私は新卒から3年間、大学病院で勤務していました。そこで勤めていた病棟は、院内で2番目に亡くなる患者数の多い所でした。私は終末期看護が苦手でしたが、ある患者様との関わりを通して、苦手意識を克服することができました。苦手意識の原因として、アセスメント能力に問題があったのです。私が実際に行った終末期看護を、アセスメントのコツを踏まえてお話ししたいと思います。
【終末期看護が苦手だったころの私】
私の中で、「死という概念に対して安易に触れることは禁忌ではないか」という考えがあり、死に直面した患者様やその家族とどう関わっていいものか戸惑う私がいました。病棟内で多くの患者様を看取る機会が多く、死に直面した患者様やそれを悲しむ家族に対して看護師としてできることはあるのか、葛藤する日々が続いていました。
【終末期看護に対する考え方が変わるきっかけとなった出来事】
私が勤めていた病院は看護方式としてチームナーシングとプライマリーナーシングを実施していました。今までチーム内の担当である患者様の終末期看護に関わったことはありましたが、実際にプライマリーナースとして終末期の患者様を担当したことはありませんでした。ある日、終末期の患者様(以下Aさん)をプライマリーナースとして担当することになりました。終末期看護に対する苦手意識もあってか、プライマリーナースでありながら、Aさんや見舞いに来る家族に対して当たり障りのない会話しかできず、深く関わっていくことができませんでした。
このままでは看護師としての役割を果たせていないと思い、病棟内での看護師ミィーティングで、看護師として無力感があり、悩んでいることを発信しました。すると、院内で実施されているターミナルケアについての勉強会を先輩方から勧められ、参加することにしました。
【終末期看護が苦手だった理由】
ターミナルケアの勉強会に参加した私は、キューブラー・ロスの看護段階とそれに対応した看護の実施について、事例を踏まえて学びました。また、その中で、家族の死に対する心理的プロセスについても学びました。
勉強会に参加して感じたことは、死に対して無知がゆえに、触れてはならない禁忌なのではと思い込んでいた自分がいたことに気づきました。知識がない故に、終末期看護における、アセスメント材料を自身が持ち合わせておらず、看護実施まで至っていなかったのです。
上記の気づきにより、死にゆく人やその家族の心理過程を踏まえながら、死に対しての話題をAさんやその家族と話してみようと思えるようになりました。知識を得たことによって、このような声がけがいいのではないか、この場合には傾聴のみにとどめたほうがいいのではないかというような、状況に応じてアセスメントできるようになり、具体的な看護実施内容が思い浮かぶようになったのです。
【キューブラー・ロスの死の受容過程】
第一段階:否認と孤立
自らの命が危機にあり、余命があとわずかである事実に衝撃を受けます。それを頭では理解しようとしますが、感情的にその事実を否認している段階です。周囲は、この事実にもとづいて考えを進め、そうした周囲から距離を取り、孤立することになります。
第二段階:怒り
自分が死ぬという事実は認識できた上で、「どうして悪いことをしていない自分がこんなことになるのか」「もっと悪いことをしている人間がいるじゃないか」というような怒りにとらわれる段階です。ケースによっては、看護師などに対して「あなたはいいね、まだまだ生きられて」といった皮肉のような発言をすることもあります。根底には死に選ばれたことへの強い反発がある状態です。
第三段階:取り引き
信仰心がなくても、神や仏にすがり、死を遅らせてほしいと願う段階です。死ぬことは理解したが、待ってそしい気持ちや、財産を寄付したり、これまでの行為も改めるといった「取り引き」をしようとします。
第四段階:抑うつ
「ああ、これだけ頼んでもダメか」「神も仏もないのか」というように、自分なりに神や仏に祈っても、死の回避ができないことを悟る段階です。悲観と絶望に打ちひしがれ、憂うつな気分になっています。頭で理解していた死が、感情的にも理解できるようになります。
第五段階:受容
それまでは、死を拒絶し、なんとか回避しようとしていましたが、生命が死んでいくことは自然なことだという気持ちになります。個人差もありますが、自分の人生の終わりを、静かにみつめることができるようになり、心に平穏が訪れる段階です。
【家族の死に対する心理的プロセス】
第一段階:衝撃と無感覚の局面
大切な人の死に直面し、頭が真っ白になったような衝撃を受ける段階です。衝撃が大きく、無感覚になってしまったりします。
第二段階:否認の局面
大切な人の死を認めることができずに、否定する段階です。突然死の場合は、否認が顕著に表れることが多いです。
第三段階:苦悩する局面
死を確信するものの、否定したい感情が合わさり、パニックになります。また、「なぜこんな目に合わないといけないのか」という不当感と、死に至った原因に対し怒りを感じる段階です。やり場のない敵意や恨み、自分を責める罪意識を感じることもあります。
第四段階:受け入れていく局面
自分の置かれた状況を受け入れ、つらい現実に向き合おうと努力が始まる段階です。こわばっていた顔に、微笑みが戻り始める段階で、大切な人の死という永遠に続くような苦しみも、いつかは必ず希望を見出すことができます。
【勉強会参加後に行った、アセスメントを用いた実際の看護】
勉強会後、キューブラー・ロスの看護段階 を用いてアセスメントを試みました。上記の看護段階において、Aさんは「取引」と「抑うつ」の段階、家族は「苦悩する局面」にいるとアセスメントし、死いくことは理解しているが、死にいくことに対して、身体的・精神的にこれからどうなっていくのかイメージできていないと判断しました。今回の私がそうだったように、知識を得ることによって、死に対しての考え方に変化を及ぼすことができると考え、終末期における身体的・精神的変化についてのパンフレットをAさん用と家族用に作成しました。
ですが、そのパンフレットを渡すタイミングについて考えた時、いきなり渡してしまうと、とっつきにくさを感じ、嫌悪感のみ与えてしまうと思い、悩んでいました。
そんな中、DNAR(蘇生に成功することがそう多くない中で蘇生のための処置を試みない)についての意向を確認するためのインフォームドコンセントを実施したいと担当医師より私に相談がありました。インフォームドコンセント内での流れであれば、違和感なく、パンフレットについての話が切り出せると考え、その機会にそのパンフレットを渡したい旨を医師に情報共有し、パンフレットについて説明する時間を作っていただきました。
説明後は、Aさんやその家族から終末期に向かう上での変化について理解できたと発言がありました。
その後、Aさんは穏やかに最後を迎えることができ、家族からは感謝の言葉をいただきました。
その言葉を聞き、私の中で終末期看護への苦手意識が無くなりました。その後の終末期看護においては、アセスメントを踏まえ、適切なタイミングで情報提供したり、話の傾聴のみにとどめたりと、適切な看護を実施することができるようになりました。
まとめ
どの分野のアセスメントや看護実施においてもそうですが、知識がなければ知らず知らずのうちにアセスメントすることを放棄し、看護実施に繋げることができなくなっている可能性があります。今回の事例でアセスメントにおいて知識をつけること、特にその事例に適した看護理論を知り、それに当てはめることによって、アセスメントの幅は大きく広がることを実感しました。アセスメントを充実させるために苦手意識を放置せず、苦手打開のために知識づけを日々行っていくことが大切です。
そして、今回の私がそうだったように、アセスメントに悩んだ時は周りに相談してみてください。今、チーム医療と言われる中で、多くの人がアセスメントにおける助言をくださると思います。
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