいかもしれないけれど、そのアセスメントに患者様の気持ちは入っているか、家族の思いは入っているか。医療現場におけるアセスメントは奥が深く、教科書通りでは不十分なことが多いです。だからこそ他職種との連携が必要になります。その中で、看護師としてのアセスメントは視野と分析をより広く、深くしていくことが重要になる思います。
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