腎臓内科でのステロイド治療は入院日数が長期となることが多いです。しかし、患者さんによっては無症状であることも多く、患者さん自身ADLが自立されていて元気な人も多いため、目に見えない間に気づけば様々な副作用が起こっていた!なんてことも少なくありません。今回は、腎臓内科におけるステロイド治療にはどんな副作用が多いのか?どこに注意が必要か?対応としてどんなことが必要か?について詳しく解説していきます。
まず初めに、副作用について説明します。
・便秘
・不眠
・にきび
・ムーンフェイス
・筋力の低下(転倒リスク)
・骨粗鬆症リスク(骨がもろくなりやすい)
・血糖の上昇
・食欲の増強
・精神症状不安定(焦燥感)
それでは解説していきます。
まず便秘は、ステロイド治療をしていく上でほぼお付き合いしていかないといけない問題になります。
また、急を要する問題ではないだろうと軽視されやすく、見過ごされやすい問題でもあるため注意が必要です。
便秘が進行すると、便で腸が閉塞してしまい、イレウス状態となって絶食管理になってしまったり、便秘薬の量がどんどん増えていき、肛門近くにある硬い便が出たあとに下痢が止まらなくなるといった、便秘と下痢を繰り返す状況に移行してしまうことがあります。
また、便秘が続くとお腹が張り、食欲不信になってしまったり、「便がしたいのに出ない」と夜中に何度もトイレに行って不眠の原因になってしまったり、便が出ないことにとらわれてしまい精神を病んでしまったりする患者さんもいました。便秘という一つの問題が、他の問題を引き起こす原因にもなってしまうため、患者さんからの便秘の訴えは早めに対応することが重要です。
患者さんによって個人差がありますが、頓用の便秘薬で効果が見られない場合は早めに医師に相談し、便秘薬を定期薬として内服したり、座薬や水薬を併用するなどの別の手段をとる必要があります。それでも出ない場合は、浣腸や摘便を検討する必要があります。「便秘薬を定期的に内服し、3日でなければ水薬を頓用、それでもでなければ翌日摘便する」といったように、具体的な日数と対策を決めて他看護師や医師と共有するようにすると、何日も気づけば見過ごされていた・・といったミスをなくすことが出来ます。(実際私の勤めていた病棟は便秘時の指示が医師指示として入っていました)
次に不眠です。不眠も便秘の次に多いのではないか?と思うくらい副作用としてよく現れる症状です。また、不眠も見過ごされるケースが多く、気づくと一睡もしていない状態になってしまっていた・・ということも少なくありません。
また、不眠によりふらつきが強くなり、転倒リスクが増大したり、寝られないストレスが焦燥感に繋がり精神状態が悪くなったり、物事をしっかり考えれず薬の管理が出来なくなってしまったりと、他の問題に大きく関わってしまう問題になるので早めの対応が必要となります。
不眠も便秘同様、依存度の少ない優しい頓用薬から開始することが多いため、頓用薬で睡眠効果は得られたかどうかの確認が必要です。また、「眠剤に頼りたくない」と感じる患者さんも多いため、
治療が進みステロイドの量が減ってくると不眠も少しずつ改善されることを説明します。夜中の巡回時に寝られずに困っている様子があれば、時間が許せば治療の不安や、長期入院によるストレスを表出できる時間を作ることが出来るとなお安心感を与えることが出来、不眠を軽減出来ることがあります。また、不眠が続くと昼夜逆転となることもあるため、不眠の辛さを受容し治療の頑張りを労い昼寝を許容しながら、昼寝をされるときは短時間で声をかけるなどの配慮ができると良いと思います。
にきび、ムーンフェイスは、特に若い女性にとっては苦痛になることが多いです。
実際働く中で、高校生の女の子の患者さんが「顔が丸くなったら友達にいじめられて嫌だから薬をやめたい」と泣きながら話されたことがありました。この副作用には対応策がないため、治療の頑張りを労い、治療効果が現れて薬を減らすことができれば少しずつ改善されていくことを説明することが重要です。また、ステロイドを途中中断することで副腎クリーゼという重篤な症状が起きてしまうため、止めることは出来ないことも伝える必要があります。
ステロイド治療は、医療従事者の力だけでなく、患者さん自身が納得した上で治療をしなければ非常にリスクが伴います。途中で止めることが出来ないこと、飲み続ける必要があることはステロイド治療開始時のオリエンテーションでしっかりと説明をしましょう。
筋力低下、骨粗鬆リスクは特に高齢者の方に起こりやすいです。
また、内服をはじめてすぐに現れるのではなく、じわじわと何週間も経ってから蝕むように現れてくるため注意が必要です。「もともとADLが自立していた人だったけど、最近歩き方がおぼつかない気がすると思ったら転倒事故があった」「歩行器で問題なく歩けていたから見守りしていなかったのにこけてしまった」といった事故が起こりやすいのがステロイド治療患者さんです。
また、骨粗鬆リスクも高いため、転倒による骨折もリスクが高いです。ステロイドが開始になったら、今は歩行自立しているけど、2週間後には状況が変わっているかもしれないとアセスメントし、もう一度歩行自立でいいかどうかの評価をする、といった再評価が重要となります。また、患者さん自身にも、筋力が低下しやすいことや骨折リスクが高いことをしっかり説明し、病棟内を歩行して筋力を維持してもらったり、手すりやスロープを持って普段以上に安全に移動してもらうように伝えることが大切です。
次に血糖の上昇です。
