看取り期の患者さんには様々な症状がみられます。看取り期の患者さんのアセスメントのポイントは身体症状だけでなく、精神症状社会的・経済的問題を含めた、包括的なアセスメントを行うことです。今回は、この包括的アセスメントのポイントについて、できるだけわかりやすく、経験を踏まえてお話させて頂きます。
特に、がん患者さんの場合は、身体症状としてがん性疼痛や全身倦怠感、食欲不振、睡眠障害などの症状が多くみられます。身体症状が顕著にみられるため、そこにばかり目を向けてしまいがちです。しかし、患者さんの今の精神状態はどうなのか、例えばうつやせん妄、希死念慮等になっていないか、社会的・経済的問題では、家族関係、家族の疲労、経済的問題はないかなど、患者家族を含めたアセスメントを行い、支援に繋げることが重要となってきます。
〈看取り期の患者さんの身体症状のアセスメントのコツ〉
・バイタルサインの変化はないか
→がん患者さんの場合は腫瘍熱が出ることがあり、連日スパイク熱のような温度版になることがあります。腫瘍熱かは、他の発熱の要因(感染や誤嚥性肺炎等)を除外しなければならないため、熱だけでなく全身状態の観察や採血データ等との照らし合わせも必要となります。
また、酸素化の低下はないか、血圧の低下はないかなど注意深く観察します。看取り期の患者さんは、オピオイドを使用することによる呼吸抑制が起こりやすくなります。また、苦痛を取ってあげる意味での鎮静剤を使用することで呼吸抑制に繋がることもあるため、呼吸器基礎疾患の有無を把握し、起こりうるリスクをアセスメントすることが重要です。酸素投与量の上限も呼吸器疾患のある患者さんなどは酸素の過剰投与にも注意が必要なため、事前に医師へ投与上限量を確認しておきましょう。
血圧にも注意が必要です。看取り期の患者さんは食欲不振や倦怠感から口から食べることができなくなり、脱水傾向になりがちです。看取り期の患者さんは急変する可能性が高いため、急激な血圧低下により家族が最期に間に合わなかったとならないよう、事前に昇圧剤の使用の有無を家族に確認しておきましょう。また、状態変化時は早めに家族へ連絡することも大切です。
・検査データの変化はないか
→ヘモグロビンの急激な低下がないか、CRP、腫瘍マーカーの上昇はないかを確認しましょう。吐血や下血などが起こるリスクのある患者さんは、急変する前に家族に内視鏡等の侵襲的処置を行うのか、輸血はするのか等も確認しておくことも必要です。急激なCRP上昇は腫瘍によるものではなく、感染や誤嚥性肺炎など他の要因の可能性もあり、他の疾患を併発するのを防ぐ、または早期に発見するためにも、採血データとバイタルサインからしっかりアセスメントしましょう。
しかし、看取り期の患者さんは苦痛を緩和することが目標となるため、採血等の検査の苦痛をできるだけ与えないように、検査は最低限にする必要があります。本当に必要な検査なのかもアセスメントし、医師へ相談できるようになるといいですね。
・痛みの場所、種類、性質、持続性等
→看取り期の患者さんは痛みをできる限りなくすことが重要です。はじめは非オピオイド(カロナールやロキソニン等)で疼痛コントロールを図ります。それでも疼痛が改善しない場合は、オピオイド(モルヒネやフェンタニル等)を使用します。オピオイドを使用する場合は副作用として、吐き気・便秘・眠気・呼吸抑制等起こるため、副作用の観察も行い、患者さんにあったオピオイドの量の調整を行うことが大切です。この副作用は、常に傍でみている看護師がいち早く気づき、アセスメントを行うことが重要となります。薬剤については必要に応じて薬剤師や医師と相談しましょう。
・眠れているか、昼夜逆転になっていないか
