病棟でよく遭遇する訴えに「痛み」があります。痛みというのは主観的なものであるため、看護師としてそれを正確にとらえることは簡単ではありません。また認知症が多い病棟になると、本当の痛みはどの程度なの?と疑問になりますね。そんな痛みにまつわるアセスメントについて紹介していきます。
・自分の症状をしっかり伝えることのできない患者のアセスメント
自分が今配属されている病棟には、どんな患者がいるでしょうか。
自分の症状を全部自分の言葉で表現することが出来ますか。症状を表現することが出来ても、その情報は正しいでしょうか。
病棟によっては、とても高齢者の割合が多いところもありますね。その中には、基礎疾患のほかに認知症がある患者も少なくありません。看護師は患者と話しながら、「あれ?この患者のいうことはどうなの?」と認知力を疑うことも多々あります。反対に話していても本当に全く認知力が低下しているなんてことがわからないような患者もいます。特に入院してすぐであまり患者の全体像がわからない場合には。
また加齢に伴って認知力が低下しているけれど、認知症とは診断を受けていない高齢者も数多くいます。更に、普段は独居生活を送っているため、本当は認知症で生活に困っていることがあっても、きちんと診断を受けておらず、治療にいたっていない患者、そして周りの人も誰も困っていることに気が付いていないということも多いです。そんな時には、家族や親せきが同行して入院してきたときも認知症があるとはアナムネには記載しないでしょう。そのため、私たち看護師は注意深く観察をしても、入院初期は認知症があるとわからない場合もあるのです。
認知症はこれからも増加傾向にあるでしょう。そんな中で入院してきて自分の症状をしっかり伝えることが出来ない患者にどのように対応し、アセスメントをするべきかをここで紹介していきます。
・痛い?痛くない?がはっきりしない
痛みというのは主観的な感覚です。そのため、私たちはどの程度痛いのか理解することは簡単ではありません。主観的な訴えである痛みを客観的に把握できるようにスケールなどもありますが、なかなか認知症のある患者には使用が難しいこともあります。
私たちはまず痛みを訴える患者には、「どのくらいの痛みですか?」「痛みはどのくらい続きますか?」など質問して痛みに関する情報収集をします。その時に、鎮痛剤を使用している患者だと「ちょっと痛いだけだよ」とか表情が穏やかであれば鎮痛剤が効いていると評価することが出来ます。
反対に「すごく痛い」「動かさなくても痛い」などといわれたら、医師から指示をされている屯用の鎮痛剤を追加使用したほうがいいのかな、痛みを軽減のために何ができるかなとアセスメントをするはずです。
しかし、認知症患者においては、痛いと口では表現しているけれど、手足の動きを見ていると全く問題なく動かすことができるし、その時の表情を見てみると苦痛な表情は全くない。そのため、本当に痛いのだろうかと疑問を感じてしまうこともあるのです。聞けば「痛い」というけれど、動きは軽やかでまるで痛いということが口癖になっているような患者…。
・痛いが口癖になっている患者の事例
ある左の鎖骨骨折で入院した患者の事例です。転倒した際に受傷し、入院して保存的治療を行っていましたが、長期間経過したのにも関わらず、痛みの訴えは継続し鎮痛剤の内服が継続していた患者がいました。レントゲン上はもう問題はないので、すでに退院の話も出てきていた患者です。
その患者は入院してから2か月目の採血で腎機能の悪化が見られて初めて鎮痛剤の使用中止が検討されたのです。
入院してから少しずつ経過は良くなっているのに痛みの訴えが継続する理由は何だったのでしょうか。単なる口癖だったのでしょうか。
医師たちを交えたカンファレンスで分かったことがあります。それは看護師に対してだけ、患者からの痛みの訴えは常にみられたこと。しかし不思議なことに医師や理学療法士に対しては痛みの訴えをすることは少なかったのです。不思議ですね。
看護師というのは、患者の一番側にいる人、そして医師や理学療法士よりももっと長い時間かかわる立場。病室をラウンドするときにも「お変わりありませんか?」「何か変わりがあれば何でもおっしゃってくださいね」と優しく声をかけることも多いです。
この患者にとって、その「何か」が痛み以外に何もなかったのです。だから、患者の中で看護師に聞いてほしいことが「痛み」であった事を分析することが出来ました。
鎮痛剤が中止になった時、始めは当然痛みの訴えもありました。しかし私たちは鎮痛剤を内服させるを第一優先にはしませんでした。その代わりに、私たちは、リハビリもかねて一緒に廊下を散歩したり、少しマッサージをして気分をほぐすことを重点的に行いました。
つまり痛みに執着しなくてもいいように、気分転換、思考の転換を図ったのです。すると、だんだんと痛みの訴えが軽減していったのです。
痛みの訴えが軽減すると、患者の表情にも変化が現れました。これまでリハビリの時には、理学療法士に対して痛みを訴えることは多くはありませんでしたが、やはりリハビリ前には「動かすのいやだなあ」「リハビリやりたくないなあ」という看護師への訴えもあったのです。しかし痛みの訴えが減ってからは、「頑張ってやるしかないなあ」「これが俺の仕事だもんなあ」とリハビリに対して一生懸命に取り組む姿が見られるようになったのです。
痛みがあるということは、身体的にも苦痛が大きいのでその痛みを軽減させる治療が最優先になります。しかし、総合的に判断してみると、痛みを取ることが最優先ではなくなることもあるのです。
私たちは認知症患者が訴えることによく耳を傾けて、その表情や口調などから訴えの裏にある本当の気持ちを理解しようと心掛けています。認知症患者は時として、自分の身体のこと、症状のことをうまく表現できないことも多いからです。
ただ患者によっては、私たちもその真意を読み取れないこともあるのです。これは患者の認知度の程度も関係ありますが、私たちの看護経験によっても異なるでしょう。看護師は、患者の疾患、認知力などを総合的に理解して、症状をとらえることはとても重要です。ただ看護経験が少ない看護師の場合、やはり症状のとらえ方、かかわり方に差が出ることは仕方がありません。
それを解決するために看護師としてどのように取り組むといいのでしょうか。それはただ受け持ち看護師が受け取った情報として解決しようとするのではなく、もっと看護師同士情報交換をして、患者の全体像をとらえることも重要です。カンファレンスをすることで自分だけではとらえることが出来なかった患者の「痛い」にまつわる情報を収集し、それを基にアセスメントをしっかり行うことができるようになるのです。
まとめ
高齢化、認知症が増加傾向である中、今回紹介した事例はこの先も増えてくるのではないかと想像できますね。看護師としては、そのようなどんな患者にも対応できるように情報収集、アセスメントを行っていく必要があります。その中で今回はよく遭遇する「痛み」を取り上げてみました。ぜひ今後の看護の参考にしてみてください。
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