精神疾患のある患者さんは、身体疾患の不調をうまく言葉にできず、不穏状態として現れることがよくあります。その場合、目先の不穏状態に気を取られ、身体疾患を見落としがちです。また精神症状を訴えることができる患者さんにおいても、実は身体疾患の不調が隠れている場合があります。そのような時にどうアセスメントするか。
精神疾患の患者さんは自分の症状をうまく言葉で伝えることができず、"不穏"として捉えられることがあります。そのような患者さんのアセスメントについてお話します。
看護師として精神科病棟に勤務していた時、精神疾患として代表される統合失調症や双極性障害、適応障害の患者さんの看護を行ってきました。精神科の患者さんの特徴として、”日常生活がうまく送れない”、”症状を適切に表現できない”といったことがあります。特に患者さんが不穏状態の時、精神疾患による不穏状態なのかを見極める必要があります。
―――よくある“不穏”状態―――
実際にあった事例でいうと、一般病棟に精神疾患の患者さんが入院してきて、患者さんが日に日に易怒性、易刺激性が強くなり、不穏状態となってしまった事例です。精神疾患による不穏だと思い込み、不穏時や不眠時の頓服薬で対処していたら、状況がさらに悪化したが、一般病棟で対応しきれなくなり、精神科に転科する事例がありました。しかし、精神科に転科してくると、不穏の原因が尿路感染だったり、誤嚥性肺炎の前兆だったり、と本当の身体疾患によるSOSのサインだったという患者さんがほとんどでした。
なぜ見抜けなかったのか。それはマンパワー的に一般病棟では対応しきれないといった現状もありますが、それだけではありません。『精神科の患者さんだから』と最初から見ていたところもあるのではないでしょうか。一般病棟では、自分の言葉で症状を伝えることができる人がほとんどで、精神疾患のある患者さんはイレギュラーなのです。それでは、精神科の患者さんをどのようにアセスメントしていけばよいのか、具体的にお話していきたいと思います。
まず、ほとんどの看護師さんが困るのが、慢性期の統合失調症の患者さんではないでしょうか。慢性期の統合失調症の患者さんは、病歴が10年以上と、いわゆる"コテコテの精神科患者さん"といった印象がありませんか?こちらの質問に答えることができない、指示に応じることができない、呂律が回っておらず言葉が聞き取りづらい、といった患者さんをイメージされるかと思います。その時に、「関わりにくいな」と思う看護師さんもほとんどだと思います。また、統合失調症の患者さんは、痛みに鈍感になっている方も多く、症状の訴えがなく落ち着いていると、「大丈夫そうだな」と思ってしまいます。しかし、これでは今後起こりうるリスクを回避することはできません。なぜなら、症状の訴えがないからです。
―――精神疾患のある患者さんに対するアセスメントの基本―――
ここからは具体的に、患者さんのどこを見てアセスメントをするのかをお話しします。まず一般的な質問形式のアセスメントでは限界があります。何でも「うん、うん」と返事をされる場合があるからです。そこで基本的なバイタルサインのアセスメントから入ります。①意識レベル(JCS・GCS)、②心拍数、③血圧、④体温、⑤呼吸数、⑥酸素飽和度(SpO2)、⑦尿量、ですが、場合によっては全ての観察が難しいこともあるかもしれませんが、基本的なところを押さえておきます。ここでポイントとなるのが、何が異常値なのか。7項目のバイタルサインの異常値でいえば、すでに意識レベルが正常から逸脱している患者さんが多くいるからです。また、向精神薬の影響で血圧や心拍数が極度に低い値となっている場合もあります。そのため、今までの情報と比較したアセスメントを行うことが重要となります。入院前の意識レベル、患者さんの機嫌、普段の口数、呼びかけに注視があるか、など、少し独特ではありますが、患者さんそれぞれの元の状態の把握が、今後の鍵となってきます。「食欲はあるが、今日はなんとなく機嫌が悪い」「昨日より会話時に視線が合わない」というように「あれ?」と気づいたことが患者さんのサインとなることがあります。精神疾患の患者さんは向精神薬を多く服用していることにより、嚥下機能の低下がよくみられ、誤嚥性肺炎を繰り返す患者さんも多いです。入院中に夜間の唾液の垂れ込みから誤嚥性肺炎を発症する事例も少なくありません。しかし、明らかな症状として出るまでに時間がかかる事例もあるため、細やかなアセスメントが必要となってきます。