→看取り期の患者さんで多く見られる症状の一つが、睡眠障害です。昼夜問わず、疼痛や倦怠感がある看取り期の患者さんに、夜間に“休んでもらう”ことが大切です。夜間眠れていないようなら、疼痛コントロールとともに、眠剤を使用し休んでもらいましょう。眠剤も様々な種類があるため、内服薬がいいか即効性のある注射剤がいいかなどアセスメントを行います。日中はなるべく起きていられるように疼痛コンロールを行い、食事時は車椅子に移乗する等してリズムをつける工夫をしましょう。
〈看取り期の患者さんの精神的苦痛に対するアセスメントのコツ〉
・不安やいらだち
→看取り期の患者さんは年代も様々です。高齢の方もいれば、お子さんがおられる40代50代の方もおられます。お子さんがおられる患者さんは、自分のことだけでなく、残していく家族のことが気がかりで、不安は絶えません。コロナ渦の中、病院は面会禁止の所が多いため、なかなか会うこともできない状況で精神的苦痛は大きいものだと思います。また、思うように身体も動かず、家族や医療者にあたってしまう方もおられます。ここでのアセスメントのコツは、とにかく患者さんの声に耳を傾け、患者さんの本心はどうなのか、どうしたいのかをくみ取り、寄り添うことです。普段はなかなか話せないことも、毎日顔を合わせている看護師にはぽろっと本音がこぼれることもあります。看取り期の看護の中で一番難しいところが精神的苦痛への看護だと思います。
〈看取り期の患者さんの社会的苦痛に対するアセスメントのコツ〉
・家族関係
→例えば、独居で家族とは疎遠で長年連絡をとっていない、あるいは連絡先を知らない。また、離婚歴がありどちらに連絡をするか等、看取り期には患者だけでなく家族も絡んできます。そのため、状態悪化時は誰に一番に連絡をするのか、面会をどこまで許可するのか等を統一しておく必要があります。
・家族の疲労
→本人の最期に過ごしたい場所で一番多いのが“家”です。しかし、家族は今まで家で介護していたため介護疲れがあり、今後家で看ることは難しい場合があります。そのときは、患者さんと家族の思いを傾聴し、双方が寄り添えるような支援が必要となります。もし、家で看取りを行う場合には、家で看れる環境はあるか、ない場合は介護保険や医療保険を利用し介護用ベッドやポータブルトイレなどを準備しておく必要があります。また、バックベッドの確保や緊急時の支援体制を整えておくことも必要です。また、家族同士や家族以外にも親類などでサポートしてくれる人がいないか確認し、介護する家族がひとりにならないよう、家族へのサポートも行います。
家族は精神的にも疲労があります。看取り前後では、本人へどうふるまえばよいか、家族の存在が本人の支えになっているかなど、不安や思いがたくさんあります。そこで、看護師は、患者さんにどのように声かけを行ったらよいか、家族の存在自体が患者さんの励みになっていることを説明することで、家族の心のケアにも繋がります。
・経済的問題
→生活保護受給者や金銭的に問題のある患者さんは、無料低額医療を受けられる病院もあるため、患者さんのバックグラウンドの情報も得ておくことが必要です。長期の看取りになる場合、受け入れ先の病院や施設を選定する必要があるため、看護師は早期に介入が必要かアセスメントをすることが大切です。困ったことがあれば、院内にソーシャルワーカー等があるとことは相談してみるのもいいでしょう。
まとめ
経験上、看取り期の患者さんで、急激な疼痛増悪やせん妄などいつもと違う、と思うことがあれば、その後に急激な血圧低下や酸素化低下などの状態変化が起こることが多いです。そのため、家族にもその都度状態の説明を行い、家族も受け入れができる体勢をつくってあげることも看護師の役割です。看取り期の看護は患者さん一人ひとり違い、奥深いものです。看護師だけでなく医師や薬剤師、栄養士、リハビリスタッフなど多職種と連携しながら、患者さんと家族に寄り添える看護師になれるように、身体的問題・精神症状社会的・経済的問題を含めた、包括的なアセスメントをしっかりと行っていきましょう。
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