訪問看護師が自宅に伺った際、思った以上に利用者の体調が悪いと感じることがあります。そんな時、バイタルサインや聴診などを行って受診をするかどうか判断を問われることがあります。受診に至るまでの医師やケアマネなどとの連携なども含め紹介していきます。
毎週訪問している利用者宅に行ったとき、なんだかいつもと違うなと感じることはないでしょうか。事前に調子が悪い、最近食欲がないといった情報が、家族やケアマネからあった場合は、何らかの原因を考えながら利用者の観察を行います。そのため、何かいつもと様子が違う、その理由は何だろうと予測を立てながら観察したことをアセスメントをしていくこともよくあります。
しかし何も情報がなく、家人からも特におかしい様子は聞かれないという時。それでもバイタルサインをとり、胸やお腹の聴診を行ったときに、看護師の直感としてなんかおかしいなと感じることがあります。
そのような時には、どうしますか。利用者が自分の状態を言葉で表現できる場合は本人からも聴取することがありますが、もしも介護する家人がいつも身近にいる時、これまでの詳しい状況を聞かせてもらうこともあります。そして調子が悪そうな原因は何かアセスメントしていくのです。
・熱はない、でも調子が悪いという家族
ある時、利用者のお宅に伺い、「調子はどうですか?」と聞きました。布団で寝ている利用者は、顔色もよく特にいつもと変わった様子はありませんでした。ただ少し前に発熱し、解熱剤を使用したという情報を得ていたので、寝たきりの利用者に代わり家人に質問したのです。あれから熱はどうですか?調子は戻りましたか?と。
すると家人の答えは、「熱はないんです。あれから…。でも調子が悪いんです」と。調子が悪いという言葉を聞いただけでは、具体的にどんな風に身体の調子が変化しているのかわかりません。そこで一つずつ質問をしていきました。
「痰が増えていますか?」
「ウンチは出ていますか?」
「栄養は順調ですか?」
など。
胃ろうで寝たきりの利用者で、家人の介護なしでは生活できない方だったので、家人に聞けば何か聞きだせると思いました。そして一つ一つ聞いていくと、胃ろう注入するとき、毎回ではないが嘔吐があったということがわかりました。
それを聞いて利用者の観察に入りました。バイタルサインは特に問題はなかったものの、腹部の聴診をするときに、腹部を見てびっくり。いつも以上に腹部緊満感があり、聴診しても全く腸蠕動音が聞こえなかったのです。
下剤を使用し、排便は少しずつあったということでしたが、その場で摘便を試みることにしました。摘便をしても、排ガスや排便はわずかであり、腹部緊満感は軽減しません。
そこで胃ろうからの減圧を試みました。朝の栄養の残渣とその中に茶褐色のものが混じります。服薬の中に茶色のものがあるわけではない…。すると出血か?と考えられました。
・かかりつけ医に連絡することを決める
私が訪問したのはちょうど昼の胃ろう注入の前です。
腹部緊満感がある
胃ろうの残渣物に茶色のものが混じっている
時々吐いている
腸蠕動音を聴取することが出来ない
この4つのことから、私はかかりつけ医に連絡することを決めました。
そして連絡はするけれど、昼の栄養はスキップして午後から直接受診をしてもらいたいと家族にお願いしました。
ただ、栄養をスキップするということは、水分摂取量が減るということ。しかも嘔吐が続けば脱水になる可能性もあります。受診はお願いしたけれど、必ず家族が受診に連れていくという確信が持てたわけではありません。
そんな不安があったため、私は利用者宅からほど近いかかりつけ医に胃ろうの残渣物をもっていってみることにしました。
・本来は訪問看護師が突然病院に行くべきではない
通常利用者宅で何か問題があり報告すべきことがあった場合、大きな病院であれば地域連携室の相談員を介して主治医へ連絡することが多いです。地域連携室がなければ、主治医のいる外来や病棟に連絡をして看護師からつないでもらうということもあります。
今回のケースでは、
主治医の病院が小さなクリニックで地域連携室がなかったこと
利用者宅から車で5分以内という、ほど近い場所のクリニックだったこと
利用者は往診を受けておらず、定期的な受診をしていたこと
ほかの利用者の主治医としても連携を図っており、何かと相談しやすい環境であったこと
水分補給前の訪問であり、昼の注入をするべきか、また注入せず受診をするべきか早急な返事が必要だったこと
以上のことから、直接主治医の元に駆け付けたのです。
診察でもないのに、医師のもとに出向いて相談をするということは本当はご法度です。もしかすると診察代を請求されてもおかしくはありません。今回のことは運が良かったともいえますが、やはり日ごろからの医師との信頼関係の成果だともいえるのではないでしょうか。
・受診をしぶる家族には医師の言葉が重要な鍵を握る
利用者の家族の中には、発熱がある、嘔吐があるなど体調を崩しているので、受診をしたほうがいいかなと感じているケースもあります。また看護師としても観察、アセスメントした結果受診した方がよいと判断をして家族に伝えることもあります。しかし、受診が必要だと思っても、実際介護力が少ない場合や移動の問題などで受診をしぶることもあるのです。
このままで様子を見ても大丈夫ではないか?この体調不良は一過性のものではないか、更に在宅診療を受けていないけれど、万が一状態が悪くなったら医師が見に来てくれるのではないかと期待して受診をしぶることがあるのです。
しかし在宅診療を行う医師は限られています。また在宅診療の手続きをしておかなければ、簡単には医師は自宅まで来てくれないのです。その場合は、家人の送迎や介護事業所の送迎支援を受けて受診するか、救急車を要請して病院へ向かうしかありません。
今回のケースでは、明らかに腹部緊満感があり、嘔吐が続いている状態で、アセスメントをした結果、受診した方がよいのは明らかでした。しかし家族は、状況を説明しても受診することを悩んでいました。それは近いからいつでもいけるという思いもあったかもしれません。
そんな時に医師の言葉は絶大でした。「高齢だから、具合が悪くなるのはあっという間。だから早めに受診をするように」また「病院でしかわからないこともあるから、しっかり検査などしてみましょう。このままでは心配だから昼間のうちに…」と。
いつも信頼をしている医師のその言葉に家族は受診を決心したようでした。
受診をするということは決まりましたが、それで終わりではありません。ケアマネに連絡して介護力や送迎の不安がある家人のことを伝え、どのように受診をするか検討をしました。その結果、体調は悪いけれど、嘔吐は納まっている状態なので車いすでいけると判断して家人とケアマネで送迎することになりました。ここまでコーディネートしてケアマネに託したのです。
訪問看護師の仕事はアセスメントして終わりではありません。アセスメントしたことを家族や医師に伝えどのように受診につなげていくか?また受診までのコーディネートも重要な役割の一つだと考えています。
まとめ
いかがでしたか?訪問看護師が利用者の体調不良で受診が必要と判断したとき、医師に連絡、家人に受診のお願い、またケアマネと受診のコーディネートの相談もしなくてはいけません。特に緊急を要するケースの場合は、介護力や送迎などの問題も関連してきますが、受診に至るまでのスピード感が大切です。訪問看護に興味がある人はぜひ参考にしてみてください。
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