忙しい病棟で働いている人ほど一人の患者に対応できる時間が少なく、患者さんの食事内容や摂取方法があまり観察できていないのではないでしょうか。私は急性期病棟で働いていましたが、まさに走って配って配膳して下膳の流れでした。私たちにとっては毎日行っている業務の一部ですが、「食べる力」とは、言い換えると「生きる力」です。人が生きるために大事な栄養摂取について、今回は食事について改めて見直してみましょう。
・新人さんからの報告!食事を摂取していないから点滴?? 「〇〇さん、全く食事を食べないんです。」「点滴もしてなくて・・・。」 患者さんの食事摂取量が少ない・・・新人さんがこういった事例にあたると、報告の際に脱水リスクを挙げ、点滴での脱水予防を提案してくる子がとても多いです。
口からがダメなら血管から・・・それも一つの手段だと思います。
ですが、そもそもなぜその患者さんは食事をしないのでしょうか。報告してくれた新人さんに質問し返すと答えられないことが多いです。少ないスタッフで何十人もの患者さんを対応しているなか食事している姿までは見ていなかったのでしょう。食事下膳後に書いてある食事摂取量の紙をみて報告してきただけだった様です。電子カルテや食事表をみて、数字だけを報告することは誰でもできることです。そういった患者さんが居た際はまず、食事をされている様子を観察し、なぜ食べないのかをアセスメントから始めましょう。
・ノーマークだった患者さんがまさかの脱水??? ケガや病気が落ち着いた患者さんは病室がだんだんとナースステーションから遠くなり、看護師の目から離れやすいです。
「元気そうだし大丈夫」、それって本当に大丈夫ですか??何らかの理由で何日か食事できていないことがスルーされ、脱水になってしまいレベル低下・・・その時に初めて食事が摂取できていないことが発覚する、ということは割と病棟であることです。これは気づけたアクシデントともいえます。高齢者は症状も分かりにくく、少しの異変にも早期に気づけるよう敏感になりましょう。
・点滴を開始するときのリスクって結構大きいのです。
点滴での脱水予防も方法としてはありますが、食べない方の大半は高齢の方ではないでしょうか。高齢の患者さんは認知症がある方も多く、悪気なくルートを自己抜去することがとても多いです。1日何回も抜く人、多いですよね。その度にルート確保、正直手間がかかります。何度も同じ処置に時間は掛けられず、ルートを抜去しないために抑制帯やミトンを使用してしまうことも日常茶飯事。そして患者さんは自由に動けなくなり廃用症候群の進行・・・筋力低下、認知症の進行、昼夜逆転・・・患者さんの命を守るために行っている点滴が、逆に患者さんの生きる力を奪ってしまっていることもあるのです。裏を返せば脱水目的で点滴管理にしている方は、食事や飲水量を増やせば輸液を無くすことができるという事です。患者さんにとって自由に動くことができないことは大きな精神的な負担となり得ます。患者さんのストレス軽減のためにも、食事や飲水のアセスメントの重要性が感じられますね。
・口から摂取しないことで起こりえること。病棟ではよく見かけます。 食事を口から摂取することが難しくなるとどういうことが起こりえるでしょうか。口腔内乾燥が進行し唾液の分泌が低下、口周りの筋肉を使用しなくなり嚥下力の低下に繋がります。いままで普通に食事を食べることができていたのにむせこむ患者さん、見かけませんか?嚥下力が低下してオーラルフレイルが進行してしまっているのでしょう。食事の誤嚥は容易に誤嚥性肺炎を併発してしまいます。肺炎を合併すると、ますます口での摂取が厳しくなり、患者さんにとって良い環境とは程遠いものになってしまいます。 点滴で電解質を補正することはひとつの治療方法ですが、その人の残存機能を活かすためにも脱水予防を目的とする点滴加療は最後の手段であると私は感じています。
そのため、まずは新人さんには点滴と考える前に一度食事のアセスメントを行う癖をつけてほしいと思っています。 ・まずは患者さんのところに行って!食事の光景をみてみよう 入院してから全く食事を摂取されない患者さんって意外と多いです。「認知症があるからなんで食べないのか分からない」「もともとそんなに食べない人なのかな」、など疑問に思ったことはどんどん先輩に相談してほしいです。 「義歯はあっているのか?」「この人は魚や肉を噛みちぎる咀嚼力はあるのか?」「水ではなく他のものでは飲めるのではないか?」「口腔内はきれいか?潤っているか?」「むせていないか?」「この体勢で食べることはできる?」など、食事の場面では多く観察できるものがあります。
