手術室看護師」ってどんなイメージでしょうか。医療ドラマでよく見る、執刀医にメスを渡したり汗を拭いたりする人?なかなか具体的にイメージしづらい手術室看護師の実際の業務内容や、私が働いてみて感じたメリットやデメリット、なるためのコツなどをお伝えしたいと思います。
【手術室看護師の仕事内容】
手術の介助内容としては大きく2つあります。直接介助と、間接介助というものです。
直接介助は手術前に使用する器械の準備をし、術中医師に必要な器械を渡してスムーズに手術が進行するようにする役割で、「器械出し」と呼ばれることもあります。器械や使用するガーゼ、そして非常に細かい針の数まで正確に把握して管理しなければならないため、かなり細かい神経を使います。
間接介助は麻酔の介助や、手術中の記録記載などを行う役回りで、「外回り」と呼ばれることもあります。手術がスムーズに進行するように、急に必要になった器械や道具を走って取りに行ったり、術後には病棟やICUの看護師に申し送りを行うのも間接介助の仕事です。
手術室看護師は手術室以外で患者さんとの関りが無いのでは、という印象もありませんか?そんなことはありません。術前術後訪問を行う取り組みがかなり普及しており、私の勤めていた手術室でも行っていました。
術前訪問では、手術前日や当日朝などに患者さんのベッドサイドまで訪室し、本人と直接コミュニケーションをとって手術に対する本人の不安や、本人の体格などを合わせてアセスメントして、安全に手術が行われるように準備を行います。
そして術後訪問では、手術終了後当日や翌日に、患者さんのもとへ訪室し本人や病棟看護師から術後経過について確認します。ここでは術前から術後に行った看護の評価を行い、また次の手術対応へ向けてフィードバックを行います。手術後の患者さんから「緊張していたので、術前に手を握っていてくれて安心しました。どうもありがとう。」といった言葉をもらうこともあり、やりがいにも繋がりますよ。
【手術室看護師のメリット・デメリットは?】
まずメリットは大きく3つほど挙げられます。まず、解剖学的に非常に勉強になるという点。看護学生の頃に解剖生理学は嫌というほど勉強すると思いますが、実際に臨床に出るとなかなか人体模型の載っている教科書を引っ張りだして臓器の位置などから勉強することが大変になってきます。(もちろん非常に大切なのは言うまでもないのですが…。)
手術室では毎日解剖学的な知識をフル動員させて業務に当たらなくてはならず、必然的に人体の解剖にとても強くなりました。臓器の位置や、骨の名前、さらには眼球の動きを制御する腱の名称など…。そして挿入するドレーンの位置なども実際に目で見て理解できたので、その後病棟勤務を経験した際にも術後管理に非常に役立ちました。また滅菌操作や清潔不潔動作などは完璧にこなせるようになりますので、後に病棟で急な胸腔ドレーン穿刺の介助につく!といった場面や、日帰り手術を行うクリニックなどへの転職の際にもかなり強みになると思います。
次に、多くの診療科の医療者とコミュニケーションがとれるという点。手術室は本当に色んな科の医師が出入りします。外科のみならず、内科の患者さんも外科的処置が必要になることも多々ありますので、内科の医師ともすっかり顔なじみになりました。そして手術中は基本的には医師も入れ替わることはないので、長い時には丸1日同じ部屋で過ごします。さすがに手術中に雑談をすることはあまりないとしても、術前後の時間や終了後に話をする機会は多く、医師や放射線技師、臨床工学技士など院内のかなりの職種の人とコミュニケーションをとる部署だと思います。食堂に行っても知り合いのスタッフばかりで、食事の合間に「来週、こんなオペ入れたいんだけど。」「次のオペ、何時から?」と次々話しかけられたのもなかなか面白かったです。
最後はカレンダー通りの休日が多い、という点です。休日にも夜勤やオンコール、当直などもちろん勤務が入ることはあるのですが、他部署に比べて圧倒的に土日休みは多かったです。休みの予定が組みやすいですし、連休が比較的多い、というのは体力的にも非常にメリットでした。他職種の友人とも休日の予定が合いやすいのはとても良かったですよ。
