嚥下状態の良くない患者の呼吸状態に関するアセスメント

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#1932 2022/09/06UP
嚥下状態の良くない患者の呼吸状態に関するアセスメント
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嚥下状態の良くない高齢者の方が食事摂取後に呼吸状態の悪化が見られました。誤嚥性肺炎を疑って病院搬送することにしますが、検査の結果、呼吸状態の悪化は呼吸器系の疾患によるものではありませんでした。現場で高齢者の方に付き添った看護師が何を考えどう行動したのか、そして検査の結果からアセスメントする際に何が足りなかったのかを紹介します。

70代男性、既往歴に脳梗塞、高血圧のある利用者さんです。左半身麻痺がありベット上で生活していました。簡単な声かけには表情で反応することができますが、基本的に発語は無いです。食事は分粥食を提供しており介助すれば全量摂取できていました。ここ数日食事の際にむせ込む様子がみられ食事の形態変更を検討しているところでした。酸素飽和度はルームエアーで95%前後。この利用者さんはデイサービスを利用されている方で週3日ほどデイサービスの看護師として関わっていました。既往歴から一番予測される誤嚥には特に注意して関わっていました。ある日この利用者さんが食事を食べ終えた後、呼吸が荒い状態であるのを発見します。バイタルサインは体温36.5℃、脈拍110回/分、血圧128/68mmHg 呼吸回数20回/分で浅い呼吸をしていました。酸素飽和度はルームエアーで93%で頻脈と頻呼吸が見られますがバイタルサインに大きな異常はみられません。昼食はむせることなく食べることができていました。まずこの状況から一番に予測されるのは昼食を誤嚥し、細気管支を閉塞することによる呼吸不全(窒息)を考えました。そこで両肺の聴診を行ってみるも左右差はありません。肺雑音が聞かれることは無く、喀痰貯留音も聞かれませんでした。吸引を行ってみましたが、食物が引けることは無く、気管内分泌物が少量引けるのみでした。酸素飽和度は93%前後といつもよりやや低めですが、呼吸不全と思われるほど悪くはありません。口唇のチアノーゼは見られませんでした。そこで日々の誤嚥が積み重なって起こった誤嚥性肺炎を疑い、通院している病院への受診の準備をすることにしました。家族が付き添えなかったためデイサービスからそのまま病院受診に同行することになりました。担当した内科の医師も既往歴や最近の食事の様子から誤嚥性肺炎をまず疑い採血と胸部レントゲン検査を行いました。しかしレントゲン検査では肺に陰影は無く肺炎の所見は見られませんでした。しかし採血データではFIBとDダイマーの上昇が確認されました。採血の結果を見た医師はすぐに頭部CTをオーダーしました。この利用者さんはなぜ呼吸状態が悪化していたのか。頭部CTの結果から脳幹部に新たな脳梗塞が見つかりました。つまり呼吸中枢のある脳幹部に梗塞を起こしたために呼吸状態が悪化していたのです。しかも大きな梗塞ではなく、梗塞による障害部位が小さい範囲だったので明らかな呼吸不全には至らず発見が遅れるという結果になりました。この症例から学ぶべきことは、高齢者の軽度の呼吸不全はすべて誤嚥性肺炎と考えないことです。もちろん誤嚥のリスク管理をすることは非常に大事ですし、高齢者の呼吸不全の要因の大多数は誤嚥による肺炎や窒息であることは事実です。しかし肺や気管支にばかり焦点を当ててしまうと、今回のケースのように呼吸器系以外に原因のある呼吸不全を見落とすことになりかねません。呼吸状態が良くない利用者さんを発見したときに、呼吸状態だけでなく、意識レベルや血圧などの循環動態、新たな麻痺の有無なども観察できればより良かったと思います。既往歴に脳梗塞があるということは、そもそも脳梗塞を再発するリスクは高いです。脳梗塞は四肢の麻痺や顔面の麻痺による顔貌の変化など運動麻痺の症状に注意が行きがちです。