高齢化社会から高齢社会へと変化となり、急性期医療を担う保険医療機関の一般病棟において、すべての入院患者に対してせん妄のリスク因子の確認を行い、ハイリスク患者に対し、薬物を使用せずに、「せん妄対策」を実施した場合に算定できるもの、と令和2年度診療報酬改定において、新たに評価されるようになりました。
せん妄は認知症と症状が非常に酷似しているため、専門的な判断が必要となります。
せん妄対策で記している通りに診療報酬改定が行われるほど、せん妄が重要視されています。
せん妄とは、認知機能の障害です。
注意力の障害や意識の混濁、知覚の障害も併せ持ち、何らかの原因(入院、手術、検査など)が存在し、急激に起こり、1日の中でもその程度が変化することから診断されます。感情の障害や精神運動の障害も随伴症状の一つです。特徴的なものとして、睡眠・覚醒リズムの障害が見られます。
このため、病歴、診察、あるいは検査データを根拠に直接の原因を特定することが必要になり、このリスク因子として2通り考えられています。一つ目は「脆弱因子」と言われる「高齢、認知症、薬物、アルコールの多飲」、二つ目が「誘発因子」として「環境の変化、不安、臥床、睡眠障害など」が考えられます。それらのリスク因子の有無を判断し、「せん妄」の予防のための対応をすることが求められます。
上記は高齢者に主に焦点を当て、記していますが中年にあたる40代にも起こる可能性があります。術後せん妄と言われるものもあるように全身麻酔後は一時的に体の自由が奪われ、意識が混濁しているため見当識が把握できないことがあるため起こる可能性があります。
本題に入りますが、なぜここまでせん妄に対して国は診療報酬改定を行ってまで行っているのかと言うと認知症は不可逆的であるのに対してせん妄は可逆的にあります。せん妄自体は症状が出ますが、原因に対して治療を行えば症状が治ります。また、逆にせん妄の症状に対して認知症だから、と放置をしているとせん妄症状は固定・または悪化することになります。現在の日本の医療はオレンジプランに提示されているように「認知症の人の意思が尊重され、できる限り住み慣れた地域の良い環境で自分らしく暮らしを続けることができる社会を実現する」とあります。日本は高齢社会に突入しているので高齢者の増加に伴い医療費が逼迫しているので医療費削減のために入院期間の短縮を行い、在宅へ帰したいのです。また、それが患者様本人のQOLの向上へと繋がります。もし、せん妄が見落とされ認知症になるとその患者は在宅へ帰ることが難しくなり、在宅ではなく新たに施設などの退院先が必要となります。
では、実際にせん妄に対するアプローチのために必要な情報を整理していきます。
病院看護師は入院時、家族などからアナムネを取りますが脆弱因子の確認で認知症状の有無や軽度認知症(MCI)の状況など元々あったか、です。入院前の認知度の状況がわからなければ比較のやりようがないからです。また、せん妄は感情の起伏があるため性格はどのような方なのかなどです。
入院後、夜間せん妄状態もあるため24時間の観察が必要です。せん妄は1日を通して見ることで判断を行います。
高齢者の患者様は記名力の低下があるため、突然の入院で記憶の混乱が見られているためせん妄を起こしやすい状態が続いています。そこで看護として記憶の整理がやりやすいように入院時は落ち着いた口調での返答、また、今の入院している場所が安全な場所であると認識してもらえるように対応していきます。
実体験として入院前は独居で生活をされていた高齢者の方で家族が近くに住まわれ、週に1度、買い物など身の回りの世話をされていて生活を行えていたと思います。誤嚥性肺炎が発症し治療が終わったのですが、ADLの低下により、自宅への退院が不可能と言うことで次の入院先でリハビリを行いADLアップができるようになる目的で入院されてきた方です。元々、独居を行っていたので物忘れなどはあるものの生活は送れていたので軽度認知症(MCI)の状態だったと思われます。
前の病院では認知症の症状は目立つことなく経過。治療にも協力的であった、とありました。
入院先が変わりましたが認知症は落ち着いていて穏やかに入院生活を送られていました。リハビリも積極的に行っていたのでADLの拡大が見られ寝たきり状態から自力で立位ができる様になってきたのです。
最近、食事摂取量が低下し昼間は傾眠傾向となり、リハビリ以外は起きているところが見られていません。夜間帯にベッドから起き上がり昼間に比べて表情は険しくなり帰宅願望の訴えが頻繁に見られる様になりました。次第に嚥下状態が悪くなり水分摂取が上手くいかなくなり点滴の開始となりますが点滴のルートを自己抜去し、不穏行動が目立ち始めました。バイタルサインは発熱などもなく変化はありませんでした。次第に点滴を行う血管確保が難しくなり中心静脈栄養(IVH)の切り替えとなり、次第に夜間の不穏行動が減ってきて睡眠が取れる様になってきました。状況を見ていくとこの患者様は脱水により夜間せん妄を起こしていたと考えられます。IVHにより体の水分補正が行われ、せん妄も落ち着いた様です。
実体験を元にアセスメントを行っていきたいと思います。
高齢者のせん妄の原因として主に脱水・感染が原因で起こります。アセスメントとして食事・水分量の低下が見られるので脱水が疑われます。
主観的情報として夜間になると帰宅願望の訴えが見られます。
客観的情報は夜間になると不穏な行動を起こしています。バイタルサインは発熱など変化は見られていません。食事摂取量の状況、IN・OUTの量、採血データ確認はナトリウム(Na)・カリウム(K)・クロール(Cl)の確認、水分摂取減少による尿路感染の有無、感染の有無でWBC・CRPの確認、夜間の睡眠状況などです。
看護師の対応として夜間の精神状態変化が見られた時点で上記の情報でアセスメントを行い日常生活の面で支援を行っていきます。
この患者様に対して医師は採血データを元に点滴の指示をだし点滴を行いますが、看護師は自己抜去がある患者様に対して点滴・IVHを行うので自己抜去をされないように色々工夫を行いながら施行する必要があります。
看護として日常生活を整える必要があります。日中は傾眠傾向なので昼間は覚醒を促すために刺激の入力を声かけで行ったり、車椅子で体を起こしたりして可能であれば趣味の提供など行い体内リズムの調整を行います。また、脱水改善のため嚥下状態もありますが食事・水分摂取を促します。
夜間せん妄が出ている時は記憶の混乱を防ぐために他のスタッフとともに統一した対応が必要になります。
実体験で記した様にせん妄は認知症に似たような症状が見られます。せん妄の原因は様々ありますが脱水が疑われる様な状況なら看護師はアセスメントを行い早期に対応が可能です。
また、変化に気づくためにはその患者様を知っておかなければ気がつきません。
病院ではないと思いますが、家庭や施設などで脱水によるせん妄症状が出現し、この方も高齢だから認知症だろうと放置をした場合は認知度が著しく低下し、その症状が固定されてしまう可能性もあります。認知症はもちろん、せん妄は患者様本人から訴えはなく客観的な情報が主となります。上記でも述べているようにその本人をよく知らないと気づけずに最悪、放置となってしまいます。
まとめ
高齢社会になり認知症が家庭でも身近な存在になりました。入院施設となるとさらによく見る様になりました。何かの基礎疾患プラス認知症が当たり前です。認知症がない方が珍しく思います。そのような状況でも患者様はせん妄を起こして、さらに看護師としては「認知症なの、せん妄なの」とわからなくなります。今回の実例はせん妄事態がわかりやすい状態でしたが、少しでも早くせん妄に気づけるように願います。
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