脳梗塞が既往にある高齢患者で意思疎通が図れない方である。誤嚥性肺炎により全身悪化が悪化し、侵襲的処置を行なうか緩和ケアを行うか患者の代理意思決定を行なった家族が思いを表出できていなかったため、意図的に介入し思いの表出を促し、患者との最後の時間過ごすことができた事例
患者は、80歳代の女性です。既往歴にCOPD、誤嚥性肺炎、多発脳梗塞があり3年前から構音障害があり自身の意思を表示することが困難でした。脳梗塞や廃用症候群が進行したことで嚥下障害があり胃瘻での栄養管理されていました。そのため、家族だけの介護は不可能と判断し、リハビリ病院で療養していました。リハビリ病院には誤嚥性肺炎の診断で療養していましたが、発熱、尿量低下などの全身状態の悪化を認め、人工呼吸器の装着と全身管理の目的で当院へ救急搬送されました。搬送時に付き添いされていたのは、同じ市内在住の娘2人(以下家族と略す)でした。
当院の救急診察後、医師から家族へ「高齢やCOPDがあることで挿管しても誤嚥性肺炎を繰り返す可能性が高く、抜管をすることは難しい。抜管できたとしてもいずれまた肺炎を起こす。なので挿管したら気切を行い、このまま一生人工呼吸器に繋がれた生活を送らざるを得ない。それか、このまま酸素投与を行い呼吸が楽になるように麻薬を使う方法がある。麻薬を使うことで呼吸は楽になるが呼吸が止まる可能性があり亡くなられる可能性もある」と伝えられ、人工呼吸器のリスクの説明と、酸素療法を継続し、苦痛なく過ごす麻薬の皮下注射を使用して緩和ケアの説明が行われた。A氏にアドバンスケアプランニング(以下、ACP)はなく、夫は1年前に他界していました。そこで家族に代理意思決定が求められ、話し合いの結果、緩和ケアを希望されました。
医師からの説明後、病状説明に同席したスタッフの看護師に病状説明後の家族の状況を確認しました。すると、その看護師は「入院の説明してきましたけど、大丈夫でしたよ。
入院繰り返しているから慣れているのかもしれないですね」という回答でした。
しかし、私は短時間で代理意思決定をした家族はフィンクの理論では衝撃と動揺と考え、医師の説明が十分に理解できていないのではないかとアセスメントしました。また、母親の生死を決定するような選択を託された家族はストレスを抱えたり、何か感じていることがあるはずだと思い個別で話を聞きに行きました。
そこで私は、待合室で入院書類を記載している家族へ「先生の説明はわかりましたか」と声をかけました。
すると、書類を書いていた手を止め、涙を流しながら「私は大丈夫です。」と何度も言われました。私は、この反応は衝撃による反応と捉え、悲しみの表出が必要であると感じ個室への案内を伝えましたが、「私は大丈夫です。私よりも母親のそばにいてあげて欲しいです。
よろしくお願いします」と言いながら、涙を流していた。
A氏は酸素投与と麻薬投与により呼吸状態は安定していることを伝え、待合室であり、他患者や家族が行き交う場でもあったため、再度「ここでは人通りが多く、ゆっくり書類が書けないのではないでしょうか」と促すと、「確かにそうですね」と同意し面談室へ移動してくださいました。
その後、面談室に入り、ドアを閉め椅子に座るなり激しく泣かれました。
私は、感情の表出をさらに促すために、椅子に腰掛け家族と目線の位置を合わせ背中をさすりながら、無言で付き添いました。
しばらくすると、落ち着かれた様子があり、話ができるかどうか尋ねると、家族が頷かれました。
私は再度「先程の先生の説明はわかりましたか。突然の話でびっくりしましたよね。」と尋ねると、娘は頷かれ「そうですね、こんなに悪くなっていると思いもしませんでした。最近は、コロナでほとんど面会もできていなかったので。今考えると、胃瘻も作らなくて良かったかなと思います」「少しだけでも食べられたらと思い、前向きに挑戦したんですけど、胃に穴を開けるような辛い思いをさせてしまった。
こんなことになるなら、もっと早く楽にさせてあげるべきだったのかなと思います」と、これまでの経験に思いを馳せておられた。胃瘻造設はA氏には侵襲的な処置であったかもしれないが、A氏は家族の思いを理解しておられたと推測し、これまでの家族の意思決定の肯定が必要であるとアセスメントし、「これまでA氏が脳梗塞や誤嚥性肺炎などの生命の危機的状態を乗り越えられてこられたのは、家族の思いが伝わっていたからではないでしょうか」と伝え、併せて「これまで何度も大きな決断をされてきたのですね。
このように決断されたことに正解も間違いもありません。よく、がんばられましたね」と家族を労いました。
家族の表情は冴えなかったが「はい、ありがとうございます」と返答し、「少しでも母の近くにいてあげたいんですけ、付き添うことはできますか」と質問がありました。
この時はコロナ禍で家族の面会は制限されている状況でした。そのため、主治医や師長に状況について説明し、PCR検査の陰性が確認できるようなら面会できないかと提案しました。
すると、主治医、師長ともに面会に承諾したため「面会時間以外でも付き添うことができますよ」と伝えました。今後も継続した家族ケアが必要であると考え、緩和ケア認定看護師にも情報提供を行い、介入を依頼しました。私はそれから3日後に再度受け持つことができました。
その時も家族は交代で面会していましたが、大分疲れている様子でした。私は「患者さんは私たちが診ていますから、ご家族の皆さんも休む時間を作ってくださいね」と伝えました。
家族からは「ありがとうございます。母ががんばっているのに、私が休むのは申し訳なくて・・・。それに、離れている間にもしものことがあったらと思うと、なかなか離れられないんです」と発言しました。
その時は入院時より酸素量を下げることができていたので、医師に説明を依頼し今すぐの急変の可能性は低い説明をしてもらいました。すると、家族も安心されたようで一度帰宅されました。
それから、2日後に呼吸状態が安定していることや個室で家族だけの時間を過ごしてもらうために一般病棟へ退室しました。
それから1週間後にA氏は亡くなられました。最期に家族に会ったときは「心配してくださりありがとうございました。少ない時間でしたけど、母とたくさん時間を過ごすことができました。あの時に「休んでください」と言われていなかったから私が倒れていました。お世話になりました」と声をかけてくれました。
急変した患者の対応はもちろん必要です。
しかし、看護の対象は患者だけでなく家族も含むので代理意思決定を行なった家族がどのような思いを抱いているか表出してもらうことも必要です。
コロナ禍の面会制限により家族と会話する回数が減り、家族看護を苦手に感じているスタッフ看護師が多い現状があります。
家族を含めたケアを行う重要性を伝えること、急変した患者の家族が何を感じているかアセスメントする重要性を再認識できた事例でした。このようなケースは今後も増えるので、後輩スタッフに伝達し必要時はデスカンファレンスを開催し質の高いケアを継続したいと思いました。
まとめ
看護の対象は患者とその家族です。家族が「大丈夫です」と言っていても「何か感じていることはないか」「本当に大丈夫か」と推測し、思いを表出してもらうことがプロとして必要だと思います。コロナ禍で面会制限が強いられている状況のため家族の思いを確認できる場面は少ないです。その少ない場面の中でも家族の発する一言一句に耳を傾け、家族の思いを推測しアセスメントする必要があると思います。
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