みなさまの働く施設に、病気を抱える妊婦さんはいませんか?
またはこれまで働いていた際に、病気を抱える妊婦さんと関わったことがあったけど対応が難しかったなと感じたことはありませんか?
妊婦さんへのメンタルヘルスアセスメントと看護を中心に臨床で活動している看護師が、そのポイントについてお伝えさせて頂きます。
病気を抱える妊婦さんとの関りに、難しさを感じたことはありませんか?
近年は生殖補助医療の発展に伴い、病気を抱えながらも妊娠出産する女性がとても増えています。そのため持病のコントロール目的に妊婦さんが内科や外科に入院することも増え、産科の助産師さんだけでなく、産科以外の看護師さんが病気を抱える妊婦さんと接する機会もとても増えています。
看護師さんから聞かれる多くの声は、病気を抱えている妊婦さんに対してどのような声掛けをしたらいいのか分からない、という内容です。
看護師さんは通常、【病気の患者さんを診る】という視点で看護を行っていますので、妊娠という病気ではない正常な経過を見るということに対して戸惑い、どのように声を掛けていいか困ってしまうということが多いようです。
病気を抱える妊婦さんは病気のことだけでなく常に赤ちゃんへの影響を心配していて、その心配や不安に対して「病気を抱えていて不安だと思うけど、何と言ってあげれば良いか分からない」とどのように対応すれば正解なのか、と悩んでいる看護師さんがたくさんいます。
そこで今回は病気を抱える妊婦さんのメンタルヘルスアセスメントと看護をお伝えさせていただきます。
妊娠した女性は、喜びに満ちていて周囲から見ても幸せオーラが出ているように思いませんか?もちろんその感情のまま楽しい妊娠期を過ごす方も大勢います。
しかし多くの女性は、妊娠して嬉しい気持ちと同時に、大丈夫かなと不安な気持ちを抱えながら妊娠期を過ごすことが多いことは、すでに多くの研究で分かっています。
妊娠前までは自分の世界だけで生き、全て自分で選択した道を進んできました。しかし妊娠したとたんに漠然とした不安や責任感が生まれ、こんな私が母親になれるかなという気持ちを抱えながら妊娠期を過ごす妊婦さんが、実は多いのです。
さらに病気を抱えている妊婦さんは「病気がある私が、赤ちゃんを無事に産めるのかな」「私に病気があるせいで赤ちゃんに苦しい思いをさせてしまってるのではないかな」「病気を抱えながら普通に子育てができるのかな」など、“病気を抱える私と赤ちゃん”というものを常に結び付けて考え、不安を抱えて妊娠期を過ごしていることが多いです。
つまり多かれ少なかれ病気を抱えている自分に対して自信がない状態が浮き彫りになっている状態、すなわち自己肯定感が下がっている状態なのです。病気を抱える妊婦さんと接する際はその気持ちに焦点を当ててメンタルヘルスアセスメントと看護を行う必要があります。
実際の事例Aさんを紹介します。
Aさんは甲状腺疾患を抱えた妊婦さんです。甲状腺疾患を抱える女性は不妊症を合併している方も多く、妊娠するまでに数回の不妊治療を繰り返しようやく妊娠に至りました。甲状腺疾患による投薬治療をしているため、一般的なクリニックでは管理できないと分娩を断られ、3か所目の総合病院でようやく分娩場所が決まりました。
Aさんの妊娠経過は正常で甲状腺疾患も悪化することなく、母児共に順調な経過を辿っていましたが、妊婦健診では常に表情が暗く、何度も医師に「本当に順調ですか?」と尋ねる姿が印象的でした。
順調な妊娠経過を信じきれないAさんの背景には何か大きな不安があるのだろうと感じ、私はAさんに声をかけました。するとAさんは以下のように話したのです。
「子供が欲しくて不妊治療を頑張っていたけど、病気を持っている私は神様から妊娠したらいけないと言われているような気がしていました。夫は子どもが大好きなので3人欲しいねって言ってたのに、子どもがしばらくできなくてだんだん夫に申し訳なく思えてきて。私を選ばなければ夫にこんな思いをさせることはなかったのに…と離婚も考えたこともありました。ようやく妊娠したけど、素直に喜べない自分がいて赤ちゃんに申し訳なく思っています。こんな私が母親になれるのかなと自信がなくて。私が薬を飲んでいるせいで、赤ちゃんの発達に影響を与えてしまうんじゃないか、赤ちゃんにも将来遺伝してしまうんじゃないかと考えると不安で不安で。先生にいくら順調です、問題ないですと言われても信じられなくて…こんな私がお母さんで赤ちゃんに申し訳なく思うこともあります」と、泣きながら話してくれました。Aさんのお話を聴いて、みなさんはどのようなメンタルヘルスアセスメントと看護を行いますか?
