私は長年、地元のクリニックで勤務してきました看護師です。
クリニックというと医師の診察が主で、看護師はあくまでも医師の診察や処置の介助をする程度のものと思われがちですが、実はアセスメントがとても重要な場でもあるということを日々、実感しています。
私のこれまでの経験から、クリニックにおけるアセスメントの重要性についてお話させて頂きます。
クリニックには毎日、老若男女、様々な患者さんやそのご家族がいらっしゃいます。高齢者、若者、妊婦さん、小児、外国人、身体的に障害のある方、心の病気を抱えている方など、多くの方が診察と治療に訪れます。しかも、その半数近くは新患だったりもするわけです。
新患の場合、まず最初に問診表を書いて頂き、それを元に情報収集を行っていきます。
主訴を聞いた上で、何がつらいのか、何に困っているのか、どうしたいのかなど患者さんの今の状態や悩み、希望を伺います。その後、既往歴、内服薬、アレルギーの有無など、必要な情報を把握していきます。
そして、このような情報収集をしている間にも、考えられる病名、緊急性はないか、感染症の疑いはないか、診察前にやっておくべき処置や看護はないかなど、頭の中で考えながら患者さんと向き合うようにしています。
それらの情報を整理して、医師に伝えるべき情報をカルテに記載したり、必要があれば直接医師に伝えたりもします。またスタッフ間で共有すべき事項があれば、診察前に情報交換していきます。
もし緊急性があると判断した場合には、医師に報告すると同時に血圧や脈などのバイタルチェックも行います。その際、患者さんの状態を医師にわかりやすく報告するためにも、アセスメントはとても重要になってきます。
患者さんは今日はどんな主訴で来院して、今どのような症状を訴えているのか、患者さんからお話を聞いている間にも、顔色や呼吸の異常はないか、麻痺や言語障害はないか、一刻も早く医師の診察を受ける必要があるものなのか、あらゆることを想定しながら情報を収集、整理して分析し判断するアセスメントを行わなくてはなりません。
それによって医師への報告も的確になるでしょうし、自分が今すべき処置や看護がみえてくると思います。
以下、私の経験した事例から、アセスメントの重要性や必要性についてお話していきます。
事例1
皮膚科に来られた患者さんです。
「15分程前に蜂に刺された」と、痛みを訴えて来院されました。
刺された箇所は赤く腫れて、かなり強い痛みを訴えています。保冷剤を準備して冷却するよう説明しながら、現在の症状を確認しました。痛みと腫れ以外に息苦しさや気分不快などの症状がないか尋ねると「ちょっと息苦しい」との訴えがありましたので、脈をとりながら患者さんの観察をしました。顔色良好で冷感やふらつきなどもありませんでしたが、アナフィラキシーショックの初期症状と判断し、すぐに車椅子で処置室のベッドへ移送、他の看護師と連携してバイタルチェックを行い、医師へ報告、すぐに診察・処置をしてもらえるように手配しました。
その後、ステロイドの点滴が行われて症状が改善しましたので、内服薬と外用薬が処方され、迎えに来て頂いたご家族と一緒に帰院されました。
来院された時に患者さんご本人からは、呼吸困難の訴えは一切ありませんでした。ごく軽い症状であれば、蜂に刺された恐怖と痛みで、たとえ症状があっても自覚されていないこともよくあります。それゆえに蜂に刺されて間もない受診の場合は、アナフィラキシーの症状の有無を必ず確認し、アセスメントすることが重要となってきます。
また帰院の際にも、念のためご家族に迎えに来て頂くように患者さんに説明しました。症状が改善したから大丈夫だろうではなく、万が一を想定して患者さんに声かけをすることも看護の大事なポイントだと思います。
それからこのような緊急性のある場面では、スタッフとの情報共有も大切になってきます。自分一人では対処できないと判断したら、すぐに他のスタッフに声かけをして協力を仰ぐということも大事なアセスメントの過程だと思います。
事例2
内科に来られた患者さんです。
患者さんは、高脂血症で長年通院されていらっしゃいました。いつも大きな声でお話をされるとてもお元気な方でしたが、ある日、来院されて中待合室に呼び込んだ際、少し歩き方がいつもと違います。
「どうかされたのですか?」と声をかけると、ご本人は「今朝からちょっとふらふらしてうまく歩けないんだよね・・」とおっしゃいましたが、既にろれつが回っていません。私は脳血管性の疾患かもしれないと判断し、すぐにベッドに寝かせ医師に報告しました。
その後、救急車で総合病院に搬送され、入院治療を受けられたそうです。
ここでポイントになってくるのは、長年通院されていた患者さんという点です。
新患ではなく、何年も定期的に通院されていた患者さんゆえに、いつもと違う、何かおかしいと思って声をかけたので早期に対処することができました。
長く通院されている患者さんの場合、何か変わったことがあった時にすぐに気づき、そして的確なアセスメントができるように、普段の状態をちゃんと観察し把握しておくことが大切だと痛感した事例でした。
事例3
皮膚科に来られた患者さんです。
患者さんはアトピー性皮膚炎で通院していた小学生で「塗り薬をつけてもなかなか良くなりません」と、一緒に来院された母親からの訴えがありました。
医師の診察前に、どの薬をどんな風に塗っているか、塗り方や塗る回数を聞き、そして残っている薬の本数などを確認しました。すると1日2回塗るように処方されていた薬を1日1回しか塗っておらず、しかも少量ずつしか塗っていなかったため、薬もまだかなりの本数残っていることがわかりました。
ここで考えないといけないのは、患者さんの今の状態を把握すると同時に、なぜ1日1回しか薬を塗ることができないのか、外的な要因なのか、それとも内的な要因なのか、その原因を知るということです。そこがわからないと医師も看護師も的確なアプローチができません。
聞けば、母親はパートで働いていて、しかも他に幼い兄弟がいて手がかかるため、なかなか塗る時間がないということでした。
母親の大変な状況に共感すると共に、患者さんはもう小学生なので、自分で塗れるところは塗らせてみることや、どうしても塗れなければ一回量をたっぷり塗ったり、休日に集中的に塗ってあげましょうとアドバイスをしました。もちろん外用以外にも、症状の改善に向けてアドバイスができるところはしました。
このような場面でも、アセスメントはとても重要になってきます。患者さんの症状や母親の訴えを聞いて、そして皮膚の状態を見て分析して、どのようなアプローチが必要なのかを判断していくことになります。外用回数が少ない以外に何か症状が改善しない原因はないのか、そこでアドバイスできることはないのか、その辺りも情報収集と分析が必要になってきます。
ただ一方的に「しっかり塗りましょう。塗らないと良くなりませんよ。」と母親に言ってみたところでおそらく何も伝わらず、きっとまた同じことの繰り返しになってしまうことでしょう。
アセスメントを行うことによって、その患者さんにあったアプローチの方法がみえてくるのだと思います。
まとめ
クリニックとなると、患者さんと接する場面や時間はごく限られたものになってきます。それだけにわずかな時間で、どれだけ多くの情報を得て分析し、判断するかが求められます。そしておそらく文面にはしなくても、無意識のうちにそれぞれの頭の中でアセスメントが行われているのだろうと思います。
自分は患者さんのために何ができるのかを常に考えていれば、必然的に何をすべきかが見えてきますし、それが看護の質の向上にも繋がっていくものだと考えます。
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