便秘というのはすべての年齢で凝りうる問題ですが、高齢になると便秘になる人は少なくありません。活動量の低下、食事や水分量の低下、食生活の偏り、内服薬の副作用などが原因ですが、便秘を放置していると思わぬところに影響が及ぶこともあります。そんな便秘に関する一つの事例とアセスメントを紹介していきます。
・訪問看護で行う排便コントロール
著者である私は訪問看護師をしています。訪問する利用者で便秘薬を飲んでいる人は多いです。訪問全体の半分以上の利用者は、内服しているのではないでしょうか。それほど便秘は私たちに身近で、しかし大きな健康上の問題の一つになっているのです。
多くの利用者が処方されている便秘薬ですが、主治医はそれぞれ異なるため、処方されている薬も異なります。私たちはそれぞれに処方された薬や指示に基づいて排便コントロールを行います。
内服を定期的に行って排便出来る利用者もいますし、寝たきりで自力排便が困難な場合は、座薬や浣腸を使用して排便コントロールをすることもあります。
私たちは毎日訪問するお宅もありますが、週に1~2回だけ訪問するお宅もあります。便秘があり、腹部が苦しくて仕方がない、私たちが訪問して出してくれるのを待っていたという人もいます。また、排便の後に「あーすっきりした」という声を聞くと、私たちも達成感を感じます。
しかし中にはこんな事例もあるのです。
・便秘が重なり痔になってしまった認知症の男性
私たちが現在毎日訪問する認知症の男性。自分で歩行できるので買い物や料理などは自立していました。認知症はありましたが、長年の持病で服薬はずっと続けていたので、お薬カレンダーなどを使用して服薬も出来ていたのです。
この男性も長年便秘に悩まされてきた人でした。そのため、2~3日排便がない時には下剤を内服していたのです。この内服で一応排便コントロールが出来ていたのですが、ある時問題が発覚しました。
訪問看護師が病院受診に同行していた時のことです。男性の着衣に出血の跡が。理由を聞いてみると最近痔が悪くて出血することがあるんだということ。
痔があるということは以前から知っていたものの、それほど出血するとは知らなかった私たち看護師。一応排便コントロールができていたし、これまでは肛門からの出血や痛みはなかったので痔を直接確認したこともありませんでした。
それが今回の出血。それを受け、初めて私たちも痔を観察することが出来ました。
私たちはもっと早くに気が付くべきだったのでしょうか。もっと早く痔に対処するべきだったのでしょうか。
しかし、高齢の一人暮らしの男性で、認知症はあるといっても生活は自立していたので、なかなか「観察させてください」とはいえなかったのですね。とてもデリケートな部分でもありますし。
今回の出来事はとても良いきっかけにはなったと思います。これまでの受診同行というのは、持病の内科の受診のみでした。それがこれをきっかけに外科にも受診を始め、私たちも自宅で痔の整復や軟膏処置などのケアをすることが出来るようになりました。
・痔が悪化した原因は何だったのか
利用者が痔の痛みや出血の悩みを抱えているとき、誰にも言わず利用者なりに対処していることがあります。この高齢者の男性の場合は、トイレットペーパーを挟むということでした。これで出血をしても、下着やズボンに出血することを防ぐことが出来るという考えからです。
これは高齢の男性にありがちな対処方法なのですが、トイレットペーパーを使うことにデメリットもありました。手軽に使用できる反面、軽くてずれやすいのです。また素材によっては摩擦が強く、痔に対して刺激となる場合もありました。
この男性の場合も、いつもトイレットペーパーを挟んでいたのですが、着衣に出血がついた時にはずれてしまったということが原因でした。
また普段から買い物や散歩に行くなど出来ていたのですが、少し痔が悪化してからはトイレットペーパーが歩くときにすれて痛いからという理由で散歩も控えてしまい活動量が低下してしまったのです。
買い物に行かないので食事量もおのずと低下し、運動量も減ってしまったので内臓の動きも低下。排便がないので下剤を飲んで力むことを繰り返し、それでもなかなか排便がないことで下剤を繰り返し服用し下痢になり…その結果、痔は次第に悪化してしまったのです。
もしも寝たきりでオムツをしていたらトイレットペーパーを挟むということはありませんね。また家族がいたら、利用者が相談して早めに状況を発覚するということもあるでしょう。また女性の場合は、生理用のナプキンや尿取りパットを使用するということもよくあります。
ただ高齢の男性で一人暮らしというと、やはり手軽なものに頼るしかなかったのです。
・下剤の調整と毎日の処置
利用者の痔の悪化に伴い、新しい下剤が処方されました。その下剤を飲み始めたのはいいけれど、やはり慣れるまでは下痢が何度がありました。私たちは処置もあったため、一日2回の訪問をし、排便状況を確認、アセスメントをして毎日の下剤を調整していったのです。
排便コントロールがつくようになり、痔の整復や軟膏塗布を行うことで、次第に出血も軽減、そして全体的な腫脹も軽減したことで整復もしやすくなりました。痛みも軽減され、また買い物や散歩に行ったりこれまでの日常生活が戻ってきたのです。
・痔には温浴という方法もある
痔のケアには、温浴と清潔というものもあります。病院では陰部洗浄ボトルなどを使用して簡単に肛門周囲を洗浄することもできます。しかし在宅ではどうでしょうか。
もちろんできないわけではありません。陰部洗浄ボトルを用意して洗浄を行うこともあります。しかし、各家庭におけるお湯の確保というのが一つの問題になります。給湯が故障中であるため、やかんでお湯を沸かすしかないという家もあれば、お風呂も水しか出ずバランス釜で湯を沸かすしかない家もあります。
私たちが訪問するこの高齢男性の場合は、いつも看護師訪問前に自分で陰部、臀部をきれいにして待っている人でした。痔の処置を始める前から習慣的に。そのため、あえてこれまでの習慣は変えず、利用者に任せることにしました。
・デリケートな部分だからこそ最大限の配慮が重要
痔という問題はデリケートな部分であるだけに、私たちがなかなか踏み込んでいくことは簡単ではありません。そのため、私たちも十分な配慮が必要です。処置を始める最初は、年配でベテラン看護師を投入し、処置に慣れてもらうことから始め、利用者の受け入れ状況を見ながら徐々に若手の他の看護師も訪問できるように配慮しました。
また訪問時には優しく明るい声かけと利用者の意志や要望を聞きながらアセスメントをしてケアを進めていくように配慮しました。痔がひどい時には腫脹もあり、やや大きかった痔核ですが、受診の際に医師がサイズをはかって利用者にも伝えました。在宅でも処置を継続してやや腫脹がおさまった時に、もう一度サイズをはかり、経過がよくなっていることを伝え励ましました。利用者自身も心配で、鏡で観察はしていたようですが、目視ではなかなか改善しているのかどうかわからなかったようです。しかし、数値的にアセスメント、評価することで利用者も安心感が得られ、その後の処置の継続の動機付けにもなりました。
在宅生活というのは、利用者の理解と受け入れがないと処置も継続していくことが出来ません。一時的につらくても、改善したらこれまでの生活ができるという安心感を与えられるように、私たちもかかわっていく必要があるなと考えさせられた事例でした。
まとめ
いかがでしたか?便秘やそれに伴う痔は、病棟でも在宅でもよく見られる症例の一つです。ただ年齢や性別によるものや習慣の個人差もあるため、一つ一つ情報を分析し、アセスメントをしながらケアをしていくことが重要ですね。これらの症例には長期的なかかわりが重要です。このような症例があった場合、ぜひ参考にしてみてください。
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