もしかしたら、その患者さんは食べたくないのではなく食事形態が合っておらず食べることができないのかもしれません。入院前は米飯ではなくパンを食べていたのかもしれません。また、これは新人さんだけでなく全スタッフに言えることですが、ポジショニングが出来ておらず患者さんが苦痛な表情で見つめてくる・・・非常によくみる光景です。まずはベッドをそのままギャッジアップするのではなく、患者さんの体勢を整える癖をつけましょう。テーブルの高さも重要です。円背が強い患者さんはテーブルの上の食事が見えていなかったりします。患者さんの目線で見てあげてください。不適切なポジショニングは嚥下しにくい状態で食事摂取することになります。
誤嚥リスクがとても高い状況で患者さんが自力で食事を摂取している姿は見ていて冷や冷やします。
・入院前と現在とでは何が違うのか知っていますか? ここでポイントなのが、「患者さんの入院前のことを知る」ということです。施設や病院から入院された方であれば、そこでどうやって過ごされていたか記載されている情報診療提供書があると思います。
意外とそのなかに重要な情報が記入されている事が多いです。今から少しお話させていただく話は、食事を全く摂取してくれなかった患者さんのひとつの事例です。入院時から全介助、認知症もあり食事を認知しているのかも分からない状態です。食べない理由は必ずあると考え、その方の診療提供書を漁ってみると、以前の病院では共有広場で毎日食事されていたと記載されていました。今は全介助レベルなのに・・・?と疑問に思いましたが、車いすに乗せてみると一切食べなかった食事をほぼ完食できたという事例もあります。毎日患者さんが変わる様な目まぐるしい病棟であるほど食事の情報は見落としがちです。ぜひ新人さんでも食事摂取状況に疑問を感じたら、診療情報提供書を手に取ってみましょう。病棟にもよりますが実習中でも相談すれば見せてもらうことができるかもしれません。 また、ご自宅から来た方であればご家族さんに電話をして以前好みだった内容を聞くこともひとつの手段です。差し入れは拒否なく食べる患者さんも中にはいるので、困ったときはチームとなってご家族の方と協力することも大切な援助に繋がっていきます。
・それでも食べない患者さんは??? なかにはそれでも食事を摂取しない患者さんもいると思います。そういった方はすでに脱水になっているのかも。ぐったりしていませんか?脱水によりレベルが低下している為食事摂取ができないことも多々あります。入院前のキャラクターが分からないとレベル低下さえ評価しにくいこともあると思いますが、そのときはDrに報告し点滴の検討をしても良いと思います。電解質が補正されるとレベルが落ち着き自己摂取できる場合もあるので、慎重に援助していきましょう。
・学生さんが実習の際の食事のアセスメントにも使えます 上記でお伝えしたことは、新人看護師だけでなく学生さんの実習でも使えます。学生さんは一人の患者さんと一緒に居ることができる時間が多いです。しっかり観察して安全に食べることができるよう援助してあげてください。
慣れていないためかポジショニングができていないまま隣で食事を見守る学生さんも多い印象です。まずは「食べにくくないかな?」「見えているかな?」としっかり観察してあげてください。さらに、食事形態には肉一つでも一口大、ペースト、キザミ、常食など多くの形態があります。小さく切れば食べることができるのに、常食のまま提供されていることもあります。食事形態が合っていないと感じたらぜひ指導者に相談してみてください。私が学生さんの指導者のときに食事の提案までできる学生さんがいたら「この子はここまで観察できているんだな」と評価も上げてしまいます。 また、問題点として脱水リスクを上げている学生さんは多いです。飲水を促す計画も立てることができています。しかし計画は出来ていても実践が上手くいかない子が多く、もったいないなと思ってしまいます。食事の時間になると一斉に水の促しが始まるのです。誰であっても水の一気飲みはできません。食事の最中だけでなく日々の生活の中に飲水を促す工夫を取り入れると指導者だけでなく受持ちスタッフからもちゃんと援助している学生と評価してくれますよ!飲水チェック表があれば記入も忘れずにしてくださいね。
まとめ
多忙な病棟業務のなかにある食事援助はルーティン業務になってしまい、患者さんの食事している姿がスルーされてしまいがちです。「生きる力」を保つためには、むせが無いように援助するだけでなく、相手の声に耳を傾け、その人自身が持つ口から摂取できる力がどれだけあるか観察を行うことが必要になります。忙しいなかでも、うぃ食事に対する観察・想像力を身につけて援助を行っていきましょう。
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