高齢化が進み、病院に入院しているほとんどが70?90歳代の高齢者です。彼らにとって入院生活というのは人生の中でのごく一部の部分に過ぎません。しかし、看護師としてアセスメントする上で必要なことは、その入院している一瞬ではなく元気な頃の患者さん、患者さんの背景を知ることがより良いアセスメントに繋がります。
「アセスメント」と聞くと聞きなれない看護学生さんは何のことだかさっぱりわからないですよね。私も学生の頃はそうでした。授業でアセスメントという言葉はたくさん聞くし学校の先生も当たり前のように使うので、いざ「アセスメントして下さい」と言われると、アセスメントってそもそも何?と考え込んでしまい、なかなか課題が終わらなかったのを覚えています。
看護師として働くうちに、「アセスメントってこういう事だったんだ!」と少しずつその意味が分かってきました。今考えると学生の頃に何であんなに難しく考えすぎていたのだろうと思うほど簡単で、私達は日常生活において普段から無意識のうちに「アセスメント」をしていたんだなぁという事がわかりました。
では、アセスメントとは何でしょう。医療の現場にいると日常的に聞く言葉ですが、いざ説明しろと言われると難しいかもしれません。
アセスメントというのは、簡単に言うと予想する事です。例えば、赤ちゃんが泣いていると、誰しもが「なぜ、泣いているのだろう」と考えると思います。
この時に「お腹が空いているのかな?」「オムツを変えて欲しいのかな?」「体調がわるいのかな?」と色々予想するこれこそがアセスメントなのです。
このように考えると、とても簡単に感じますよね。
では、下記の事例を通して一緒にアセスメントしてみましょう!
【事例紹介】Aさん、90歳代半ば、脳梗塞後のリハビリテーション目的で入院中。左半身麻痺でADLは全介助レベル。食事にムラがあり食べたり食べなかったり、食事量は主食5割、副食3割程度。転院してきてすぐの頃はまずまず食事が摂取できていましたが、入院が長くなるにつれて食事摂取量が減少傾向でした。食事内容を見ただけで、いらないと全く手を付けない日もありました。採血でもALB、TP値が低下しつつあり、どうにかして食事を摂取してもらおうと、食事形態を変更したり補助食品のゼリーやジュースを追加していろいろ試してみましたが食事量は全く改善しませんでした。
さて、皆さんはこの事例のAさんの様な患者さんに出会った時どう考えますか?どうして食事量が減ってしまったのか、好きな献立じゃなかったから?体調が悪かったから?病棟看護師をしているとAさんのような患者さんに遭遇する事はよくある事です。
なぜ食事量が減ってしまったのか原因を考えると色々予想する事ができますよね。
ある日、私はその患者さんがなぜ食事を食べようとしないのか、本人に直接聞いてみました。
するとAさんはしばらく黙り込んだあと、ゆっくりと「あまり美味しくない」と答えました。病院食なのでどうしても食べ慣れない薄味の味付けだったりでAさんのように答える入院患者さんは沢山います。続けて、甘いものは好きではないのかと尋ねると「甘いものより、酸っぱいものが好き。レモンとかシークワーサーとか」と話しました。そして「これを飲むと(ハイカロリージュース)お腹下すの」と答えた。
ここでわかるのが、Aさんが補助食品を食べなかった理由が甘いものが好きではなかったからという理由でいる事とたまたま補助食品が追加されたタイミングで下痢になった事でAさんはそれを摂取すると下痢になってしまうかもしれないという不安があったということです。
確かに、補助食品はどれも甘ったるい味で甘いものが好きではない人からするとかなり食べづらいです。高齢者は甘いものが好きだからといったこちら側の勝手な判断で食事を食べない=補助食品でカロリー補給をするといったルーチン的な考えをしてしまった自分が恥ずかしくなりました。またAさんが下痢になってしまうかもしれないという不安があった事も初めて知りました。
後日、家族とのファミリーカンファレンスがありました。そこで現在のAさんの様子について相談しました。すると家族からは「元からです。」と返答がありました。よくよく話を聞いてみると、Aさんは若い頃から食事の好き嫌いが激しく、好みでないものには全く手を付けないこともしばしばあったそうです。自宅ではどのような食事をしていたのか、どんなものを好んで食べていたのかを家族に聞いてみると「元気な頃はお気に入りのせんべいとスナックパンは好きでずっと食べていました」と話し、続けて「数年前に胃がんで胃の手術をしてから食事量は減りました」と教えてくださいました。
元々食事量摂取量が少なく好き嫌いが多かったと聞いて、今回の入院がきっかけで食事量が減ったのではないとわかり少し安心しました。
Aさんの年齢は90歳代半ば、健康のために無理矢理食べたくもない食事や苦手な甘い味の補助食品を食べてもらい体重を維持するのはあまりにも酷な話です。
その頃Aさんはさらに何も食べなくなっていて、食事0割にまでなっていました。何でもいいからAさんが食べられるように医師にも相談し、Aさんが入院前に好んで食べていたレモンゼリーや好みのおせんべい、スナックパンを家族にも協力してもらい持ってきてもらいました。病棟スタッフとも情報を共有し、食事の時に家族が持参したゼリーやパンを本人に渡してもらうようお願いしました。
そうすると、Aさんは今までに見た事ないようなとびっきりの笑顔を見せて、「これが食べたかった、久しぶりだわ」とパンをぱくぱくと食べ始めました。
Aさんはこれを機に食事量が少しずつ増えていきました。
もし、あの時Aさんと家族から何も情報を得ていなかったら私は未だにAさんに対して本人が食べたくもない病院食や甘い補助食品をずっと提供し続けていたかもしれません。
なんでも教えてくれる患者さんであれば患者本人から情報を得られればいいですが、ほとんどの患者さんは自分のことをあまり話そうとしません。また、高齢患者さんが増えた今、認知機能が低下している患者さんも多くおられるので本人から情報を得るのはさらに難しくなります。そこで家族にも協力してもらい、情報を得る事がより患者さんに寄り添ったケアに繋がります。
看護師として働いていると、日々の業務に追われ患者さんや家族と関わる時間がどうしても少なくなってしまいます。また看護師はシフト制という事もあり、受け持ち患者さんの様子を毎日見ることはできません。また自分の出勤中に家族が来られて話ができる状況があるとも限りません。
必要な場合は他の看護師にも協力を得ながら患者さんや家族から情報収集しましょう。
アセスメントは決して難しい事ではありません。ただ、聞き慣れない言葉なので私達は勝手に難しいと思い込んでしまっているのです。アセスメントをする上で特別なスキルはなにも必要ないのです。
もちろん、経験を積み重ねていくうちにアセスメント力というのは向上していきます。それはコミュニケーション能力や疾患の知識というプラスアルファのスキルが身に付くからです。
しかし、こちらは実際に看護師として働きアセスメントをする回数が増えれば誰でも必然的にできるようになります。
まとめ
患者さんを知るためにはその人が生きてきた背景や環境を知る必要があります。先ほども上げたように、看護師として働いていると日々の業務に追われ、忙しく患者さんや家族と話す機会が少なくなると思いますが今一度患者さんの話をゆっくり聞いたり、その家族と話す機会を設けてみて下さい。患者さんの背景を知り、アセスメントする事で解決へのヒントが何かしら得られるかもしれません。
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