反対に私が感じたデメリットを2つほど挙げておきます。まず、基本的看護技術の獲得が病棟と比べてかなり差が出てしまうこと。看護学生時代には繰り返し練習してきたであろう、日常生活援助技術。残念ですが、手術室では病棟と比べてかなり使用する技術が限定的になります。陰部洗浄や食事介助、洗髪、足浴などなど…。これらは手術室では活用しない技術です。1年目で入職した病院では、新卒入職者全員に技術到達チェックリストが配布され、1年かけてクリアしていきましたが手術室配属だった私たちはなかなかチェックリストがクリアできませんでした。ですが、移乗・移送介助や、挿管介助、尿道カテーテル留置、また輸血の管理など手術室で習得していく技術もたくさんありましたし、手術室で経験できない部分は病棟にリリーフに行って必要な日常援助技術の習得をさせてもらいました。
2点目はかなりの長時間立ちっぱなしであること。特に直接介助、器械出しなのですが、長い手術だと8時間ほぼ同じ場所に立ちっぱなし、ということもあります。もちろん交代で食事休憩などは取りますよ。ですが間に休憩を入れても軽く3・4時間はずーっと集中して立っていなければならず、最初の頃はかなり体力的にもしんどかった記憶があります。足が浮腫んでしまうので、手術室のスタッフはみんな着圧ソックスを履いていました。
【どんな人が向いている?なるためのコツや方法は?】
まずは1つのことに集中して取り組む忍耐力がある人。眼科の手術など短時間で多くの件数をこなす手術もありますが、大きな手術になると先ほどもあったように8時間などかなりの時間を1つの手術に対して取り組むことになります。膨大な器械の名称と役割、手術の手技、針糸の種類、そしてどの場面で何が必要なのか。長時間に及ぶ手術の中で集中力を切らさずに知識と技術と何より先読みする力を総動員して、安全に手術が行われるように介助を行わなくてはなりません。体力的にも精神的にも大変ですが、安全に手術が終わったときには本当に達成感があります。あとは、人とのコミュニケーションをとることが得意な人。手術中は患者さんも寝てしまっているのだから、コミュニケーション技術ってあまり関係ないのでは、と思いますか?私は経験的に、手術室看護師は特にコミュニケーション能力が必要だと感じています。患者さんに対しては短い時間の中で、不安が軽減できるよう、スムーズに麻酔導入への介助ができるよう関わっていかなければなりません。そして何より多職種の医療者と連携が必要とされる部門だからです。まずは診療科の医師。医師ひとりひとりによって必要とする器械が違ったり、術中の操作方法が違ったりしますし、1日の中ですべての手術をスムーズに終わらせられるように、麻酔科医や診療科医師と調整して手術時間を組んだり。医師への電話連絡や報告などは手術室でかなり鍛えられたと思います。その他にも臨床工学技士、放射線技師、薬剤師、手術で使用する特殊器械の業者など、かなりの人とコミュニケーションをとってやっていかなければなりません。人とコミュニケーションをとって、協力して働いていくことにやりがいを感じられる人が向いていると思います。
では、実際に手術室看護師になりたい!と思ったらどうしたらいいでしょうか。まずは、当たり前ですが手術室のある病院に就職しましょう。中でも大学病院など病床数の多い病院は、手術室の部屋数も多くあり、人員的に手術室への配属も多くなります。そして手術を行う診療科が多いほど、学べる技術や知識も多くなります。ですので病院選びのコツとして、病床数の多さや手術室の規模、そして担当手術の診療科の多さなどをポイントに検討していくといいでしょう。
まとめ
いかがでしょうか。手術室看護師の仕事や魅力が少しでも理解いただけましたか?手術室は本当に特殊な部署ですが、看護師経験に活かしていける非常に多くの知識や技術が習得できる場所でもあります。また、ワークライフバランスをとりやすい側面もありますので、ライフステージの変化にも対応しやすい職場の一つだと思います。手術室看護師になりたい!と思う方の参考になれば嬉しいです。
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