看護師の仕事をする上で重要なのが、アセスメントをするということです。訪問看護では、電話で相談を受けることも多いのですが、電話の情報でのアセスメントの難しさを日々実感しています。そんな訪問看護での事例をご紹介していきます。
多くの訪問看護ステーションでは、24時間対応体制をとっています。これは、利用者が昼間の夜間も安心して在宅生活を送ることが出来るように、何かあれば緊急でも駆け付けますという24時間対応する体制のことです。 24時間対応体制をとっている訪問看護ステーションでは、看護師は日勤勤務と待機勤務というのを行うことになります。日勤勤務というのは、朝8時半から夕方17時半までの勤務です。この時間の中で、自分に割り当てられた利用者宅を数件訪問することになりますが、大抵の利用者さんは、30分未満、もしくは1時間未満の訪問であるため、一日に訪問できるのは5~6件になります。 24時間対応をしている訪問看護ステーションでは、日勤勤務が終わった夕方17時半以降は、待機勤務者が夜間の緊急対応の担当を行うことになっています。 待機というのは、緊急の場合に電話対応、もしくは出勤をするということです。呼び出しがなければ自宅で普段通りの夜、例えば夕食をとる、入浴をする、家族と過ごす、就寝するという過ごし方をすることができます。しかし常に待機の電話は、持っておかなくてはいけませんし、緊急の時には、すぐに駆け付けること必要があるので緊張感と心構えは必要です。
・夜間にかかってきた「寝ているんだ…ずっと…」という家族の訴え
ある時、こんな電話が家族からありました。 その内容は、夕方17時ごろには、頷いたりしていたんだけど、それからはずっと寝ているんだ…ということでした。電話がかかってきたのは、22時頃。 家族は自分が就寝する前に利用者のオムツ交換をするのが習慣であったため、22時ごろにオムツを交換したというのです。いつもならオムツ交換で体を動かすと、目を開けたり声をかけると頷いたりしていたのに、今日はよく眠っていてそんな動きがないというのです。 そのような電話があった時、私たちはアセスメントをするために、いろいろな質問をします。例えば 「息はしていますか?」 「ゼイゼイしていませんか?」 「顔色はどうですか?」 「熱はありませんか?」など。 これらの質問から、私たちは利用者の意識レベルや呼吸のレベル、発熱などを予想します。 ただ家族によって返答はさまざまなのです。的確に教えてくれる家族もいます。こちらから質問をするたびに、「ちょっと待って」と確認をするためにベットサイドに走り、なかなか情報がつかめないということもあります。 その利用者の場合は、何を聞いても家族は「寝ているみたい…」という答えだったのです。その情報だけでは私たちはアセスメントをすることはできません。そのため、すぐに訪問して様子を見に行くことにしました。 実際に訪問してみてその状況に訪問看護師が驚いたのは言うまでもありません。 確かに周りから見ると寝ているように見えたのかもしれません。しかし状況から判断すると低酸素状態であることは明らかでした。
・自宅の照明ではなかなか顔色を判断することが難しい
私は、昼夜を問わず利用者宅を訪問したときには、まず室内の照明を一番明るくしてもらいます。それは顔色などを判断するためです。 訪問するお宅によっては、夜間は間接照明を使用しており、顔色がわかりにくいこともあります。その状況で電話で「顔色はどうですか?」と聞いても家族は答えられないかもしれませんね。それは仕方がありません。 古いお宅でなかなか明るい照明が確保できない場合は、スマホの簡易ライト機能を使用することもあります。それで顔色やチアノーゼなどをチェックするのです。
・低酸素になっていた原因は誤嚥か
