施設では病院と違い、モニターがなかったり、CTを取れません。また、看護師のスタッフも少ないことが多いため、自分自身の判断がとても重要になります。そのため、体調を崩した方や、急変時には、慌ててしまいます。今回私は施設で勤務しているときに、脳梗塞になった方と関わったため、その事例を紹介したいと思います。
私は施設の中でも、ショートステイという、利用者さんが数日~数週間と短期的に利用することが多い場所で働いていました。
休み明けのある日仕事に行くと、なんだか数名のスタッフがざわざわしていました。どうやら昨日入所した女性の利用者Aさんの動きが昨日からおかしいと言っているようでした。
私は利用者Aさん(以下Aさん)に、いままでお会いしたことがなく、その日が初めて会う日でした。そのためAさんの、もともとの既往歴も、体動きの状態も何も知りませんでした。
そんな条件でも私はAさんの普段の様子を聞いたり、昨日様子を聞きました。そして
Aさんのところへ行き、今の動きを観察をしました。観察すると、Aさんには脳疾患があるのではないかとアセスメントしました。その日にいた他の看護師スタッフにも一緒に確認してもらい、すぐに家族に連絡してもらうように伝えました。その後、家族に迎えに来てもらい、病院を受診してもらいました。受診の結果はラクナ梗塞という脳梗塞でした。Aさんはしばらく入院する事になりました。
先ほどもお伝えしましたが、施設にはモニターなどの医療機器があまりそろっていません。あっても血圧計、体温計、聴診器です。そのほかの機器があったとしても、長く使用する事がなく、ホコリをかぶっているような状態です。
そんな中でも、脳疾患のアセスメントは触診などでアセスメントできるものが多いです。医療機器がほとんどない中でもできるアセスメントとスケールをお伝えします。
施設でできるアセスメントのコツ1:普段の様子、既往歴、内服薬を知る
これは何よりも大切です。利用者さんのベースの情報を知る事が、看護をする上で最も重要になります。そして情報を知っていることで、普段と今がどの程度違うのかが分かります。
また、既往歴をみることで、過去の疾患を知り、それによるリスクが分かります。過去に脳疾患やったことがあれば、再発するリスクも高いです。普段から頭痛があるのかどうかなども脳疾患の判断材料になります。
さらに、内服薬も非常に大切です。例えば血液をサラサラにする薬を飲んでいる方は、一度出血すると血が止まりにくくなります。それを踏まえると、体の中、脳や、内蔵などで出血すると目に見えないうえ、血も止まりにくくて、どんどん出血してしまうということになります。そのためにも、内服薬も知っておくことが大切でしょう。
施設でできるアセスメントのコツ2:意識レベルを確認する
現在意識レベルを確認するには、JCS(ジャパン・コーマ・スケール)GCS(グラス・コーマ・スケール)の2つが主流だと思います。
JCSは0、1、2、3、10、20、30、100、200、300という数字で分かれています。
簡単に説明すると、0~3までは刺激をしなくても覚醒している状態、10~30は刺激をすると覚醒するが、刺激ををやめると眠り込んしまう状態、100~300は刺激をしても覚醒しない状態となっています。
ちなみに刺激の中には揺さぶることや、痛み刺激があります。
痛み刺激はボールペンなどを指を使って爪に圧迫をします。
例えば声をかけたが、覚醒せず、何度か声をかけながら痛み刺激で覚醒し、やめると眠り込んでしまう状態だと、JCS30になります。
GCSはE1~4、V1~6、M1~6で分かれています。
E:開眼機能、V:言語機能、M:運動機能となっており、数字が大きいほど、正常な状態になっていきます。
例えば痛み刺激によって開眼し、理解不能な声を出し、痛み刺激によって払いのけるような動作があった場合は、E2V2M5となります。
施設でできるアセスメントのコツ3:会話のしにくさがあるか
普段の様子を踏まえてですが、会話のしにくさがあるか聞きます。いつもより話しにくいか、飲み物や食べ物が飲み込みにくいかなどをみます。もしそれらの症状があれば、麻痺が出現している可能性があります。
また、頭が痛くないかなどもきくと良いかと思います。激しい頭痛があれば、すぐに救急車を視野に入れて動きましょう。
もしその方に認知症があると、アセスメントがやりにくいこともあるので、質問の内容を変えることが大切です。
質問の例としては、「今日は何月何日ですか」「ここはどこですか」「痛い所はありますか」「吐き気はありますか」「動かしにくい所、話しにくいことはありますか」などと聞きます。その時の返答の言葉に違和感がないかを観察します。言語野に障害がでていると、返答がうまくできない場合があります。
施設でできるアセスメントのコツ4:顔面や眼瞼に左右差があるか
脳疾患の中には、顔面神経に麻痺が出現するものもあります。遠くを見てもらい、眼瞼に下垂がないか、口角に左右差がないかを見ます。口角の左右差は「いー」と言っていただくと観察しやすいです。また、眼球の動きも大切です。眼球に、眼振や偏視があれば脳梗塞や脳出血の疑いがあります。
施設でできるアセスメントのコツ5:体の動作をみる
普段の動きを踏まえた上で、四肢の動きをみていきます。
いきなり立ってもらったりすることは危険なので、まずは腕や足で観察できる所をやっていきます。
・観察者の両手をそれぞれ同時に強く握ってもらうことで、左右差があるかをみます。麻痺が出現していれば、握る力が弱くなります。
・運動麻痺をみます。
バレー兆候:上肢 閉眼したまま両手を前に伸ばします。その際手の平は上に向けてもらい、その状態をキープしてもらいます。麻痺側は下降してきます。
下肢 伏臥位で膝を90度に曲げる状態をキープしてもらいます。麻痺側は下降してきます。
施設でできるアセスメントのコツ6:MMTをみる
MMTは0~6で表します。重力の影響がなければ動かせるのか、自分で動かせるか、力を加えても動かせるのかでみていきます。これを四肢行い、評価していきます。
例えば左片麻痺のある方で、患側は上肢は重力の影響がなければ動かせ、下肢は自分で動かせるが、力を加えると動かせないとなると、右上下肢M6、左上肢M2左下肢M3となります。
もしできたらでいいですが・・・
施設でできるアセスメントのコツ7:瞳孔をみる
ペンライトが施設にあればですが、対光反射も見れたら見て欲しいです。脳疾患の中には、著しい収縮する場合や対光反射がない場合があります。
このように、脳疾患はたくさんの医療機器がなくても、自分の手や、ボールペンなどあるものを使いながらアセスメントをすることで、脳疾患の疑いがあるのかを観察することができます。そのためには、脳疾患を見極めるアセスメント項目を覚えたり、スケールを覚える必要はあります。
しかし、安心・安全に施設を利用していただくためには、看護をする側にも必要な知識になるかと思います。もし覚えられなくても、メモ帳などにまとめておき、いざという時につかうのもよいと思います。私も最初から覚えられていたわけではなく、何度も何度も繰り返し、メモ帳を見返してだんだん頭に入れられるようになりました。そうする事で徐々に見なくても頭に入っていくようになります。
まとめ
今回は私の事例をもとに、脳疾患の疑いのある方のアセスメントのコツをお伝えしました。施設だから利用者さんになにかあっても医療機器がそろっていないし、なにもできないということはないと思います。また、病院でも、プライベートでも、脳疾患の疑いがあれば、今回のコツがあればすぐに観察する事ができます。
知って損はないと思いますので、覚えていただけると嬉しいです。
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