現在訪問看護ステーションで勤務していますが、同じ症状を繰り返す利用者さんに接して、アセスメントの重要性を再認識した経験があります。どのような情報を収集する必要があるのか、そしてどのように分析するべきかなど在宅においての大切なことを紹介していきます。
現在訪問看護師として勤務しています。その中で、ある事例で苦戦した経験があるので紹介したいと思います。
・何度も入院を繰り返す利用者さん
毎週訪問を行っていた利用者さんですが、ある時から急に緊急コールをすることが増えました。
それ以前は、自宅内で歩行器を使用して日常生活を送り、入浴などは定期的にデイサービスを利用して行っているという方。同じく高齢の妻がおり、二人で仲睦まじく生活をしていたのです。訪問看護を利用し始めた理由は、服薬管理という目的であり、訪問時も比較的体調は安定し、内服もきちんとできている方でした。
そんな利用者さんですが、ある時から急に緊急コールをするようになりました。緊急コールの内容は、「吐き気がする」「下痢をした」という理由です。安定していた方なので、始めのころは近隣に住む息子さんたちの送迎で受診。点滴を受けて、お薬をもらって帰るということを繰り返していました。
ただそれが症状が長引くようになったのです。始めは半日吐き気がするというだけで治まっていたのが、1日では治まらず頓服のお薬を飲む回数が増えるようになりました。それ以上に自宅でも一つ問題が発生しました。それは下痢がある、トイレに頻回に行きたくないという理由から、水分量や食事量を意図的に減らすようになってしまったのです。
そしてついには脱水と起こし入院。それを数か月に一度繰り返すようになってしまいました。
・同じような症状をくり返す利用者さんの対応は?
私たちは退院するたびに訪問を再開し、利用者さんの様子を観察、アセスメントしていました。退院後は比較的安定しているのです。また入院中からリハビリを実施し、ADLが落ちないよう早期に退院をさせることにより、自宅での元通りの生活が可能でした。このころには、自宅での服薬管理だけではなく、リハビリなども実施し、筋力の維持に努めていました。
しかしだんだんと同じような訴えがあり、嘔吐や下痢の症状で脱水を起こし入院となるというサイクルは継続したのですね。
もちろん入院中にはいろいろな検査が行われます。高齢であるため、ある程度の検査データの逸脱はありました。以前に脳梗塞を起こして麻痺もあったのですが、それ以外には大きな疾患はなく、入院中の検査データも嘔吐や下痢を繰り返す原因は見つけることが出来なかったのです。
私たちも訪問時、利用者さんの体調を把握、そして毎月医師に報告し、その都度アセスメント、不安を傾聴しながら対応するしかなかったのです。
・利用者さんの話からアセスメント出来たこと
私たちは訪問しているときにいろいろな話をします。体調のことだけではなく、世間話も。その中で、最近孫の塾や部活が忙しく、その送迎などでお嫁さんが忙しくしているという話が出てきました。忙しいため、なかなかお嫁さんがここに顔を見に来ないんだと。
お嫁さんがこないことで、自分の妻が食事や買い物などやることが増えてしまって疲れている様子だと。だから妻の身体も心配なんだと。
この話を聞いて、妻の身体を心配するあまり、利用者さんは妻に言いたいことも言えず我慢しているのかなと感じました。例えばお水を飲みたいというときも。
医師からは脱水予防のために、水分摂取は心掛けるように言われていましたが、水分をとるとトイレに行きたくなってしまう。トイレは歩行器を使って自分でいけるけれど、妻は心配のあまり必ずついてきて見守ってくれる。それが心苦しいと感じているのかなと思ったのです。
そのような心優しい利用者さん。いつも接していて、体調の変化はそのような心理的な要因も大きく関係していると私たちは感じていました。
・ある入院で利用者の考えからが大きく変化
下痢と嘔吐で脱水となってしまった利用者さんの入院はもう何回繰り返したでしょうか。私たちは退院前に実際に病院に出向き、医師や看護師、そして利用者家族と本人と面談を行うことになりました。退院前指導ですね。
その時に医師の一言が利用者の気持ちを大きく変えました。
医師は入院中の経過や検査データを見ながら言いました。「年齢も重ねてきているので、検査データにもそれが表れています。特に入院後は脱水傾向なので、腎機能を示す値が少し悪い状況です。しかし、それも点滴などをすると少し改善しています。
もともと高齢なので、腎機能が低下してきてもおかしくはありません。吐き気や下痢があるので胃腸の検査もしていますが、直接つながるような所見はありません。もしかすると吐き気や下痢は、腎機能のわるさでたまった毒素を出そうとする身体の反射かもしれませんね」と。
そのため、やはり水分をとって排尿としてしっかりと身体の毒素を出すことが大切だと言われたのです。
これを聞いた利用者は、自分は何かの隠れた病気があるのかもしれないと感じていたのですが、毒素を出す反応だと理解することが出来たのでした。そして水分はしっかりととるべきなんだと理解できたのです。
水分をとって毒素を出すことで、体調の悪化を防ぐことが出来る。それが結果的に自分や妻、お嫁さんたちのためにもなるとわかったのです。それから、利用者さんの意識が少し変化しました。そして退院後、しばらく落ち着いた生活をすることが出来るようになったのです。
・高齢者の利用者さんの心配は多岐にわたる
高齢者の利用者さんの中には、自分の身体のことを考えるので精いっぱいという人もいます。反対に、自分のことだけではなく、自分を介護してくれる家族の心配をする利用者も数多くいます。しかもその心配が過度な場合も。
そのような心理的なことが身体の症状に出てくる場合もあるのです。しかし、始めは症状が出たときになぜそれが吐き気や下痢につながるのか理解することが出来ない…。そんな時医師が症状が出てくる可能性をはっきりと伝えてくれると、利用者もしっかり理解することができるのです。
・アセスメントをするときの重要なポイント
私たちは訪問看護師は定期的に訪問をしていますが、それだけでは利用者さんの生活、習慣、病状をすべて知ることはできません。限られた時間を有効に使って利用者さんを理解するには、やはりアセスメント力が一番重要だと思います。
そのためには、退院前に病院に訪問し、医師や看護師、家族などと面談をして情報収集をすることも重要ですね。それを知るだけでみんなで共通する認識で利用者さんに接することが出来るのです。今回は一症例を紹介しましたが、末期や緩和ケアの方の訪問の場合には、特にサポートする周囲の介護者で共通認識することは重要です。
訪問看護をするときには、病院とは異なり、自宅での環境が大きく影響する場合があります。またその環境には、介護力という問題も含まれます。そのような意味で利用者さんだけではなく、家族からの情報収集も重要になります。そのような包括的な視点で接することで問題を見つけることができるのです。
まとめ
訪問看護で経験した症例のアセスメントについて紹介しました。在宅へ訪問するという場合、医師、看護師だけではなく、家族も含めた包括的なサポートが重要になります。これまで得た知識や技術を活用しながら、包括的な視点で情報収集やアセスメントをすることがとても重要だと日々感じています。皆さんもぜひ参考にしてくださいね。
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