超高齢社会をむかえ、認知症患者さんは年々増加しています。それに伴い、高齢者施設に限らず病棟や在宅、クリニックなどでも認知症の患者さんと接する機会は増えています。看護師として働く中で、認知症患者さんの不穏に頭を抱えてしまうこともあるのではないでしょうか。患者さんが穏やかな状態を取り戻すために、また、予防の観点からもアセスメントは必須です。認知症患者さんの不穏のアセスメントについてお伝えします。
【認知症患者さんのアセスメントをする上で、まず念頭に置いておきたいこと】
①認知症患者さんは自分に起こっていることをうまく言葉にできないことがあります。
認知症のない患者さんであれば、自分の身体の不調や不快、症状、困っていること、精神的な心配ごとなどを言葉にして他者に伝えることができます。言葉にして看護師など医療者に伝えることで対処につながります。しかし認知症患者さんは、症状として認知機能障害や失語などが表れることから、身体の不調や不快感を言葉で表現できず、怒りや焦り、不安、ケアの拒否などとして表れることがあります。
②認知症の中核症状、BPSDを理解しましょう。
中核症状として認知機能障害(記憶障害、見当識障害、失効・失認、実行機能障害、失語)があり、周辺症状として行動・心理症状=BPSD(不安、焦燥感、妄想・幻覚、睡眠障害、抑うつ状態、拒否など)があります。これらを理解し、対象者を認知症をという疾患を抱えた患者さんとして捉えることが必要です。
【不穏とは?】
急に他者に対して攻撃的になったり、落ち着きがなくなったり、興奮状態になることを指します。
【認知症患者さんが不穏になっている際のアセスメントのポイント:原因を考えましょう】
看護師がアセスメントをする際、SOAPの考え方・枠組みでアセスメントを行います。認知症患者さんが不穏になっている場合も同様です。
S:患者さんの主訴、言動
O:バイタルサイン、観察できる症状、表情、顔色、不穏になった前後の行動、生活パターンなど
上記の情報を集めましょう。下記に詳しく述べていきます。
①身体的不調はないか
看護師としてまず見ないといけないのはここです。『認知症だから何だかわからないけど不穏になっている』ではなく、『認知症だからこそ身体的な不調を言語化できず不穏という状態に表れている』可能性があります。患者さんも困っているのです。看護師ならではの観察力、アセスメント能力を発揮する場面です。バイタルサイン、表情、いつもと違うところはないかなどを観察します。どこかに痛みがある、発熱していて倦怠感もある、嘔気がある、排尿がうまくできない(残尿がある)、便秘になっている、などがないか探っていきましょう。身体的不調があればそこに対処することがまず優先です。身体の状態が落ち着くことで、不穏になっていた患者さんも落ち着くことは多々あります。
②精神面に影響を与えた因子を探る
上記①の身体的不調がなさそうであれば、精神面を考えます。不穏になっている認知症患者さんには、何かしら不穏になる原因、きっかけがあるはずです。ここでは『人・時間・環境』の3つの視点から考えます。
1)まず一つ目は『人』です。看護師から患者さんへの声かけや対応は適切だったか。誰でも急に大声で話しかけられたり、馴れ馴れしく話しかけられたりすれば不快に感じます。そこから怒り→不穏につながることもあります。また、例えば入浴だからといって急に衣服を脱がされたり、入りたいタイミングでないときに入浴に誘われたりすれば不快になることは容易に想像できます。そういった対応をしていなかったか、まずは振り返りましょう。また、患者さん周囲の『人』は看護師だけとは限りません。他の患者さんとのコミュニケーションややりとりがうまくいっていない場合もあります。日頃から、患者さんとその周囲の人の関わり方、トラブルになるようなことがないかを観察することも大切です。
2)二つ目に、不穏になっている『時間』を考えます。不穏になる患者さんは、何度か繰り返すことがよくあります。『夕暮れ症候群』といって、認知症患者さんは夕方になると帰宅願望が強くなり、不穏になりやすい時間帯があります。記録などで時間帯を追ってみると、同じくらいの時間に不穏になっていることに気づけます。そうすることで、その時間には注意して患者さんを観察することができ、不穏にならないように対応(その方の好きなことに取り組んでいただく、徘徊している方に付き添う、話を傾聴し穏やかに過ごしてもらう)などの対応をすることができます。また、不穏になってしまった際にも早く気づき、早めに対応することができます。
3)三つ目に『環境』です。ただでさえ認知症患者さんは環境の変化に対応することが苦手です。生活する場所、周囲の環境などの変化があったかどうかを考慮しましょう。入院や入所したばかりで今までと環境が変わると、それだけで不穏になりやすくなります。今の状況を理解してもらうこと(リアリティ・オリエンテーション)が重要です。なぜ入院しているのか、今日はなにをするのか、今後の見通しなどを話します。忘れてしまうかもしれませんが、何度も繰り返し同じ説明をします。「説明してもらった」ということが認知症患者さんに安心感を与え、不穏の予防にもなります。さらに、カレンダーや時計を設置し現状を認識してもらうことも大切です。
また、同じことを聞いてくる患者さんにはわかりやすく書いた説明用紙などをお渡しするのも効果的な場合があります。
【筆者が実際に対応した事例】
・『時間』のアセスメント:毎日夕方になると顔がこわばり、廊下を徘徊し、落ち着きがなくなり、夕食も拒否される患者さんがいました。スタッフを急に叩いてしまうことがあるため、頓服薬を使う日々が続いていました。しかし、看護師が上記の様子に気づき頓服薬を与薬しようとすると拒否し、看護師の手を叩いたり、頓服薬を飲むためのコップを投げつけるなど服薬が難しいことも多くありました。記録から不穏になっている時間帯を探ると同じくらいの時間帯に起きていることがわかり、医師とも相談し、その時間に効果的になるように内服を調整してもらいました。
・『人』のアセスメント:自主的にはトイレへ行かないため、看護師が声をかけトイレ状況れて行っている患者さんですが、トイレ誘導を拒否することも多くありました。拒否するときと拒否しないときの違いを探ったところ、拒否するときは看護師が急に手をつないだり、患者さんが座っているときに上から声をかけたりすると「なにするのよ!」と大声を出され、不穏になることがわかりました。逆に、患者さんが歩行されているときにトイレに誘ったり、声をかけるときの目線を患者さんと同じようにすると穏やかに応じてくださることがわかりました。看護師の声掛けの仕方ひとつで患者さんの状況が落ち着いた一例でした。
【情報共有の大切さ】
上記のアセスメントをし、効果的な対応方法を見出した場合、チームで共有することが大切です。一人で対応しても、そのほかのスタッフが対応したときに不穏になってしまうようでは患者さんにとって良い看護とは言えません。チームで共有することで統一した対応ができ、継続した看護にもつながり、認知症患者さんが穏やかに過ごせる状態を作ることができます。なかこどもにかけてもらえない言葉で、ママの顔に切り替えてもらいましょう。
まとめ
認知症患者さんは、自分の状況をうまく言語化できず、また、高齢であったり環境変化に適応しにくいなど、不穏になる要素を多くもっています。しかし、看護師としての視点を持ってアセスメントすることで、看護として介入できることも多くあります。安心して穏やかに過ごせる環境を提供することや、意図して関わることも看護のひとつです。その第一歩として認知症患者さんの不穏をアセスメントし、適切な対応につなげていきましょう。
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