目の前の患者さんは、どのような疾患で、どんな症状が起こるのか、正常なのか異常なのか、その判断を行うことが看護師にとっては大切です。そしてそのためには、ひとつひとつのことに対して疑問を持ち、根拠を見つけることが重要であり、それこそがアセスメントへつながります。
私の勤務していた職場は外科内科混合病棟で、多いときには一日七件の手術が行われ、日々周術期の患者さんの看護にあたっていました。簡単な手術を終えてのんびりしている方もいれば、長時間の大手術を経て一晩中苦しむ方もいます。どんな患者さんがいたとしても、看護師としては気が抜けず、いつ急変や状態変化があるかと慎重に観察をしていく必要があり、慣れるまでは緊張の連続で、夜勤で人数が少ない時間帯だと不安で仕方なかったときもあります。
そんな環境でも、落ち着いて、スムーズに看護ができるようになったきっかけは、アセスメントの基本をつかんだことでした。誰でもいつの間にかできるようになっていることだとは思いますが、これは、私が考えるアセスメントの基本です。
【指示された観察項目は、あくまで最低限のもの】
電子カルテには、看護師が行うべき業務として最低限の「指示」、「観察項目」があります。たとえば術後であれば、意識状態、創部の状態、排液量・性状、点滴についてなど、ずらりと並んでいると思います。それは、ほとんどの場合疾患や術式ごとにワンクリックで登録される、お決まりの指示や観察項目。ということは、同じ手術を受けた患者さん全員にとって起こりうる合併症や症状であると同時に、個別性はないものということになります。
「そこに書いてあることをするだけなら、通りすがりの子どもでもできるよ」と言われたことで、私は初めて自分が何も考えずに機械的に業務を繰り返していたことに気づきました。看護師が「おかしいな」と思う目を持つためには、アセスメント力が必要です。そしてアセスメントができるようになれば、「指示された項目を観察する」のではなく、「自分で考えて観察したことが、カルテでも指示されていた」ことであるとわかります。何なら、場合によっては指示が不足していることに気づき、自分で観察項目を増やすようになります。
【根拠を持った看護の自信、安心】
私がアセスメントを意識したのは、Aさんという、手術に恐怖心を抱いていた患者さんと関わったときでした。婦人科疾患の術後一日目、離床のとき、Aさんは泣いて創部痛を訴えました。また、歩行自体に恐怖心を持っていたこともあり、ひとまずベッドに戻って状態確認をして、休憩を挟むこととなりました。私はそのとき、「午後もう一度一緒に歩こう」と考えましたが、同時にふっと思ったのです。「なぜ、Aさんの離床を問題ないと判断したのか」。
理由はいくつもありましたが、うちの一つを記します。
Aさんは下腹部の開腹手術のあとです。起こりうる可能性の一つとして出血のリスクがあります。陰部から出血があればわかりやすいのですが、外につながる傷口は縫合しているので、実際に血が流れているのは見えないかもしれません。なら目に見える出血以外にはどのような症状が起こるのか。大量に出血すると、腹部の膨満が見られるかもしれない。血圧が下がり、頻脈になるかもしれない。顔面蒼白になるかもしれない。もともと痛みに弱い人だけど、比較できないくらいの苦痛が現れるかもしれない。
これらはすべて、Aさんと一緒に歩き、その手に触れていればすぐに発見できる異常なのです。
出血という一つの症状だけで、これだけ患者さんの様子は変わります。そして実際のAさんはベッドに戻ったあとは安心したのか、休みながらテレビを見ていて、穏やかな表情をしており、また状態にも変化は見られませんでした。
出血以外にも多くの合併症やリスクが考えられますが、私はそのときのAさんにそれらは起こっていないだろうと判断するだけの根拠があり、だからこそ、問題ないと判断していたと気づきました。今の状態であればリスクは少ないし、もしも異常が生じたとしても、それを発見するだけの観察はできるという自分自身に、安心し、これが「アセスメント」なのだとわかりました。
それにより、離床が遅れることのほうがAさんのためにならないと判断して、Aさんの不安に寄り添いながらもゆっくりと歩行練習を再開することができたのです。
Aさんはやはり不安が強く、痛みにもそれほど強い方ではなかったため、「こんなに痛いのに動いて大丈夫なんですか?」や、「やっぱり痛くなくなるまで寝ていたい」、「こんな症状がある、何か大変なことが起こっているんじゃないか」など、多くの言葉で訴えてきてくれました。しかし、それらひとつひとつに明確な根拠や理由を持って答えられる素地があると、Aさんも、それ以外の患者さんでも、理解し、納得し、少しでも早く回復できるように、一緒に頑張ってくれるようになりました。
【簡単だけど、大事なポイント】
私がAさんの出血リスクを考えたときに観察したポイントは、振り返ればほとんどが指示されたカルテの「観察項目」に入っています。ですが、入っていない項目もありました。
患者さんの正常、異常を発見するためのアセスメントを行うには、まず「なぜ? どうして?」という疑問を持つことが大切です。最初はカルテの「観察項目」のひとつひとつに対して疑問を持って、逆算して考えてみるとわかりやすいです。「腹部膨満感」とあれば、きっと正常は「無」であり、「有」が異常です。では、目の前の患者さんの疾患からして、何が起これば「有」になるのか、また、判断するには患者さんとどんな話をして、どこを観察すればいいのか。それを繰り返していくことで、自然と患者さんの症状と疾患が結びついてきて、学校で習った看護関連図を作成したときのような図が自分の中でできあがってくるのがわかります。そうなると、自信を持ってアセスメントができるようになってくると思います。
幼少期に「なぜなに期」みたいなものがありますよね。私はアセスメント、ひとつひとつの看護の根拠を考える大切さを実感したときに、覚えてもいないその時期に一気に舞い戻ったような気がしました。
【患者さんはどんな人? これもアセスメントの要素】
真面目なことを考えることも大切で、勉強も欠かせませんが、患者さんとじっくりコミュニケーションを取ることも大切だと私は思います。その人が、普段どういった生活をしていて、何を大切にしているのか。どんな悩みがあって、何が好きなのか。痛みに対する考え方や、性格、退院後の計画……。そういったさまざまな情報は、患者さんの症状を観察するときにとても役に立って、看護の助けになります。少しの末梢神経障害でも、指先の繊細な作業が必要な人と、少しパソコンを使えたらいいくらいの人では意味が大きく異なります。また、普段から大げさに話す人と、絶対に弱音を吐いたことのなかった患者さんが同じように苦痛を訴えたとしたら、そのときの危機感って、やっぱり少し違います(もちろん、どちらの場合でも観察すべきところは見る必要がありますが)。
少しの違いに気づけて、その人に合ったアセスメントができるのは、一番患者さんと関わる時間の長い看護師だということも、忘れずに大事にしていきたい部分です。
まとめ
自分はなぜそれを観察しているのか、どうしてその情報が必要なのか、逆算して考えてみると、意外と簡単に答えは出ます。そしてそれがアセスメントなのだと思います。難しく考えずに繰り返してみると、カルテの指示項目に物足りなさを感じるくらい、自然と必要な観察ができる看護師になっているはずです。それに何より、自分で考えることができるようになったら仕事が効率的で早くなるし、患者さんと向き合う時間も増えて嬉しいことばかりなので、新人看護師さんにもぜひ挑戦してみてほしいです。
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