ステロイド治療を開始すると、血糖が高くなり、場合によってはインスリン治療が始まる人もいます。ステロイドの量が減っていくと血糖値が落ち着き、インスリンから内服に切り替えることが出来ることも多いですが、インスリン手技が必要なまま退院となる場合もあるため、医師と相談しインスリン自己注射指導が必要かどうかの相談をしておくことが大切です。
長期の入院を終えてやっとのことで退院が決まったのに退院前になって、「退院後もインスリンが必要だけど手技教えてないから退院出来ない!」といった看護側でのミスを減らすことが出来ます。
インスリン治療も間違えると生命に関わるため、自己注射や管理が本当に出来るかどうかをアセスメントし、指導をする場合は施注時間や単位の確認を怠らない、必ずインスリン前に血糖測定をするといった基礎を説明する必要があります。
また、インスリン手技が出来ていた患者さんが、長期入院での副作用で精神不安になったり、不眠が続きインスリンが正しく打てなくなるといった恐ろしいケースもあるため、危険だと判断したら副作用が落ち着くまで看護師で施注に変更することも重要です。
実際にステロイド治療後インスリンが開始となった患者さんで、手技が自立していて患者さんに任せていたら、長期の入院で精神が不安定になり、口頭確認では打つよと言っていたのに実は何日もインスリンを打っていなかった・・ということがありました。
また、血糖が上がることに対して不安になり、血糖が上がらないようにご飯を食べなくなる患者さんもいます。血糖が上がるのは治療の副作用だということを説明し、治療食は計算されているから全て摂取して良いことを伝えるようにします。
食欲の増強も患者さんにとっては大きなストレスになりやすいです。
腎臓食はただでさえ味が薄く低タンパクであることが多いため、食事が足らない、おやつを食べたいなど、不満や欲求が大きくなるところだと思います。ベッドの下や枕の下にこっそりと間食を隠して摂取する患者さんも実際にいらっしゃいました。
フルーツやせんべいなど、高カリウムなものや塩分の高いものは腎臓に大きな負担を与えるため、治療の苦労を労いながら、体を1番に考えてもらうために治療食以外は控えてもらうように説明します。
長期入院によるストレスも大きくなっていくため、本人の状態をアセスメントし、苦痛が大きいのではないかと判断したら医師と相談し間食の許容範囲を決めておくことも良いと思います。
最後に、精神状態の不安定です。私がステロイド治療患者さんを看護してきて、1番怖いと思う副作用です。精神状態も、ステロイド開始から何週間かしてから症状としてじわじわと現れるケースが多いです。「もともとおっとりした人だったのに最近とてもイライラしている」「気に入らないことがあるときに声を荒らげるようになった」「ニコニコした人だったのにデイルームでトラブルを起こすようになった」「穏やかな人だったのに、一方的な主張が続き、看護師の提案や意見を受け入れてもらえなくなった」など、少し言動に違和感を感じることがあれば、その勘は当たっていることが多いです。(笑)特に高齢者に起こりやすいため、ステロイド内服量が多く長期入院が予想される患者さんであれば、起こる可能性があると頭の片隅に入れておくと良いかなと思います。
対応策として、精神状態が悪化する前に他の症状(不眠、便秘、食欲増強など)が現れていることが多いため、先に早めに対応を打っておき、少しでもストレス要因を減らしておくことが重要です。また、言動が少しおかしいと感じたら早めに医師と共有し、次の対策(精神科にコンサルテーションする、面会可能であれば家族の付き添いを依頼し少しでも安心できる環境にする、落ち着いて治療できるように個室に移動する、内服自己管理を落ち着くまで看護師管理に変更する、患者さんの不満はどこにあるのかを傾聴し、原因となる問題の解決策を考えるなど)をとることが重要です。
実際に私の病棟では、おだやかなおばあちゃんがステロイド治療を開始して不眠症状が現れ、睡眠薬でも不眠が解消されず、独語や幻覚が出始め、会話の辻褄が合わなくなってしまったことがありました。今でも、あのときにどんな対応をしたら良かったのだろう?と振り返る事例です。
ステロイド患者さんは、長期入院に加え、たくさんの薬と、たくさんの我慢に耐えて入院されます。症状は尿の異常や浮腫だけ、といったほとんど自覚症状のない患者さんも多いため、見過ごされがちになってしまいますが、毎日治療を頑張っていることを労い、いつでも味方でいることを伝え見守ることが大切な看護ではないかと思っています。
まとめ
ステロイド治療をされる患者さんは、自覚症状がほとんどなかったり、ADLが自立していることも多く、つい他の患者さんに手を取られてしまい、ゆっくりとアセスメントすることが出来なくなってしまいがちです。「変わりないと思ってたのに、いつのまにか手をつけられないほど副作用が進行していた!」ということがないように、患者さんの小さな訴えを見逃さず、早め早めに対応をしていくことが重要です。ステロイド治療をする疾患の原因がわからないことがほとんどであることに加え、ステロイド治療の効果は人それぞれで、入院期間も人それぞれであり、いつまでこの生活が続くのだろうかと今後の不安を抱える患者さんも少なくありません。看護としては、表面的に現れている問題は早期に対応し、不安や悩みに寄り添う姿勢を忘れないことが重要であると考えます。
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