「ずっと寝ている…」利用者宅を緊急訪問すると、状況から判断すると誤嚥からくる低酸素が考えられました。顔色は悪く、SpO2は70台でした。また肺雑音があり、努力呼吸が見られました。 ただ家族からの電話があった時には、顔色は照明の影響ではっきり確認できなかったようです。布団にくるまれていたので、四肢の冷感もありませんでした。また肩呼吸は見られましたが、ヒュー音や喘鳴などは聞き取れなかったので低酸素状態とはわからなかったのですね。ただ今日は眠りが深いなあと思っていたようでした。 この状況から、主治医にすぐに連絡を取り、病院に救急搬送になりました。そして入院で適切な処置を受けることとなりました。 このように、電話では利用者の状況がつかみにくいとき、また「ずっと寝ている…」という言葉に「?」と感じた直感で緊急訪問をすることもあります。今回のケースでは、状況を把握しにくいことから緊急訪問した事例ではありましたが、早急な訪問で対応できた例でした。
・電話でアセスメントすることの難しさ
待機勤務で電話で状況を聞いてアセスメントすることの難しさはいつも感じます。そのため、本当なら実際に見て判断するのが一番だと思っています。自分の目と手で観察すると、より状況がわかりアセスメント出来るからです。 利用者を介護する家族も比較的高齢である場合は介護者の理解力もとても重要です。こちらが質問することにうまく答えられないこともよくあります。私たちはそのような家庭環境や介護者も理解して質問を投げかけますが、やはり電話ではすべて情報収集することは難しいですね。 そのような時には、介護者の電話の様子にも注意しています。慌てているのか?不安が強いのか?を感じとり、訪問の必要性を検討することも多いです。
・夜間の不安を少しでも軽減するために
訪問看護の経験がない看護師がこのような待機の話を聞くと、本当に電話だけで解決することも多いのか?と思うでしょう。確かに私も訪問看護で待機勤務をするまでは不安でした。どんな時でもすぐに出動しなくてはいけないのかと。夜間緊急訪問で、自分の判断で対応することが出来るのか。実際家庭では子育てをしながら、すぐ出動することは難しいのではないかと。 ただ実際に待機勤務で利用者や利用者家族の電話で話を聞いてみると、緊急性はないと判断し、夜間は電話相談で様子観察することも少なくありません。そのような時には、朝一番で電話観察を行ったり、日中に実際に訪問で状態観察し対応することも少なくありません。 利用者宅から電話があったとしても、それがすべて緊急で訪問を希望しているわけではありません。日中利用者一人で過ごし、夜仕事から帰宅した家族が日中の様子を利用者から聞いて、訪問看護に相談の電話をかけてくることもあります。こんな時どうしたらいいのかと。 そのような時には家族も「こんな時間にこんなことを電話して悪いのですが…」と前置きされることもあります。ただこのような電話が来るのも、自分たちと利用者・利用者家族の信頼関係があってこそだと思っています。また日中の訪問では、なかなか家族と話す機会がないので、良いチャンスだとも思い、快くアドバイスはするように心掛けています。 さらに夜間電話をかけてくる人の中には、ただただ不安だと訴える利用者も。確かに季節の変わり目、天候の変化などで精神的に不安定になる人もいます。また高齢者の中にはデイサービスに行く前日で気が重い、逆にデイサービスに行ってきて興奮して話を聞いてほしい人も少なくはありません。 どんな内容でも、私たちは夜間の不安に対応するために、電話がかかってきたら誠意に対応することを心掛けています。
・アセスメントすることはいつだって大切
以上のように、状態が悪く電話がかかってきて、その内容からアセスメントをしてすぐに緊急訪問をすることもあります。反対に、状態は悪くないけれど、精神的なことから電話をかけてくることもあるのでそれをサポートできるように傾聴することもあるのです。 どちらにしても、電話を介して情報収集をすることや必要な情報を聞き出すこと、またそれらでアセスメントすることは、訪問看護師にとって必要不可欠な重要なことでありながら、いろいろな事例があるので簡単ではないし、日々勉強が必要だなと常に感じています。
まとめ
いかがでしたでしょうか。看護師ならアセスメントをすることの難しさを感じたことはあるはず。訪問看護では、電話を受けてその情報から緊急訪問をするかどうか判断しなくてはいけません。電話で情報をすべて収集することはできませんが、電話の相手の言動、焦りや口調なども考慮しながら総合的にアセスメントして対応することが重要だと感じています。
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