この記事は,敗血症の兆候を早期発見することやアセスメントするために,採血データをどのように読み取ればよいかを紹介します.
敗血症とは,なんらかのウィルスや細菌感染により,多臓器に重篤な障害を引き起こす病態です.敗血症性ショックに移行しないために,看護師には敗血症を早期発見する役割が求められます.そこで,この記事では敗血症の兆候を早期に見抜きアセスメントするための採血データの読み取り方を紹介します.
1.敗血症とは
敗血症とは,なんらかのウィルスや細菌の感染により,多臓器に重篤な障害を引き起こす病態です.ウィルスや細菌の感染状態では,生体内の防御反応としてサイトカイン等が放出されます.しかし,敗血症は重篤な感染により,サイトカインの放出が過剰となり,本来は自らの体を守るための反応がかえって自らの体にダメージを与えてしまっている状態です.敗血症は肺,肝臓,血管などの多臓器に機能不全を引き起こし,時に死を引き起こす病態ですが,その兆候を早期発見することも可能です.医師だけではなく,看護師もより早期の段階で患者さんの敗血症の兆候を見抜く役割を持っています.この記事では,バイタルサインに変動がない状態において,敗血症を見抜くための採血データの読み取り方を紹介します.また,この記事では新人や若手の看護師の方でも,簡単に敗血症を見抜きアセスメントすることができるように,基本的には普段みなれている白血球と血小板のみを取り扱います.
2.バイタルサインは病状が進行した際に変動する
本題に入る前に,なぜ採血データから敗血症を見抜く必要があるのか説明します.先に結論を述べますが,バイタルサインはある程度病状が進行した際にしか変動しないからです.
人間の生体には代償という機能が存在します.何かの機能が低下すれば,何かの機能で補うことが代償です.例えば,血圧が低下しそうな場合には,生体内では末梢血管が収縮することによって血圧を維持しようとします.この場合目に見えてバイタルサインの変化はありません.それでも,血圧が維持できない場合には,脈拍数を増加させ血圧は維持されます.こうして徐々に代償機能が働き,その代償機能でも補えなくなることがいわゆるショックや急変と呼ばれる状態です.
このように,バイタルサインが変動するのは病状が進行し,代償機能が働いている,破綻しかかっている,破綻している時であるため,より早期に敗血症の兆候を見抜くためには,採血データを読み解きアセスメントすることが重要となってきます.次項から本題に入っていきます.
3.敗血症で白血球は増加する?低下する?
まずは白血球(wbc)について見ていきます.
皆様に質問ですが,感染症の際に,白血球は増加するでしょうか?低下するでしょうか?.多くの人は増加するとお答えになるのではないでしょうか?
敗血症の場合には,白血球は増加することもあれば低下することもあります.そして低下している場合のほうが危険な状態といえます.その理由を説明します.
基本的には感染が起きれば,生体内では白血球が増産され採血データ上も白血球は上昇します.
そして,感染が落ち着けば正常値に戻ります.しかし,敗血症は,ただの感染ではなく重篤な感染です.この場合,白血球が大量に消費されます.白血球の大量消費に対して増産が追い付けばよいのですが,増産が追い付かない場合もあります.この場合には,感染に対して白血球を使い果たした危機的な状態であり,採血データ上も白血球は減少します.
つまり,この状態はウィルスや細菌という敵兵に対して,白血球という闘う兵士がいない状態であり,今にも城の砦が破壊されそうな状態でかなり危険な状態です.
私が経験した事例では,バイタルサインに変動はありませんでしたが,早朝の採血で白血球が2000程の患者さんが,夕方になり敗血症性ショックで急変した事例がありました.早朝の段階ではなんとか耐えていましたが,夕方になって生体が力尽きた結果ショックになったと考えられます.
本項では,敗血症を見抜くためには,白血球を見る必要性,特に白血球が低下していないか注意する必要性を紹介しました.
4.白血球をもっと細かく見る!左方移動に注目!
次に,白血球をもっと細かく見ていきます.
基本的に白血球や赤血球などの血球は,芽球と呼ばれる赤ちゃんの血球が成長した最終段階であり大人の血球と言えます.基本的には成長段階の血球は大人の血球になるまでの間を骨髄で過ごし,血管内に出現することはありません.
