看護師4年目になり自分の仕事以外にもリーダー業務や委員会活動、後輩の指導も増えました。心不全で入院しているAさんはいつも冗談をいう優しい高齢女性でした。その患者さんと私を含めたチーム、多職種でのカンファレンス、アセスメントの結果までの話をまとめました。
ある日心不全のためAさん(80代、女性)が入院しました。症状は比較的軽く一般病棟に入院しました。利尿薬を内服し息切れや呼吸困難が日に日に改善し、毎日冗談を言っては看護師の私たちを癒してくれていました。
入院から10日ほどしたときAさんの活気がなくなり食事もほとんどとれなくなりました。私たちはAさんと話し理由を聞きましたが「なんかだるいのよね。別にごはんはいらないわ。動いてないからよ。」と話すばかりでした。
主治医にも報告し補液などを依頼しましたが水分摂取できるなら不要との返事があり、できる限り栄養のある水分を選択し摂取してもらっていました。しかしその経口での水分摂取も難しくなってきました。
その時点では採血やレントゲン上も悪くなくチーム内でもアセスメントした内容を基にカンファレンスを開きましたが解決策が見出せませんでした。カンファレンスを数日繰り返している中、ついにトイレに歩くことができていたAさんが歩けなくなり失禁をするようになりました。
そのとき1人の先輩が「なんでこんなに尿量が少ないんだろう。」と話しました。それを聞いていた1人の先輩は「尿量なんて測っていないんだから今回たまたまじゃない?水分も摂れていないんだしおしっこはでなくて当然よね。」と言いました。
しかしそれが気になった先輩はそのアセスメントの内容を次の勤務者へ話しました。その日から尿量カウント(オムツを変えるたびにオムツの重さを引き尿量を確認する作業)が始まりました。
一部のスタッフからは「そんな面倒なことを自分たちからするなんて業務量が増えるだけだ。残業が増えるだけ。」という声もありましたが、私たちのチームでは尿量を比較しそれを基に主治医へ補液や検査指示を依頼しようと考えていました。毎日尿量は少ないですがIN(体に入る量)とOUT(体から出ていく量)を考えると極端に少ないわけではありませんでした。
またバイタルサインも変動がないため再度全員でカンファレンスを行いアセスメントの内容を伝え合いました。しかしなぜこんなにも体調が悪いのかが分からず全員で頭を抱えていました。
そのとき新人の看護師が「この患者さん検査毎日していないんですね。」と小さい声で言いました。はっとなった私たちはすぐに検査内容を確認しました。するとAさんが具合が悪くなってから1回しか採血とレントゲンをとっていませんでした。主治医には何度も検査依頼を行っていましたが「あとで検査を入れておくよ。」という言葉を鵜呑みにしてしまい入っていることまで確認できていませんでした。主治医は毎日の処置や外来業務に追われ患者さんの容態の悪さに気づいていなかったのです。私たちから補液指示や検査指示の入力を伝えても事の重大さに気づいていなかったため指示が疎かになっていました。
そこで私たちはチームを超え多職種を含めたカンファレンスにAさんを挙げました。多職種カンファレンスでは医師も出席し薬剤師や社会福祉士、栄養士、認定看護師も一緒にそれぞれの分野からアセスメントしカンファレンスを行います。
そのため看護師では気づけなかった点、医師では気づけなかった点などが多く出ました。
実際に栄養士からは「Aさんの嗜好に合わせ食べやすいものや飲みやすいものに変更したが必要カロリーは摂取できていない。経口からは難しいのではないだろうか。」や薬剤師からは「以前は自分で飲んでいた薬を把握していたが今では分からなくなっている。
利尿剤が高齢のわりに少し多いので心配です。」など多角的な意見がでた。そして看護師からも「24時間Aさんを診ているがバイタルサインに変動はないが尿量が少なく活気がないです。なにかおかしいなと感じます。採血など一度現状でとってみるのはいかがでしょうか。」ということを伝えました。
そしてカンファレンスの結果、主治医より検査指示と補液指示をもらいました。主治医からは「そんなに具合が悪そうなんだね。検査も出すといって抜けていた。早急にとって下さい。」と返答があった。結果は急性腎不全ということが判明し急遽ICU管理となりました。透析を行い適切な治療を受けAさんは元気を取り戻し、ADLが低下することなく自宅へ退院することができました。あの時「主治医に届かないから」と指示をもらうのを諦めていたら、看護師のなにかおかしいを信じていなかったら、と考えると今でも足がすくみます。
看護師は経験や知識が大切だと思います。
しかし純粋な心で患者と関わりまっすぐな視点で疑問に思ったことを伝える力も同様に大切だと感じます。
上記の事例のように新人看護師が「あれ、おかしいな。」と思ったことが、先輩看護師に響くこともあります。
看護師には必ずアセスメント力が必要ですがそれは1人ですべてを考えるということではないと思います。
自分のアセスメント力向上のため勉強をすること、経験を積むことだけでなくほかのスタッフや多職種に頼り、その内容を照らし合わせることもまたアセスメント力だと私は思っています。
日々忙しい業務の中で「患者さんはこう思っているけど、先輩に伝えても面倒って言われてしまうかな。」や「こんなこともできなくてまた失敗してしまった。看護師に向いていない。」と思う人こそ、諦めてはいけないと思います。
患者さんの気持ちに寄り添っているからこそ自分で考え、トライし失敗している証拠だと思います。病院に患者さんは治療をしに来ています。そのための医師の援助を行うのは看護師として当然の業務ですが、病気を治療するだけが病院ではありません。病院に来て根本的に疾患を治すことができたとしても、その後寝たきりの状態になってしまっては意味がありません。
どうすれば生きがいをなくさずに、安全かつ穏やかに入院生活を過ごすことができるのか、退院した後も患者にとって末永く歩みたい人生のフォローアップするにはどうしたらいいのかなど入院1つとってもたくさんの解決しなくてはいけない問題があります。
その問題に1人で立ち向かうことができる人はいません。私自身見たことがありません。1人ではなく様々な職種とアセスメントをぶつけ合い、患者かつ家族中心のカンファレンスを行い問題の解決に取り組むことがとても重要だと思います。またそれが1つのアセスメント力だということに今回の事例を通して学ぶことができました。
これから入職する人や新たな門出で働く人もいるかと思います。環境が変わることはストレスが大いにかかることだと思います。つらいことや苦しいことが必ずあると思いますが今回のような事例を思い返し1人ではないということを忘れないでください。また困難な症例にぶつかったときほど病院や施設全員で戦うことを忘れないでください。看護師1人でアセスメントするのではなく同じ看護師同士や多職種間でのカンファレンスを行い、より患者さんが前向きになれる道を見出す手伝いをしてあげてください。陰ながら応援しています。
まとめ
私たち看護師は医師の指示のもと診療の援助をしています。それは医師の診療を助けるためにいるだけでなく医師が気づくことのできない部分を簡潔に伝える役割も果たしていると考えます。医師は患者の1場面をみますが看護師は24時間看ています。24時間の中でバイタルサインに変動はないが患者がおかしい、いつもと違うと感じたときはきっと間違っていません。1年目や新人看護師は「そんなこと気づけない」と思うかもしれません。それは知識量や経験値が違うので当然です。しかしその後輩たちの純粋な視点が先輩たちの気づけない視点に気づくこともあります。私たちは1人で看護しているのではなくスタッフ全員で看護をしています。そのため自分から発信することを忘れずに全員でアセスメントし、患者のよりよい人生を紡いでいきましょう。
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