尿路感染で入院してきた患者。入院してきた状態を確認してみると、尿の混濁はなく、下肢に発赤と熱感をもっていました。診断を再度しなおしてもらってところ、下肢の蜂窩織炎という診断へ変更となり治療内容も変更となった。看護師にもアセスメントが必要、医師の判断を鵜呑みにせずに自分の目で状態を把握していく必要がある。
90歳台の男性、自宅で家族と生活している方です。
既往に糖尿病、高血圧、心房細動等の疾患がある方でした。自宅で歩けなくなり、体動が困難になったということで救急車を要請され自分が勤務している病院に運ばれてきました。外来時の診察で、医師より尿路感染ということで入院となりました。
入院後、尿バルーンを挿入されていたため、その尿バルーンにでていた排尿の状態を確認すると、別に浮遊物があるわけでもなく、尿混濁しているわけでもなく、むしろ年齢の割にはきれいな尿だと感じました。身体の熱感はややありましたが、37度台半ば、確かに意識レベルは乏しい状態でした。
再度、全身の状態を確認してみると下肢の太ももに赤く発赤した部分があり熱感を持っていました。本人からも「足が痛い、足が熱い」という、訴えもあり動かしにくそうな動作をしていました。家族からも「数日前から動けなくなってしまいました。ご飯もあまりたべなくなり、水分も取れなくなっていました。いよいよ動けなくなってしまったので救急車を呼びました。」という、話を入院してきた際に聴くことができました。
看護師としての視点でアセスメントを行い、検査結果をみてみると、尿混濁はなかったのですが、炎症反応(CRP2桁)は高い状態でしたが、腎機能は年齢の割には保たれており、血尿も混濁もない状態でした。
採血結果を確認すると、糖尿病疾患はもっていたものの血糖値も200mg/dl台後半でした。凝固系はさほど問題なし、ケトン体はマイナス、PHもアシドーシスにはなっていない状態でした。両下肢の足背動脈は触知でき、膝禍動脈も触知可能、下肢のチアノーゼはありませんでしたが、末梢の冷感はある状態でした。ただ、意識レベルが年齢の割にも低かったので、頭部の疾患の可能性も考慮しながら、または活動レベルが落ちてしまっていたことで、食事や水分があまりとれていない状態だったのではないかとアセスメントをしました。
上記、患者の状態を医師に報告したところ、他のDRとともに再度検討をすることになりました。
再検討の結果、下肢の蜂窩織炎ということで診断名と治療方針の変更(抗生剤の内容変更、追加検査など)となり、そのまま入院が継続となりました。治療内の変更に伴い、医師に再度検査項目の追加がないかを確認しました。糖尿病合併症を抱えた患者の場合、糖尿病合併症をアセスメントする際には、炎症反応が高く、蜂窩織炎だと筋膜炎を合併している可能性やCKの上昇からくる心機能の悪化、電解質異常につながるリクスが高くなることが予測されるため、考えておくことが重要です。
必要な看護としては、病態のアセスメントに伴い、下肢の蜂窩織炎の悪化がないかを経過観察すること、熱系パターンの変動がないかを確認することが重要となります。
例えば、発熱のある高齢者に熱だけを下げようとして、点滴や内服薬の解熱剤等を使用すると、血圧が下がりバイタルが悪化する可能性があります。
特に非ステロイド性抗炎症薬 (NSAIDs、ロキソニン等)は、腎機能が悪化した患者や高齢者に使用すると、腎機能の悪化をさらに招き、ショックバイタルになることがあります。
使用する際には、細心の注意が必要であり、熱がある=解熱をするというアセスメントで安易に使用してしまうと、病態の悪化・バイタルの悪化を医原性に招くことがあるので、注意が必要です。
抗菌薬を使用することが多い場面ではありますが、敗血症の危険性もあるため細菌培養の検査も時に必要となってきます。
また、下肢の状態の緩和として患部の冷却も必要ですが、身体を自分で動かせない状態の患者に対して行ってしまうと、低温熱傷などの2次災害を起こす可能性もあるため安易な使用はひかえることを心がけています。そのため、体熱感が継続しているが末梢冷感がのこっているのであれば、体温がまだこの先も上昇する(炎症による反応で熱が上がりきっていない可能性)可能性があるため、加温するために掛け物を厚めにあげたり、電気毛布を使って体温を上げたり、室温を調整し環境の調整を行っていきます。また、逆に体熱感もあり末梢冷感もなかった場合には発汗を促すために掛け物をはずしたり、室温を下げたりと体温調整力が落ちた患者に対して、外部からの温度調整を行っていきます。ただ、患部の炎症の悪化が体温上昇とともに考えなければならないので、患部の観察は看護として継続していく必要があります。いずれにしても、その病態・現象・患者の状態に合わせて、必要となる医療・看護の提供を行っていく必要があると考えます。
また、糖尿病があり炎症反応が高いということは、その時は血糖値が安定していても炎症反応とともに血糖値も上昇することが病態上も考えられるので、意識レベル・尿の状態、体温、口腔内の状態(乾燥していないか、アセトン臭はないか。
つまり高浸透圧性ケトアシドーシスに傾いていないか?を確認すること)、血糖変動パターンを継続的に把握した看護を提供をしていく必要があります。
血糖値が高い状態が継続する場合には、インスリンのスライディングスケール等の対応が必要とされる場合が多いので、医師に指示や状態の把握の仕方については確認と相談をしていく必要があります。
また、内服薬やインスリン注射投与をしている場合もあります。その際は、SU剤を内服していないか?または、即効性の高い血糖降下薬を内服していないか?ひいては、薬の管理はどのなたがしているか?等のアドヒアランスについても、患者本人や関わる家族他に確認が必要なケースもあります。
今回、年齢も高く、自宅で動けなくなっていた、活動レベル・意識レベルも落ちている、発熱(しかも高体温ではない)、血糖は200mg/dl台後半、下肢の発赤と疼痛がある、検査結果上も炎症反応が高い、腎機能も低い、ケトアシドーシスには傾いていない、という状況をアセスメントしたところ、入院時の検査で筋膜炎や心機能の悪化の状態把握指標の一つとなるCKの項目がとられていないことが分かりました。今後の悪化のする可能性や現段階の状態の把握を残しておいた方がいいのではないかと考え、医師にインスリンスケールの指示の確認ととともに検査結果の追加等について相談をしました。
その後、他の医師とも相談をしてもらえ、検査項目の追加(CK項目も追加等)、次回検査日を早めたこと、インスリンスケール指示をいただけることになりました。また、家族にも状態の変化と今後の治療について再度説明をしてもらえることになりました。入院、数日後には炎症反応も落ち着きADL改善のためにリハビリも開始となりました。その後、徐々に介助は必要なものの歩けるようになり、食事も自分でなんとか摂取できる状態まで回復することができました。全身状態を把握することは、看護師の仕事であり必要なことであると、改めて学んだ事例でした。
まとめ
医師の指示がすべて正解ではなく、時に人間なので見落とすことや指示の出し忘れなどがあります。もちろん、看護師は医師の指示があって療行為をするもの、看護を提供するものではありますが、自分で患者の状態をアセスメントすること、検査結果等を確認していくこと、疑問に思うことは必要なことだと考えます。医師と一緒に医療を提供する者、患者・家族とともに治療経過・内容に納得をしてもらうことは、医療の質を担保していく上ではこれからの時代には必要な事ではないでしょうか?
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