皆さんは臨床で働く中で「この分野が好き」、「この分野に興味がある」という分野はありますか?私はそれが「救急」でした。看護師は専門職です。そこには科学的根拠のある看護実践が求められます。「好き」や「興味」は貴方の看護を追求する基礎のモチベーションです。ここでは救急看護認定看護師になる方法を受験前の心得から認定審査までの心得までお伝えします。
「認定看護師とは」
そもそも認定看護師とは何でしょうか?認定看護師制度は1997年6月に日本看護協会が新設し2分野から開始されました。その内の1つが救急看護認定看護師です。現在では21分野あり、制度の目的としては特定の看護分野における熟練した看護技術及び知識を用いて、あらゆる場で看護を必要とする対象に、水準の高い看護実践のできる認定看護師を社会に送り出すことにより、看護ケアの広がりと質の向上を図ることを目的としています。
「認定看護師の役割」
認定看護師の役割とは、どのような物があるのか見てみましょう。
認定看護師は特定の看護分野において、以下の3つの役割を果たします。
1:個人、家族及び集団に対して、高い臨床推論力と病態判断力に基づき、熟練した看護技術及び知識を用いて水準の高い看護を実践する。(実践)
2:看護実践を通して看護職に対し指導を行う。(指導)
3:看護職等に対しコンサルテーションを行う。(相談)
この中で特に大切と言われているのは「実践」です。認定看護師になると周囲のスタッフから常にその有資格者の背中を見られていると言っても過言ではありません。患者様や家族は「認定看護師」と「普通の看護師」の違いはわかりません。患者様や家族は「資格ではなく貴方の看護」を見ています。常に最新の知識に触れ、ガイドラインに沿った科学的根拠のある看護実践、そしてその科学的根拠のある看護実践を患者様個人個人に看護をデザインする創造性が求められます。その日々の実践が指導、相談に活きてきます。
「救急看護認定看護師に期待される能力」
次に救急看護認定看護師に期待される能力とはどのような物があるのか見てみましょう。
①救急医療を必要とする小児から高齢者、妊産婦に対し、発達段階における特徴を踏まえ迅速かつ的 確なフィジカルアセスメントを実践することができる。
②救急患者の病態に応じて、問題の優先順位を迅速に判断し、適切な初期対応技術を実践することが できる。
③刻々と変化する重症救急患者の病態に対応し、効果的かつ安全な全身管理技術を実践することが できる。
④救急医療を必要とする対象の権利を擁護し、安全かつ的確な救急看護を実践することができる。
⑤救急医療を必要とする患者と家族の心理社会的状況をアセスメントして、支援することができる。
⑥災害医療現場において、医療ニーズを迅速に判断し、他職種と連携し実践することができる。
⑦より質の高い救急医療を推進するため、救急看護実践の場において、リーダーシップを発揮し、多職 種との協働を調整できる。
⑧救急看護実践を通して、救急医療における看護の役割モデルを示し、看護職者への指導・相談を行 うことができる。
これだけを見ると少し尻込みしてしまいますよね。しかし、多くの研修生は入学をしてから今ある経験値にプラスして学んでいきます。最初から全てを網羅している研修生はいません。あくまでこれは「期待される能力」なので、有資格者となってから実践力を高める為に意識する部分だと思ってください。
「認定看護師の登録者数と救急看護認定看護師の登録者数」
2021年12月時点で現在認定看護師の登録者数は21081人、そして救急看護認定看護師は1239人います。
「認定看護師と診療報酬制度」
認定看護師は配置要件を満たすと診療報酬を請求出来るようになります。これは病院の経営参画にも直結する部分であり自身の存在意義の1つにもなる部分なので意識しておきましょう。救急看護認定看護師が取れる診療報酬制度は下記になります。
①呼吸ケアチーム加算(150点/週1回)
②特定集中治療室管理料1(7日以内1日につき13650点、8日以上14日以内1日につき12126点)
③特定集中治療管理料2(特定集中管理料1と同様+広範囲熱傷特定集中管理料として7日以内1日につき13650点、8日以上60日以内1日につき12319点)
④持続性難治性下痢便ドレナージ(50点/開始日)
「救急看護認定看護師の受験資格」