ここまで、精神科といえば統合失調症というイメージでお話ししてきましたが、ここからは、精神科の看護師でも見落としがちな、実際にあった事例をお話しします。
―――患者さんの訴える“不安”とはーーー
家庭で、家族との折り合いが合わず、患者さん自身のレスパイトとして入院してきた適応障害の患者さんです。もともと2型糖尿病があり、内服での血糖降下薬を使用した治療をしていました。適応障害の症状としては、入眠障害、早朝覚醒、抑うつ気分がありました。入院後、朝方5時頃になると不安を訴え、「なんか気分が落ち込む。」とため息をついていました。家庭内葛藤、不眠によるストレスからくる不安状態と考え、不安時の頓服薬を服用してもらっていました。しかし、毎日のように朝方になると不安状態を訴えていました。ある朝、「落ち込む。今日は起き上がれない」とナースコールで訴え、看護師が訪室すると、額にじんわりと冷汗をかいていました。すぐに血糖値を測ると、低血糖であると分かり、ブドウ糖を摂取してもらうと速やかに不安症状も改善しました。
なぜ低血糖症状に気づかなかったのでしょうか。患者さんは症状を訴えることができ、看護師に報告もしていたのです。実は、患者さんは糖尿病があるにも関わらず、自宅ではストレスの対処行動として間食をしていました。そのような食生活を送りながら、かかりつけ医で血糖降下薬を処方されていました。入院後は、かかりつけ医が処方していた通りに継続して処方し、患者さんには間食禁止の約束をしていました。さらには糖尿病食と、完璧な食生活を送り、今までの血糖降下薬の量で服用を続けたため、朝方に低血糖症状が起きてしまったのです。このまま見逃していたら、意識消失していたかもしれない事例でした。
この時、どのようなアセスメントをすればよかったのでしょう。まずは基本的なバイタルサインに異常はないとして、患者さんの訴える“不安”に耳を傾けることです。不安が言語化できれば具体的に話してもらう、漠然とした不安であれば過去にも同様の体験があるか聞き出します。この漠然とした不安というのが、この患者さんの場合は低血糖症状だったわけで、看護師が素直に患者さんの「不安です」という言葉をそのまま受け取らないのも一つの重要なポイントです。まずは基礎疾患を把握し、身体的な問題がないかしっかりとアセスメントすること、全ての身体的な問題を除外した上で精神症状だと疑うことを基本としていくことが必要です。
精神疾患のある患者さんは、考えがうまくまとまらず、適切な言葉で表現できない状態となることが多くあります。そのような患者さんとはじっくり話して、今の気持ち、感じ方をありのままに聞き出していくことで、今まで患者さん自身でも気付いていなかった症状が言語化されることもあります。精神科は、患者さんと関わる時間がとても大切です。多忙な業務の中で、5分でも隙間時間を見つけたら、患者さんの状態を見に行く、観察しに行く、聞き出してみるということを実践してみてください。
まとめ
精神疾患のある患者さんは、それぞれに個性があり、とても独特です。しかし、その独特な部分を深く理解すると、患者さんの様子が見えてきます。患者さんの訴えようとしていることをしっかりとキャッチしてアセスメントすることが、よりよい看護につながると思います。「精神科の患者さん、ちょっと苦手だな」と思わず、日々関わっていくことで、「あれ?」というときのアセスメントのヒントになるかもしれません。
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