救命病棟は、チームメンバーが、それぞれの役割を果たすことで、屋根瓦式での教育支援体制強化を行っています。
具体的には 、毎月、新人看護職員全員に、「意識障害」「腎不全」など同じテーマが与えられ、個々で学習を行います。
Aさんのチームは毎月の学習の他に、 AさんのプリセプターであったBさんが指導役となり、毎月1事例、関連図を用い、病態及び観察、看護について振り返りながら学びを深めています。
特定機能病院・高度先進医療を推進している急性期病院において患者の身体・心理・社会的側面全体を総合的に、アセスメントできる看護師を育成する院内教育システムの構築 や患者の状態を基本から正確に判断できる段階的・継続的教育プログラム作成は、看護の 質を担保する上で必要であり、緊急の課題である。
1.当院看護師の経験年数別アセスメント能力の現状分析 当院は看護者個々の看護実践能力をクリニカルラダーを用いて客観的に評価し、キャリア発達を支援しているが、経験年数 5 年目以下の看護師が 6 割を占めるため経年別に現状 を分析した。
1 年目:身体を総合的にアセスメントし、必要とされる治療や看護が把握できない。業務を覚えるのに精一杯で複雑な患者状態分析などができない。
2 年目:一応業務は覚え始めるが、身体に関するアセスメント、必要とされる介入ができないのに(自信のなさ)、独り立ちを要求されるため不安が強度になり離職につながる可能性がある。
3 年目:一通りの業務は実施でき、1 年目看護師の指導も何とかできるが、身体・心理・社会的側面を総合的にアセスメントし必要とされるケアについては個人差がある。中には高度先進医療における診断と治療関連の理解が困難で、ニアミスもある。
4 年目-5 年目:受持患者と家族から情報収集し状況を判断したケアはできるようになる。しかし患者の予測性を考えたアセスメントやケアは困難である。プリセプター(実施指 者)となり後輩を指導するが、根拠に基づいた指導は難しい。病棟全体の業務と委員会役割などの業務が過重となり、燃え尽き現象が高くなっている。
2.当院の看護師教育の現状
1)プリセプターシップ制を導入しており、部署に教育担当者やプリセプター(実地指導者)を配置し、プリセプター以外の先輩看護師も協力して屋根瓦方式の教育を取り入れ、 新人指導を強化している。
2)教育支援室から新人看護師の支援と指導に出向いているが、 部署への常時配置はなされていない。
3)フィジカルアセスメント研修は、1 年目のみで 2 年目の継続的な研修は実施していない。
4)新人看護師の看護実践能力向上に向けて、安 全や感染面を重視したシナリオベースにした日常生活援助技術研修を教育担当者、実地指 導者に実施し、OJT で新人に対して指導している。
II.実践計画
1.看護実践能力技術的側面の自己評価を 1 月までに 2 年目の看護師、2 月までに 1 年目看護師に対して行う
2.12 月までに 1 年目看護師の今年度実施したフィジカルアセスメントの評価を行う
3.看護師長からスタッフのアセスメント力についての聞き取り調査
4.フィジカルアセスメント教育を強化している岡山大学医学部附属病院施設見学
5.院内教育システムや教育プログラム作成検討する
6.院内教育システムや教育プログラム提示し、看護師長会で承認を得る
III.結果
1.1 月に 2 年目の看護師に対して看護実践能力技術的側面自己評価の結果、69 項目中「一 人でできる」が 70%以下の看護技術は「関節可動域訓練・廃用性症候群予防」「体動・移動 に注意が必要な患者への援助」「人工呼吸器管理」「包帯法」「中心静脈内注射の準備、介助、 管理」「救命救急処置技術の 5 項目」「針刺し事故防止対策の実施と針刺し事故後の対応」 の 11 項目であった。これらの技術に対して同時に「自信がない」や「状況判断が弱い」の 回答から、自信のなさや状況判断能力の弱さを自覚していることが明確になった。