先ほどお伝えしたように、以前から甲状腺疾患を抱えたAさんは、自分のせいで夫との間に子どもが望めないかもしれない、大好きな夫の望みを叶えてあげられなくて申し訳ないと病気を抱える自分を責めてしまっていました。不妊治療の日々が続くにつれて、やがて悲観的に物事を捉るようになり、神様からもそう言われていると偏った思考に変化していることが分かりますね。そのように考えてしまうほどAさんが辛い日々を過ごしてきたということを、まずは受け止めてあげましょう。
―大好きな旦那さんの望みを叶えてあげることができないと思って苦しかったんですね―
―私でなければ、という思いがだんだん強くなって、苦しかったんですね-
このような声掛けをすることで、Aさんは自分の辛さや苦しみを分かってもらえたと実感することができ、少しずつ心の開放が始まります。つまり看護師とラポール=信頼関係が構築されていきます。
次に、妊娠したけれど嬉しい気持ちの半面、素直に喜べない自分がいること自体が赤ちゃんに申し訳ないとAさんは感じているようですね。また病気を抱えていることで赤ちゃんに影響が出てしまうのではないかと考えて申し訳なく思っているようですね。ここではエビデンスに基づいて正しくAさんに伝える看護が大切です。
―妊婦さんの半数以上が、嬉しい気持ちと不安な気持ちを持ち合わせながら過ごしています。その気持ちは普通のことですよ―
―病気を抱えながら妊娠されている方の多くが、Aさんと同じように赤ちゃんに対して同じ気持ちを感じていますよ―
つまり、Aさんの考えていることは異常なことでもなんでもなく、当然のことなのですよと伝え安心してもらえるような関りが必要です。こんな気持ちはおかしいと思われるのではないかと誰かに自分の気持ちを表現することをためらう妊婦さんが多いため、何を言っても大丈夫ですよと受け止めてあげてください。すると妊婦さんは安心感を得て、次第に心の内を打ち明け始めるようになります。
さらに、医師に大丈夫と言われても安心できない気持ちやそんな風に考えてしまう自分が母親で申し訳ないという、自分自身の思考癖や自己肯定感の低さをAさんは表現していますね。
―自分はそんな風に考えているということに、まずは自分で気づいてあげましょう―
と、自分自身の気持ちに気付かせてあげることやその気持ちを持つこと自体に善悪がないということを伝えてあげてください。そのままのあなたで良いということを伝えてあげてください。
また、赤ちゃんに対して申し訳ないと感じている妊婦さんに対しては、
―赤ちゃんの母親として赤ちゃんのことを大切に思うからこそ、苦しいのですね―
と、もうすでに赤ちゃんの母親としての苦しさであることに気付かせてあげてください。人は自分のことでなく大切な存在のために苦しむことができる美しい生き物です。素敵なお母さんですね、と妊婦さんに伝えてあげてください。
このようなAさんへの関りを重ね、Aさんは次第に母親としての自分はこれで良いと自分を受け入れられるようになっていきました。妊娠中にちょっとした不安が出てきても「赤ちゃんのことを大切に思うから不安なんだな」「それで良いんだ」と自分の感情や思考が整理できるようになり、妊婦健診では不安は減り、医師に積極的に質問するようになり表情も変化していきました。私はそんなAさんを「それで良いですよ」と常に肯定し、少しずつAさんの自己肯定感は向上していきました。
出産を終えたAさんが「病気を抱える私でもこんなに立派な子を産めたことが、私の人生の誇りです!」と話したことが、今でも私の中で印象的な言葉として刻まれています。
まとめ
一人の女性が母親になるという過程では、様々な心理的変化が起こることが当然です。
病気を抱える妊婦さんへのメンタルヘルスではまずは傾聴と共感、妊婦さんの思いを受け止めてアセスメントを行い、自己肯定感にアプローチすることが看護の基本となります。
病気を抱えている自分を責めている妊婦さん、病気のせいで元気な赤ちゃんを産めないのではないかと感じている妊婦さん、自分の病気のせいで自分の夢や家族の夢が叶えられないのではないかと恐怖を抱えている妊婦さん…全て当然の思いなのです。それを受け止めてあげてください。すべての思いは、わが子を大切に思う母心から湧き上がるものなのです。
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