看護師として、入院してすぐに末期がんであると診断された患者さんと家族が癌を受容するまでの関わりと、痛いと言えないくらい痛みにのたうちまわっている患者さんをアセスメントした経験、そこから患者さんと家族との最後の時間を作り出した関わりについて記載する。
わたしは個人病院が大きくなった田舎の200床程度の総合病院で働いています。小さな田舎の病院なので高度先進医療とはかけ離れています。いろんな患者さんが日々来院されます。先進的な治療が必要と判断された人は他院へ送ります。当院はお年寄りがとても多いです。
その中でも印象的だったのが緩和ケア対象患者さんです。
お年寄りが多いため、自覚症状がなく、食欲がないという主訴で個人病院を受診した後、腹部の腫瘍を指摘されて受診され入院されました。
その患者さんは実は肝内胆管癌の末期状態でした。入院時の病名は「食欲不振」。そこから考えると少しおなかの調子がよくなれば自宅へ退院できるだろうと家族は判断されていたようです。しかし、その人の腹部の腫瘍は実際に触れることができるくらい増大していました。それも日を追うごとに大きくなっていました。検査を重ねて診断がつきました。
まず栄養がとれないので点滴をして対応はしました。とても腫瘍が大きくなっており、手術や内視鏡治療など根治的な治療が何もできないので、緩和ケアの介入となりました。
でも家族が納得しません。この患者さんは3か月程度前までは元気で食事をとって、畑仕事をしていました。それが、末期がんなんて信じられないのもわかる気がしました。普通、がん患者さんは、癌と告知され、治療して、でも再発して、という経過をたどってきた患者さんや家族は、その経過の中で納得ができる最善の治療をして、やりたいことをやってという経過をたどってきているので、病気を受け入れることができています。それでも、多くの末期がん患者さんはやり残したことや、どうして自分が病気になったのだろうと思ったり、受け止め切れていない患者さんが多いように思います。
見つかった時点で、がんの末期という状態。治療がない、時間がないということで、患者さんの家族はわらをもすがる形で近くの病院の緩和ケア専門医にかかりました。ただ、緩和ケアはあくまで緩和ケア。セカンドオピニオンを求めたように思いますが、同じ診断であり、治療することができませんでした。なので、緩和ケア専門医に受診しても、それは時間を浪費するだけのことでした。いかに栄養をとって、いかに状態がいい時間を作り出すことができるか、痛みのコントロールをしていい状態の時間を長くできるかが大切でした。
いろいろ、家族が納得がいくようにほかの医師のセカンドオピニオンを受診している間に、いつのまにか、少しでも食べていた食事を全くとれなくなり、点滴もしていたけれど徐々に点滴ルートがとれなくなり、点滴ができないような状態になっていました。。
家族は納得がいかないようでしたが、日を追うごとに腫瘍が大きくなり、徐々に患者さんはベットでのたうちまわるようになりました。おなかが痛いなら痛いと、言ってくれれば看護師としては鎮痛剤投与を早急に検討するのでしょうが、看護師は毎日みる患者さんが違い、その変化になかなか気づけないでいました。患者さんの疾患と今までの痛みや身体症状の表現から、この人はどうゆう状態なのかをアセスメントして医師と共有していくことで、患者さんのよいアセスメントにつながるのでしょうが、時間がないとなかなかそこまで踏み込むことができずに亡くなってしまう方も多くおられます。もっと何かできたのではないかと思ってしまいますが、病院という組織を考えると仕方ないのかなと思います。
ちなみに患者さん自身は痛くてどうしようもないとは言いませんでした。表情は、どこか何かにとりつかれたかのような顔。動きはベットを意味もなく動き回る。これこそのたうちまわっているという表現があう患者さんの状態でした。その患者さんに、のたうちまわったあと、少し落ち着いた状態のときに、痛みや身体症状を問うと、本人もどうしていいのかわからないと言いました。その中で、麻薬を開始するとそれでも効きが悪いので徐々に増量しようやく落ち着いて眠ったり起きたりするようになりました。このアセスメントは毎日みていないとできないし、患者さんをたくさんの視点で診ることができないと、いいアセスメントにはならないと感じます。
あと、問題は家族でした。なんせ、診断、告知されてから時間がない。まだ、信じることができない、信じられない状態でした。家族には毎日面会や電話をして会ってもらい、遠くにいる家族にもあってもらい主治医に何度も話をしてもらい、納得してもらいました。多くの家族に会ってもらうと、言葉だけでなく雰囲気でみなわかるものですね。
しかし、家族に会わせて、数日たたないうちに亡くなりました。ほんとに、がんを発見してから1か月程度しか時間はありませんでしたが、その中でできることって限られています。
きっと、もっと前から自分のからだの異変には気づいていたと思います。もうちょっと時間くれって正直思います。わたしたちだって人間なんだから、そんなに早く具合悪くなってもアセスメントできないよって思います。
看護師として入院してきてすぐに末期状態っていう人はあまりいない(何度も入退院繰り返している人はいます)が、全身の状態、毎日の変化、検査などからアセスメントして、家族との時間を作り出していく関わりをするって人生の終末期においてとても大切だし、なくてはならない時間を作り出すってことは看護師だからこそできることだと感じました。
私はこの関わりを通して、患者さんの主観的な疼痛(おなかがこんなにあんなに痛い)っていうことと客観的な視点(表情、動き)などからアセスメントして、身体所見をアセスメントしてかかわることの大切さを身に染みて感じました。 これ、学生のときに授業でこんな感じって習ってはいるんですけれどね。座学と実際が結びついていくって難しいのです。
それと、本当だったら緩和ケアをしっかり行うなら、どの患者さんも診断をしっかりされたところから介入をしていく必要があるってことも感じました。高齢者の看護って身体症状を表現してくれて、理解してアセスメントするってことがとても難しいなって思います。家族としては、あんなに元気だった人が、こんなに早く死ぬわけないって思うのも当たり前かと思います。
その疾患を受容できていない本人と家族にどれだけ寄り添って、納得していただける関わりができるかっていうのがとても大切なんだなって感じました。だって
治療ができない、治療の対象外である患者さんも看護師としてはしっかりと看護していかなければならない患者さんの一人であるのですから。
私の関わりがよかったか悪かったかはわかりませんが、正直、受容しきれていない中で亡くなったりしたら家族にとってはショックだろうし、ものによっては裁判ざたともなると思います。しっかりと、アセスメントと傾聴を行い、受容できていない患者さんへかかわっていくことって難しいとも思いました。
まとめ
小さな病院で先進的な治療はできないし、医者も少ないけれど、ある日やってきた高齢者の食欲不振の患者さん。それは実は末期の癌患者さんでした。その患者さんはほんの数か月前までよく食べてよく畑仕事をされていました。数か月での変貌ぶりに家族は信じられない様子でした。受容できていない患者さんや患者家族に寄り添い対応した経験をまとめました。
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