しかし今回のように脳幹部に梗塞を起こせば呼吸不全という形で症状が出てくるし、小脳に梗塞を起こせば吐き気や目眩といった症状が現れます。脳梗塞と言っても梗塞する部位によって症状は様々です。今回のケースでは呼吸状態の悪化という症状の現れ方をしているため、看護者は呼吸がしやすいようにとベットの角度を上げたり、クッションを使って上半身を上げて呼吸がしやすい体勢に整えようとするでしょう。しかし脳梗塞を起こした場合には脳への循環血液量を増やすために上半身を上げた体勢は禁忌ですし、枕の使用も禁止されることがほとんどです。利用者さんの異変を感じて誤嚥性肺炎なのか脳梗塞であるのか、それとも別の病態であるのかをバイタルサインの変化や利用者さんの様子から判断することはまず不可能です。しかし今回のケースでは少なくとも誤嚥性肺炎ではないかもしれないという見立てで利用者さんの観察をすることができれば、新たな麻痺症状の有無の観察や利用者さんの搬送時の体勢を検討するなどの行動ができたかもしれません。そして既往歴に脳梗塞があることから、脳梗塞の合併症もアセスメントする際に知識として必要です。脳梗塞の合併症として今回の利用者さんは異常が見られた際にまず肺炎を疑いました。脳梗塞の合併症は肺炎以外にも深部静脈血栓症、尿路感染、消化管出血、褥瘡などがあります。麻痺のある患者さんでは、四肢を自由に動かせなことから、麻痺側の下肢などに血栓ができてしまい、体位変換や車いす移乗などで体を動かした際に血栓が飛び肺の血管をつまらせてしまう深部静脈血栓症が起こる可能性があります。この場合にも初期症状は呼吸状態の変化として現れることが多いです。食事摂取後に発症するケースは多くは無いので、今回の利用者さんの場合は最初に疑う病態ではありませんが、車いすへ移乗した直後に呼吸状態に変化が見られたのであれば、考慮する優先順位は上がるでしょう。またベット上で排泄している場合、オムツを着用していることから尿路感染症を引き起こすリスクはそもそも高いのですが、新たな脳梗塞を発症した部位が排尿に関わる部位であった場合、尿閉を発症する可能性もあります。排尿機能が低下することで尿路感染を発症することがあることも知識として持っておく必要があります。脳梗塞患者の消化管出血発症率は少ないながらも存在し、発症すると予後は不良であるため注意が必要です。脳梗塞に限らず、頭蓋内病変を生じると視床下部が刺激され、副交感神経優位となることで胃酸分泌過多になります。これにより胃潰瘍を発症し潰瘍から出血を起こすことがあります。一般的に頭蓋内病変のある患者さんに制酸薬が投与されるのはこのためです。
嚥下状態の良くない高齢者の方に接する機会は、病院だけでなく老人施設などでも多いと思います。高齢者の異常の早期発見に努め、広い視野を持ってアセスメントし対処することで、患者さん、利用者さんの予後の悪化を防ぐことができます。呼吸状態の悪化=肺や気管支にトラブルが起きているということにとらわれず、患者さんの既往歴や異常を感じたときのタイミングなどにも注力してアセスメントすることでより良い看護が提供できると思います。観察力というのは場数を踏んで鍛えられるものですが、自分の経験だけでなく、周りの看護師の体験談を共有することでも鍛えることができます。文章という形ですが私の経験を紹介したことで誰かのアセスメント力の向上に繋がっていれば良いなと思います。

まとめ

看護師として現場で働いていると、嚥下状態の良くない高齢者の方と接する機会は多いです。そして多くの高齢者の方が誤嚥性肺炎を経験します。食事摂取後というタイミングで呼吸状態の悪化が見られると、すぐに誤嚥したのではないかという考えに囚われがちです。ですが既往歴のある高齢者の方は誤嚥以外にも様々な病気を発症することがあるので、それを踏まえ、広い視野を持ってアセスメントをすることで、予後の悪化を防ぐことができます。自分の経験を振り返ったり、他の看護師の体験を知ることでアセスメント力の向上につながると思います。

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