抗癌剤の種類によっては、副作用によりとても強い嘔気・嘔吐を伴うことがあります。嘔気・嘔吐は、疼痛などと違い薬剤でのコントロールが難しいと感じることもあります。しかし、症状コントロールのためにできることは薬剤的介入のみではなく、多方面からのアセスメント・介入がとても重要となります。
わたしが、外来の抗がん剤治療室で担当していた50代女性のAさんは、乳がんを患っておりAC療法(ドキソルビシン・シクロフォスファミド)の抗がん剤治療を行っていました。
AC療法(ドキソルビシン・シクロフォスファミド)は、副作用として嘔気・嘔吐の症状が現れやすく、予め予防投薬として制吐剤の定期内服があり、更に頓服での制吐剤が処方されていることが多いです。
抗癌剤の副作用は、患者さんによる個人差が大きく、全く症状が出ない人もいれば、日常生活がまともに送れないほど、症状が強く出る患者さんもいます。
また、外来で抗がん剤治療をするということは入院と違って、患者さんの生活スタイルに治療の影響が大きく現れます。入院治療だと、しんどい時は横になって休むことができますし、副作用の症状が強くて困ったときには、看護師や医師にすぐに相談することができ、対処も容易です。
しかし、外来治療であると日帰りでの治療となり、翌日もしくは当日から仕事に向かう患者さんもいます。また、家に帰ればいつもの生活が待っています。仕事での役割はもちろんのこと、妻としての役割や母としての役割を担っている患者さんにとっては、副作用の症状が生活の基盤を脅かすこともあります。それに加えて、すぐ医療者に相談できる環境ではないため、症状の対処が遅れがちになり、患者さんは身体的・心理的ともに負担を感じやすいことが多いです。
Aさんは、AC療法(ドキソルビシン・シクロフォスファミド)による嘔気・嘔吐の副作用症状がとても強い患者さんでした。
Aさんは、夫と車で通院していました。外来で抗がん剤を投与後、翌日から、仕事をしなければいけない状況でした。また、仕事のほかにも家事や孫の育児の手伝いなど、日々忙しく過ごしており、多くの役割を抱えている患者さんでした。
定期内服の制吐剤に加えて、頓服の制吐剤も1日数回使用していましたが、嘔気・嘔吐の症状が改善することはなく、抗がん剤投与後2~3日は1日に数回の嘔吐と、1日中嘔気が継続しており、仕事に集中することができない、家事をしていてもなかなか進まなくて辛いといった状況にありました。
薬剤を使用しているにも関わらず、症状が改善しないことから、Aさんは「何をしてもよくならないから、諦めている。3日堪えたらそのあとはマシになるから、このままで大丈夫です。仕方ないですよね。帰ってからも、やることはたくさんあるので入院中みたいに、じっと休むこともできませんし」と通院の度に暗い表情で話していました。
薬剤を使用する以外の介入で、Aさんの症状をなんとか緩和できないかと、外来のチームでカンファレンスを開きました。
そこで、Aさんの今の状況を整理するとともに、今後できる介入・指導方法について確認し、チーム内でアセスメントしました。
①薬剤使用のタイミングを再度確認し、内服方法やタイミングについて再度指導する。嘔気嘔吐の症状が強いことを、主治医に報告する。
②Aさんの社会的環境要因(仕事・家事・育児の状況についてと、周りのサポート環境の有無と程度)を確認する。
③薬剤を使用する以外に、嘔気を軽減できる方法を考案、指導する。
上記の3つが、カンファレンスで話し合われました。
次の通院日に、Aさんに薬剤の使用方法について確認すると、定期の内服薬はしっかりと服用できていましたが、頓服の使用に関しては症状がかなり強くなってから、慌てて内服している様子でした。そのため、今後は症状が軽度のうちから内服する、また食前などに服用間隔を確認したうえで、予め内服するように指導しました。また、医師に対してもAさんの嘔気・嘔吐の症状が強いことを情報共有し、定期の制吐剤を追加処方してもらうことになりました。
次に環境要因については、仕事での役割や家庭での役割の確認、近くに手伝ってくれる人はいるか、Aさんが辛いときに、休息できる時間を確保できているか、を確認しました。
仕事は自営業の事務をしており、体調が悪くても無理して出勤しているとのことでしたが、嘔気の強い2~3日はアルバイトの人に仕事の交代をお願いし、仕事はお休みするよう調整してみるということになりました。
また、家事に関しては食事の準備や洗濯・掃除など全般を担っていました。特に、嘔気があるときに料理をすることをとても苦痛に感じていました。
同居家族は夫のみであったため、夫と相談し抗癌剤投与後2~3日は、冷凍食品や宅配の弁当を利用する、抗がん剤投与前日に、数日分のおかずを作り置きするという方法をとることになりました。
また、近所に姉と長女が住んでおり、辛いときは家事を代わりにお願いするということになりました。孫の世話に関しては、抗がん剤投与後3日間はお休みすることになりました。
Aさんは「吐き気が強いということを、家族に相談していなかった。夫に話してみると、すんなり理解してくれてしんどい時は無理しなくていいと言ってくれたのでよかった」と言いました。夫や家族に、抗がん剤の副作用について理解してもらうことで、Aさんが休息をとりやすい環境になりました。
そして、薬剤を使用する以外にも、消化のよい食べ物を摂取することや、レモン水でうがいをする、しんどい時は無理をせずとにかく横になって休むなどの対処方法を指導しました。
また、便秘により嘔気を誘発することもあります。制吐剤の使用や、食事・水分量の摂取低下により、消化管運動が抑制されるため、抗がん剤治療中は、非常に便秘になりやすいです。
Aさんに確認すると「吐き気が強い間は、便秘をしていることが多い」とのことでした。Aさんには、治療前から処方された緩下剤を使用し、予め便秘をしないように排便コントロールを行うよう指導するとともに、嘔気を誘発しないように少量ずつ水分摂取をする、可能な範囲で水溶性の食物繊維を含む食事を摂取するなど、便秘予防のための指導を行いました。
Aさんは、「これ以上できることはないと思っていたけど、色々な方法がありますね。自分ひとりでなんとかしないと、と思っていたけれど、周りに相談することができてよかったです。」と安心した表情になりました。
その後、通院時に症状を確認すると「吐き気は完全になくなったわけではないけど、レモン水のうがいがとても気持ちよくて、よくしています。あとは、しんどい時は休むようにすると、随分と楽になりました。
も3日間は休むことにしたので、とても気が楽でそれだけで少し吐き気がマシになるような気がします。
今までは、随分無理をしていたように思います。看護師さんに相談してよかったです。これなら、残りの治療も続けられそうです」と、Aさんは笑顔で言いました。このAさんの発言を聞いたとき、自分が行ったアセスメントや介入方法で、Aさんの症状が少しでも緩和されたことを嬉しく思うと同時に、諦めず多方面からのアセスメント・介入ができてよかったと、とても安堵したことを覚えています。
まとめ
患者さんの苦痛症状に対して。これ以上できることはない。と決めつけてしまえば、Aさんの症状が緩和することなく、抗がん剤を投与する度に強い嘔気・嘔吐に悩まされ苦痛な思いをし続けていたかもしれません。実際、嘔気に対しては制吐剤の効果が緩やかな場合も多く、介入が難しい事実もあります。しかし、Aさんの事例を振り返ると、症状コントロールのためにできることは、薬剤を使用することだけではなく、多方面からのアセスメント・介入・支援・指導が必要なのだと、改めて実感しました。
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