消化器とは口腔から胃、十二指腸、小腸、大腸、肛門が連なる臓器であり、食べ物の消化・栄養吸収、便塊形成などの機能を有する器官のことを示します。消化器疾患に罹患することにより、これら臓器に障害や異常が生じることで心窩部からお腹、あるいは排便の異常といった自覚症状が生じることがあります。消化器疾患といっても大変幅広いため、今回は消化器疾患を抱える患者さんに対するアセスメントのコツについて紹介します。
まず、消化器疾患について知る前に、消化器の基本的な解剖的知識のおさらいから入ります。なぜなら、消化器の各臓器には何かしらの機能があり、臓器によっては分泌される消化液の違いがみられるため、1つ1つの消化器の臓器を抑えることがアセスメントをする上でのコツとなります。消化器疾患の症状だけを覚えても、なぜその症状が出現するのか?のイメージが掴みにくいです。消化器の機能の何が障害されているのかを考えることで、解剖生理から辿ることができ、だからこういう症状が生じるのか!といった考えに結びつきやすいです。看護師の国家試験では疾患の種類や症状を覚える程度で大丈夫かもしれませんが、臨床では圧倒的に消化器疾患を抱えている患者が多く、何かしらの消化器の機能を整える薬を使用している患者も多いです。国家試験でも状況設定問題等で何かしらの消化器疾患を抱える問題も出題だれることがあるともいますが、その疾患の知識がなくても、その疾患はどこを障害しているのかが分かれば、推測で回答することも可能です。ここでは、消化器外科・内科で勤務したことがある筆者の経験に基づき、消化器の解剖生理およびよく出会う疾患についての説明をしていきます。
【食道】
食道は、口腔に入れた食物を胃へと輸送する約25cmの細長い臓器です。主な機能としては食物を輸送することが中心です。消化器官の中で唯一、漿膜という消化器官を覆う膜がない臓器です。漿膜がないことが何を意味するかというと、食道癌に罹患した際に、リンパ節というリンパ液が流れる経路にがん細胞が転移しやすいという事が起きてしまいます。しかも、食道は内径が約2cmであり、食道になにか腫瘍などの異物が生じることで、食べ物の通り道が限りなく狭くなってしまい、病状によっては食べ物が食道を通ることができなくなってしまいます。そういった場合、鼻から栄養剤を入れるためのチューブをいれたり、胃に栄養を入れるための管である胃瘻を増設したり、栄養を取り入れるための経路を確保する必要があります。また、食道は気管とも隣接している臓器でもあるので、食道癌などの腫瘍の位置によっては、気管にも影響が及んでしまう場合もあります。食道の位置と何の臓器と隣接しているかを踏まえた上で、食道系の疾患はアセスメントしていくことが必要です。
【胃・十二指腸】
胃は、食道から運ばれてきた食物を1.5~2Lも蓄えることができる臓器です。食物を蓄えつつも、消化液を分泌して食べ物を消化していきます。主に胃酸というphが低い液を分泌し、食物を消化していきます。そして、十二指腸に運ばれると肝臓で作られた胆汁や膵臓で作られた膵液と合流し、さらに食物や栄養素を分解していきます。胃では胃酸という食物を溶かす強力な酸性の液が分泌されていますが、胃の粘膜は保護されているため基本的に胃の粘膜が溶けることはありません。しかし、ストレスや薬の影響で胃酸の分泌が亢進したり、胃の粘膜バリアが弱くなったりすることによって、胃潰瘍や十二指腸潰瘍という消化管の粘膜に深い傷ができる場合があります。胃酸と胃粘膜のバリアは常にバランスが保たれていますが、何かしらの異常によりこのバランスが崩れることによって胃・十二指腸系の疾患が生じることがあるため、ストレスを感じやすい人は要注意です。
【小腸】
小腸と聞くと、細長い臓器を皆さんはイメージされるかと思います。しかし、小腸は実は3つの名称からなる臓器が合わさったものを示します。それは、十二指腸・空腸・回腸です。少々ややこしいですが、先ほど説明した十二指腸はこちらの小腸に分類されるので、注意しましょう。小腸だけを暗記してしまうと、患者さんの情報収集する時の先生のカルテ記載されてる空腸・回腸ってどこだ?という事態になってしまうため、小腸だけでなく十二指腸から回腸までを覚えましょう。全消化管の中で最も長い6~7mの器官であり、食物の消化と栄養素・水分を吸収する機能があります。小腸の粘膜には絨毛という栄養素を吸収するものが生えています。回腸末端では特にビタミン12と胆汁酸の吸収が行われているので、こちらも覚えましょう。なぜなら、ビタミン12の不足は貧血に関わり、胆汁酸の不足は下痢に関わるからです。ビタミン12は赤血球の合成および胆汁酸は便を固める作用があります。回腸末端はクローン病という炎症性腸疾患の好発部位でもあるので、こういった回腸末端に病変が生じる疾患では貧血が生じることがあります。栄養素の吸収でも特に回腸末端では特定の栄養素の吸収を担っていることは押さえておきましょう。