しかし,敗血症の際には,まだ大人の血球になっていない成長段階の白血球が出現することがあります.
そして,これらは採血によって測定することが出来ます.白血球を細かく分けてみることの正式名称を白血球分画と呼び,白血球を未熟な順番に並べると,桿状核球(band/stab),分葉核球(seg),好中球(neut)と呼びます.好中球が最終的な大人の白血球であり,桿状核球と分葉核球は未熟な白血球です.
では一体,なぜ敗血症ではこれらの未熟な白血球が血管内に出現してくるのでしょうか.それは前項の話が深く関係しています.
前項では,敗血症において,ウィルスや細菌という敵兵に対して白血球という闘う戦士がいない状態になることがあると説明しました.ではウィルスや細菌と闘う兵士がいない状況に陥った場合,人間の体はどのような手段を取るでしょうか.それは,子供の兵士を戦場に送り出すことです.つまり,大人の白血球を使い果たしたがために,生体は未熟な白血球である桿状核球,分葉核球を戦場に送り出します.これが,敗血症の際に血管内に未熟な白血球が出現するメカニズムです.
これらの一連のメカニズムを,白血球の左方移動という言葉で表現することがあります.言葉の意味を単純に切り取ると左側に移動するという意味ですが,何が左側に移動するのでしょうか.先ほど,白血球を未熟な順番に並べた場合,桿状核球,分葉核球,好中球と呼ぶと説明しました.勘の良い方はお気づきなったかもしれませんが,左方移動とは,白血球を未熟な順番に並べて際に左側にある桿状核球や分葉核球の割合が増加していることを意味しています.この左方移動は,感染症の重症度の指標となるため敗血症を見抜くためにも重要なアセスメント項目となります.具体的な指標としては,白血球分画において桿状核球の割合が15%以上になることを左方移動と呼びます.白血球分画は標準の検査ではなく,追加オーダー等でしか測定していない施設もあると思いますが,感染兆候や敗血症の疑いがある場合には医師に白血球分画を測定するか相談してみても良いと思います.
本項では敗血症を見抜くためには,白血球をミクロな視点で細かく見る必要性,左方移動に注目することの必要性を紹介しました.
・凝固機能の指標だけではない!敗血症を見抜くために必要な血小板!
最期に血小板(plt)を見ていきます.
血小板と聞くと,凝固機能や出血傾向との関係を思い浮かべる方が多いと思います.しかし,実は血小板は敗血症を見抜くために必要な重要な項目です.その理由を説明します.
敗血症とは,重篤な感染と先ほど記載しましたが,もう少しミクロな視点でみると,感染症の中でも血管内においてウィルスや細菌が増殖している状態を指します.敗血症を疑った際に,血液培養を採取するのはこのことが理由です.
厳密には,血管内においてウィルスや細菌が増殖している状態を菌血症と呼び,菌血症の状態において重篤な症状が出現しているものを敗血症と呼びます.
本項の話題から少しずれてしまいましたが,この血管内に細菌が増殖しているというのが重要なポイントです.つまり,敗血症とは血管内にウィルスや細菌が増殖しており,血管内に炎症が引き起こされている病態といえます.この,血管内の炎症の指標となるのが,血小板なのです.
血管内に炎症が起きれば,血小板は消費が亢進し,採血データ上では減少します.もちろん,血小板が低下する病態はそのほかにもいくつもありますが,感染症の兆候がある患者さんで,血小板が低下している場合には,それは敗血症の兆候である可能性があります.凝固機能の指標とされる血小板ですが,感染症の患者さんでは敗血症の指標として見ることが重要となります.先ほど紹介した私の経験した事例においても,血小板が基準値を大幅に下回っていました.
本項では,敗血症を見抜くためには,血小板を見る必要性について説明しました.
まとめ
本記事では,敗血症を早期に見抜きアセスメントするために,多くの人にとってなじみ深い白血球と血小板を項目に挙げ,その採血データの読み取り方を紹介しました.
看護師は,医師のように採血データのすべての項目に目を通す必要性はないと思いますが,患者さんが敗血症によって重篤な状態に陥らないために,明日から白血球と血小板に注目してみてはいかがでしょうか?.いつかあなたが患者さんの救世主になるかもしれません.
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