救急看護認定看護師を目指す上でスタートラインとなる受験資格を見てみましょう。
(1) 日本国の看護師免許を有すること
(2) 看護師の資格取得後、実務研修が通算5年以上であること
(3) 次に定める看護分野の実務研修を有すること 1) 通算3年以上救急部門での看護実績を有すること。 2) 救急部門において、CPA・重症外傷・意識障害・呼吸不全・循環不全・中毒・熱傷患者等の看護 の中から5例以上担当した実績を有すること。 3) 現在、救急部門で勤務していること、または救急部門での勤務が予定されていること。
一番懸念される症例ですが、研修生の中には外傷を経験した事がない、熱傷や中毒を経験した事がない等様々です。それは所属している施設の役割によって経験出来る症例は違います。極論、CPAだけを5症例担当した実績だけでも出願資格を満たします。
「受験前の心得」
さて、受験資格を得ている事が分かったら次は所属長に自身が認定看護師になりたい事を伝えましょう。そしてそこで一番理解し伝えて頂きたい事は「自分が認定看護師になる事で組織に、スタッフに、そして患者様に何が出来るのか」をプレゼン出来るかです。今現在貴方が所属する施設の強みと弱みはなんでしょうか?そこに自分が有資格者となる事でどのようなメリットがありますか?そして研修生となったら約7か月(2022年3月現在の東海大学救急看護認定看護師教育課程の場合)現場を離れて学生にならないといけません。そこを職場にそして所属する現場のスタッフに理解して頂かないといけません。上手く考えがまとまらない場合にはSWOT分析(組織の強み、弱み、機会、脅威の4項目から分析する方法)を行いプレゼンしてもいいかもしれません。
「受験の準備」
次に出願後の受験の準備編です。全ての資格を取得する時の準備に共通する事は「出題者は何を求めているのか」を分析する事です。一番わかりやすいのは過去問分析です。まず過去問を解いてみる事で求められている知識量、そしてその知識の深さを推し量る事が出来ます。過去問がない場合は受験する学校へ受験前相談の面談が出来ないか相談してみて「勉強方法」を聞いてみてください。
「入学試験の範囲」
試験内容 1) 提出書類内容の審査 2) 筆記試験 ① 専門科目(状況設定問題) 救急看護分野の現場で遭遇するであろう問題状況について、看護の視点でアセスメントし、適切な実践方法に ついて看護過程を展開する思考能力を問う。 ② 専門科目(客観式問題) 「呼吸・循環・体液・栄養・代謝」等に関する基礎知識を問う。 外傷・熱傷・中毒・その他救急疾患に関する病態や治療・看護に関する専門的知識を問う。 3) 小論文 設定されたテーマについて看護に対する考え方、問題意識、文章構成力、記述力、論理的思考を問う。 4) 面接になります。参考書選びには熟考するかもしれません。私の場合は受験前に面談した際にアドバイス頂いたエマージェンシーナーシング、救急看護学会から出ている参考書、試験範囲に沿ったガイドラインを受験を決めた1年程前から目を通してゆっくり計画的に勉強していました。独学の継続力を持つポイントを4つお伝えすると「1監視 2競争 3危機感 4承認」です。
まず監視ですが、人は誰かに監視された環境におかれると「やらなければならない」という気持ちが(例え嫌々でも)駆り立たされます。一番効果的な方法は周囲に「私認定看護師目指して〇月に受験するの」と言ってしまう事かもしれません。そうすると周囲の誰かしらから監視をしてもらえるようになります。必ずしも全員にいう必要はないので所属長だけでもいいかもしれません。次に競争です。研修生になるには学校の定員を意識しなければなりません。受験する学校の定員は何名でしょうか?私の場合は30名でした。仮に筆記試験で8割得点を取ったとしても他の受験生も8割取っていたら意味がありません。勿論筆記試験だけでの評価ではありませんが、自分の勉強量は受験者と競争しているという事は常に意識しなければなりません。次に危機感です。必ず受からなければならない、来年はないくらいの気持ちで自分を奮い立たせてください。病院に推薦し続けてもらえる機会はそう毎年は続きません。来年は推薦されないかもしれません。常に危機感を持ってください。最後に承認です。エマージェンシーケアや他で出版されている救急に関する問題集やドリルを問いてみて自分の勉強量で解けるのかチャレンジしてみてください、その成功体験が承認になりますし、逆に失敗体験は危機感を奮い立たせます。また、受験は個人の戦いです。なので時には誰かに「勉強を頑張っている事」を承認してもらう事も大切になってくると思います。以上の4点が独学の継続力を持つポイントになります。