小腸はとても長い器官ですが、実は食物が通る速さは1~2時間と言われています。そのため、最近では小腸の中を観察する際にはカプセル内視鏡検査といって大きい飴玉位のカプセルを内服し、胸にシールと特殊な軽いバックを下げるだけで小腸の中を観察することもできます。
過去には小腸は《暗黒大陸》と言われるほど未知な臓器でしたが、現在では医療の発達によりダブルバルーン内視鏡という風船を膨らましながらの観察および狭くなっているところを膨らませることも可能となっています。 小腸は細長く狭い臓器であり、かつ栄養素・水分の吸収を担っている器官であるため、小腸に病変が生じる場合は栄養状態や脱水徴候がないか注意するようにしましょう。
【大腸】
大腸とはどんな器官というと、実は少しややこしい臓器です。大腸は盲腸・上行結腸・横行結腸・下降結腸・S状結腸・直腸(上部・下部直腸)を示します。そのため、大腸に疾患が生じた際は、どこに病変があるのかは非常に重要な情報になります。なぜなら、大腸の中でも病変部位によって症状の状態が異なるからです。肛門に近い直腸あたりの異常は、排便時に真っ赤な鮮血が付着していたり、小腸に近い異常では腸管に滞在している時間が比較的長いためやや濃い血液が排便に付着していたり、病変の部位を把握することは大腸疾患の特徴を理解する上で必須です。 大腸の機能は主に水分の吸収と便塊の形成です。実はこれも疾患を理解する上で非常に重要な情報で、大腸疾患の治療において人工肛門という便の排泄経路を確保することがあります。大腸の部位によっては、全く便の性状が異なるため、人工肛門から排泄される排便の状態が正常なのか異常なのかを把握する上で大腸の解剖を理解することは必須です。例えば、上行結腸にある人工肛門では、水っぽい便が排泄されますが、肛門に近いS状結腸では比較的硬い便が排泄されます。このように、大腸では大腸を構成する臓器の名称と機能を押さえておきましょう。 このように、大腸は盲腸から直腸に至るまで、食べ物が便に移る段階において正常に排便がされているか、あるいは排便に異常があるかといったことは、大腸の異常を示唆する情報になります。大腸疾患は大腸で覚えるのではなく、どこに病変部位があるのかといった視点でアセスメントすることがコツとなります。
【肛門】
最後は肛門になります。肛門は排便をする時に非常に重要な臓器になります。なぜなら、肛門には内肛門括約筋と外肛門括約筋という2種類の筋肉によって排便コントロールを行っています。内肛門括約筋は、不随意筋により無意識に弛緩・収縮します。外肛門括約筋は、随意筋により意識的に弛緩・収縮します。このように、肛門における筋肉の働きは肛門疾患を理解する上で必要な知識となります。 一部の肛門疾患を紹介すると、肛門では痔瘻という、瘻孔という穴が肛門周囲に生じ、その穴に排便などが溜まることで膿瘍が発生し肛門周囲膿瘍という発熱や疼痛を伴う場合があります。痔瘻の状態によっては、肛門括約筋を貫通していたり、複雑痔瘻とってシートン法というゴムをいれたり、肛門括約筋を切除したりといった治療が施されるため、肛門の解剖・機能を理解した上で病態・治療を理解することが必要です。 肛門は、中々人に見せる部位でもなければ、自分で確認することも殆どできない臓器です。そのため、異常を感じていてもそのまま放置することによって、病状が進行するといったことも珍しくありません。そのため、肛門をアセスメントする際は、看護師はこういった患者の心理状態を加味した上で、プライバシーに最大限配慮しながら聴取することを心掛けることが必要です。
まとめ
いかがでしたか、消化器疾患は解剖生理を踏まえて疾患の特徴を理解しないことには、治療内容の理解や必要な看護ケアの計画には繋がりません。そして、消化器は人間の食事摂取という行動と密接な関係があるため、人間の三大欲求である食欲が阻害されるということも忘れてはいけません。そのため、消化器疾患を抱える患者さんは食事を摂れない辛さや苦痛が存在します。そのような辛さや苦痛を軽減できるよう、食事形態の工夫により効果的な栄養摂取ができるよう考慮していかなければなりません。また、肛門疾患のように、プライバシーへの配慮が最大限求められる場合もあるため、一口に消化器疾患といっても様々な知識が必要であることを感じて頂けましたでしょうか。消化器疾患を抱える患者さんのアセスメントとしては、消化器の解剖生理を押さえてから疾患について理解していくというプロセスを意識していきましょう。
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