2 月に平成 22 年度採用者の看護実践能力技術的側面自己評価の結果、「一人でできる」が 70%以下の看護技術は 31 項目で「人工呼吸器の管理」「気管内挿管の準備と介助」が最も 低く、救急救命処置技術や総称管理技術、呼吸を整える技術も弱いことが分かった。
またインシデントの内訳を合わせてみると内服、注射、転倒転落に関する内容が 72%を占めて いる。
2.今年度2回のフィジカルアセスメント研修を実施し、直後の試験結果をみると、要ト レーニング者が 48%であった。研修評価を試験結果で比較するとステップ1からステップ 2へ繋がった効果が得られなかった。この要因として、「研修時間数が短い」「シミュレー ショントレーニングとして1回の参加者が多く、演習内容が不十分」「筆記試験の内容が難 しい」また臨床現場において振り返り学習やカンファレンスなどでの患者アセスメントを 共有する場が減少していることも影響しているのではないかと推測され、OJT で活用され ていない状況が考えられた。
ステップアップという集合研修を実施しても、それが現場で 常に体験していなければ経験知とはならない現状も明らかになった。
したがって困ったと きに、現場で新人看護師が即相談できる指導者が必要である。
3.看護師長にアセスメント力に対する聞き取り調査を行った結果、「バイタルサインデー タの値、変化など現象を観て思考し、今後どう活かすのか、つまりにつながりが弱い」「患 者の発言、バイタルサインデータ、症状、その他の検査結果などを総合して、患者状態を 把握する力が弱い」「危険予測を踏まえた観察の力が弱い。現在の患者状態からどのような 予測をするかのアセスメントが不足している」「病棟全体を把握するリーダーが不足してい る」「報告・連絡・相談など先輩看護師に支援を求めない」「モニターに依存し、五感を使 った観察が少ない」等の回答が得られた。 これらの結果よりアセスメント力を強化する必要があると考える。
4.岡山大学医学部附属病院看護部のフィジカルアセスメント研修は、段階的に入職時から4年次まで計画されており、しかも EBM に基づいたアセスメント能力向上を目指して いた。施設見学で学んだ内容を参考に当院でも次年度は患者の身体を統合的に観察,アセ スメントできる看護師育成をメイン目標に掲げ、新人看護師・指導者コースフィジカル アセスメント研修プログラムを作成し、教育担当者、実地指導者、2 年目・新人看護師を 対象別に教育していく計画を立案できた。
IV.評価および今後の課題
特定機能病院、高度先進医療を推進する急性期病院では、患者の身体に侵襲の大きい医 療機器や薬剤を用いるため、患者のその場における状況判断が求められる。今回の調査や 研修評価、施設見学で根拠に基づいたアセスメント能力を高める研修および教育システム の必要性が明確になり、研修プログラムは作成できたが、体制づくりまで踏み込めなかっ た。
患者の身体を観察し、統合的にアセスメントできるように指導者や 2 年目看護師のフィ ジカルアセスメント研修を対象別に段階的に企画できたことは、今回の研修の成果ではあ るが、それをいかに継続するかは今後の課題である。
専門職としての成長発達は、自己研鑽と臨床現場における経験者の指導が大きく影響す るため、新人が集合教育ならびに OJT の連携によるフィジカルアセスメントを確実に修得 できるように仕掛けが必要である。
人が育つ、人を育てやすい組織にするために意図的な「場」や構造つくりが今後の課題と考える
まとめ
的確な看護判断と適切な看護技術の提供
知識と根拠に基づいた看護技術の必要性の判断
→循環系のアセスメントおよび技術の必要性の理解
看護技術の正確な方法の熟知とリスクの予測
→正確な診察技術の理解
患者の特性や状況に応じた看護技術の選択と応用
→性別、年齢や状況を判断し循環系の情報収集
患者にとって安楽な方法で看護技術の実施
→技術の熟知と診察に伴う苦痛の軽減
看護計画の立案と実施した看護ケアの正確な記録と評価
→診察内容とアセスメントの記録
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