「研修生になってからの心得」
正直、入学する前の勉強量よりも入学をしてからの方が学ぶ事が莫大にあります。どんなに勉強をしていても自分の知らない事、より深い知識に直面します。そしてどんなに経験値のある研修生でもその研修生に見合った課題に必ず直面し、学ばなければなりません。しかし、困った時には同期で入学した仲間に相談してみてください。きっと入学すると周囲はエリートに見えて、自分にはない物を持っている人に見えて、不安や葛藤が生まれるかもしれません。勿論経験値や知識量の差は千差万別です。しかし、研修生としての悩み苦しみは皆同じで、自分が苦しんでいる事は意外と周囲も同じ事で苦しんでいたり、既にその課題はクリアしており、その解決方法を知っていたりします。そして研修生の期間を一緒に過ごした仲間は今後貴方が認定看護師として生きていく上で一生に仲間になります。日々の認定活動で困った時、自施設で新たにチームを立ち上げる時、自分が経験しえない事を聞く時、そして認定看護師としての葛藤。色々な役割を持った病院から色々な看護師が強い志を持って入学してきます。その仲間との繋がりは学費では買えない一生の財産だと思ってください。
「認定審査に向けての心得」
コロナ禍になってから認定審査の受験日が毎年10月に変更になりました。今現在救急看護教育課程を開催している学校は1校です。その学校のスケジュールに合わせると3月に修了するので7か月後に試験を受ける事となります。現場に復帰しながらも常に知識を維持し、自己研鑽に励まなければなりません。独学の継続力を持つポイントは前途した通りですが、今度は仲間と協働して試験に備えてみてください。入学試験の説明でもお伝えした通り、全ての試験には出題者の意図があります。認定審査の過去問は最低5年分は解いてください、解答はないので1人ではなく必ず同期と解きながら答えを導き出して何度も何度も解いて、「どうしてその設問がふさわしい答えなのか、どうして他はふさわしくないのか」まで深めてください。そして過去問を分析しながら勉強してみてください。私の場合は過去問と最新ガイドライン、救急診療指針をベースに勉強を進めていました。
「認定看護師教育課程のA課程とB課程の違い」
私が卒業した教育課程はA課程(特定行為を含まない)になります。B課程との大きな違いは「特定行為があるか、そして特定した分野の学べる範囲と深さ」の違いだと思っています。2026年に認定看護師制度は修了し、救急看護認定看護師に関しては今後集中ケア認定看護師と統合され「クリティカルケア認定看護師」となります。A課程は分野にもよりますが凡そ700時間程の授業時間数があります。ではB課程はどうでしょうか、救急+集中+特定行為が入り凡そ1年間かけて800時間(eラーニング含む)になります。どちらの分野の方が優れているという事はありません。大切なのは「自分が何を学び、何で組織やチーム、患者様に貢献したいか」だと思います。ここまで長文を読んだ貴方はきっと認定看護師への熱い思いがある方だと思います。まずは情報収集をして希望する進学先と進学前に面談が出来ないか問い合わせをしてみてください。そして納得した上で進学を決めてください。
まとめ
専門職をより深める為に進学をしたいと思う看護師は多いと思います。しかし現状「お金×時間」の壁が大きく進学を躊躇ってしまう方が多いのも事実です。進学する事は得られる物(知識や仲間)と失うもの(お金や時間)があります。あなたはどちらが大きく見えますか?私はお金と時間を使って知識と一生の仲間を得られました。そして資格を得た事で臨床でも外部でも仕事の選択肢が増えました。認定資格を取得する事で好きを仕事にするきっかけを貰えたと思っています。そして仕事につきものである悩みや葛藤に直面した時には仲間に頼っています。進学は最大の自己投資です。このメッセージが1人でも多くの看護師へ伝わりますように。
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