私はアセスメントとは病態や数値から考え、患者に合った援助を行っていくことが必要だと思い、そこに重点をおいていました。しかし、入院してきた胃がんの患者との関わりを通じて、深く患者を理解していくなかでアセスメントの幅が広がり、より良い個別性のある看護に繋がったため今回紹介させて頂きます。
はじめに、ひとえにアセスメントといっても多岐に渡ります。バイタルサイン測定の数値、採血データ、患者の仕草や表情など見るべき視点が多くあります。アセスメントをするためにはまず身体の仕組みや病態整理、数値の正常値、また患者の看護をする上でその患者のことをよく知る必要があると思います。私が勤務している時にアセスメントの重要性、またアセスメントするためには何が必要となってくるのかについて再認識した事例があったので紹介させて頂きます。
私は一般病棟に勤めており、消化器内科に所属しています。私がまだ病院に勤務して1年目の秋の話しでした。ある日胃がんの患者さまで化学療法目的に入院した患者がいました。最初は日常生活動作は自立しており、腹痛もなく穏やかに過ごしていたのですが、徐々に病状が進行し、状態が悪化しているなかでの化学療法は危険と判断され、今後は治療は行わず緩和方向に進むこととなりました。
医師から患者にその話しをした時、患者はとても落胆しており、「もう治療できないってことはここにいる意味あるのか。もう何もしてくれないってことなんだろ。あなたに言っても仕方ないか」と話してきました。
私はまだ1年目ということもあり業務を覚えるのが精一杯で、患者のことを考えている余裕がありませんでした。またそのような病態が悪化している患者にどう接すればよいか分からず患者を遠ざけていました。また患者がそのような思いを話してくださったのにその思いを受け止めきれず、何も援助することができなかったことが今でも辛い経験となっています。
ある日、バイタルサイン測定を行おうと病室に行った際に外でお祭りをしており、患者はそれを病室の窓から眺めていました。お祭りが好きなのか尋ねると「秋になると祭りにいつも参加していたのさ、仲間と一緒に山車担いで、バカ騒ぎよ。
もうあそこに行くとはできなくなってしまったな。なんでこんな病気になってしまったんだかな」と楽しそうな中にも少し悲しげな表情も交えながら話されていました。お祭りを見ている表情はとても楽しそうで、患者のそんな笑顔は見たことがなかったので正直驚きました。
その時私はこの患者のことをよく知ることができていなかったと痛感しました。日々業務に追われ、病態や数値のみに目がいきがちになり、看護をする上で大切な患者のことをよく知って理解しアセスメントするということを疎かにしていることに気付きました。
このままでは学生の頃に思い描いていた患者一人一人に寄り添った看護を提供するという目標から離れてしまうと感じ、そこからは患者の体調を考慮しながらコミュニケーションを図り、患者のことを良く知ろうと意識しながら関わりました。
またコミュニケーションだけでなく、面会にきた際に家族から患者の生活背景や家族だからこそ知っている患者の心情などを聴取しました。
家族から聴取したなかで、患者は辛くてもあまり口に出さないタイプで、どんなに辛くても我慢するという情報を耳にしました。
胃がんのステージ4でたしかにあまり痛みを訴えるような言動はなかったので患者に痛みはないか尋ねると、「実は結構痛かったのさ。まあ我慢していれば治るかなと思ってさ。じゃあ薬飲もうかな。」と疼痛が持続していたことが発覚しました。
やはり患者だけでなく家族から見ての患者の考えや行動もとても大切な情報となることに気付きました。
その情報から看護師間で共有して、表情や行動から痛みがないか観察を行い、またこちらから痛みの程度はどうか確認していくこととしました。確認する度に痛み止めを使いたいという希望が聞かれたので、家族からの情報がとても参考になった場面でした。
また私と患者の関わりのなかでたわいないことでしたが患者の好きな食べものや嫌いな食べもの、趣味や好きなテレビなどたくさんのことを話しました。好き嫌いな食べ物の会話を通じて栄養士と相談しながら病院食でも嗜好物を出せるように工夫してもらいました。
そうしたことで、患者は今まで半分以上は残していた病院食をほとんど残さず食べるようになりました。
また家族より果物が好きだということで、医師に相談し、持ち込み食も食べて良いと許可を頂き、家族が持ってきたものを食べていました。中でも家族が作る煮りんごがとても好きなようで毎食毎に体調が悪くてもそれだけは食べていました。
また病状の進行によりテレビも自分でつけることができなくなってきた時は相撲が好きと言っていたので相撲中継が始まる時間にテレビをつけてみれるようにしました。そのような行動をするうちに患者から看護師に色々な話しをしてくださるようになり、徐々に信頼関係が構築できていたのではないかと感じました。
その後さらに病状は進行し、自力で動くことや話すこともできなくなっていきました。
家族に医師から病状説明を行い、今後は治療は困難なこと、急変時は心肺蘇生は行わずそのまま自然に看取る方向となりました。
その数日後、家族より祭りの仲間が病院の前で祭りを見せて元気づけてやりたいと言っているが見せてあげることはできるかという希望が聞かれました。
患者の状態を考えるととても危険な状態でしたが医師と相談し、病院の玄関先まで車椅子で連れて行き、そこで看護師が同伴のもと祭りを見て頂くように調整しました。すでに患者はほとんど傾眠がちで活気がないような感じでした。
ですが祭りが始まると目を開けて穏やかな顔で仲間と握手をしたり、話すこともままならない中、頑張って仲間に思いを伝えようと話していました。
しばらく傾眠がちだった患者がまたこうして表情穏やかに身体を動かしたり、話している姿を見て改めて家族やその患者の大切な人の支援の大切さに気づいた場面でした。
その後、その患者は家族や祭りの仲間が見守る中、お亡くなりになりました。
入職して初めて患者のことをよく知り、深く信頼関係を構築してきた中での患者の死は私にとってもとても耐え難い悲しみでした。
家族はそれ以上に深い悲しみだと思うとなんと声をかけたらよいか分からずただ後ろから見守ることしかできませんでした。
ですが家族からは「お父さんにお祭りを見せてあげることができて良かった、後悔はないです。本当にありがとうございました。」と語って下さいました。
その言葉に私も思わず涙を流してしまい、患者や家族のために初めてちゃんとした援助ができたのではないかと感じることができた場面でした。
以上が事例紹介とその中で感じたできごとでした。
今回この事例を振り返った際に気づいたこととして、アセスメントをするためには情報が必要であり、それが多ければ多いほどより良い看護に繋がっていくと実感しました。
今でも働いて感じるのは情報が少ないとアセスメントができず患者への対応も浅くなりがちです。
働いていると受け持ち患者も多くなり、ひとりひとりに費やす時間も限られてはきますが、良いアセスメントをするためにも少しでもより多くの患者と接する機会を作り、関わりを増やしていくことが大切だと感じました。
まとめ
私はアセスメントとは病態整理や数値などからアセスメントし、そこから患者に対してどんな援助を行っていくのかということばかり考え固執していました。確かに間違ってはいませんが、先程紹介した患者と関わり、その関わりの中で患者のことを深く知ることができました。患者のことを良く知ることでアセスメントの幅は広がり、より良い個別性のある看護に繋がっていくを実感しました。皆さんもぜひ患者のこともよく理解し、より良いアセスメントに繋げて下さい。
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