昨今、日本人の2人に1人はがんになると言われています。がんになると、やはり1番怖いのが「がん性疼痛」です。がん性疼痛は、身体的苦痛と精神的苦痛を伴い、患者の日常を奪ってしまいます。そこで、オピオイドによる疼痛コントロールが必要になります。疼痛コントロールが上手くいくと、日常が戻ってきます。しかし、副作用も大きいです。今回は、便秘に着目し、アセスメントと看護について説明したいと思います。
緩和ケア病棟では、がんの患者は「がん性疼痛」で苦痛を伴うため、鎮痛剤を使用し疼痛コントロールをおこなっています。
鎮痛剤には、アセトアミノフェン、非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)、オピオイド(麻薬性鎮痛薬)、神経障害性疼痛緩和薬、その他の鎮痛・解熱薬などがあります。とくに、オピオイドは強力かつ効果的なため、よく使用されています。
【疼痛コントロールの目的】
緩和ケアにおいて、疼痛コントロールはとても大切なケアです。本来、全く痛みがなくなることが理想的ですが、それはとても困難なことです。現実的には徐々に痛みを取り除いていくということが重要な看護となります。疼痛コントロールの基本の3段階のステップを意識しアセスメントをしていきます。
まず、第1段階「夜間、痛みに妨げられず良眠できる」です。人は、夜間眠れなかったり、疼痛で覚醒してしまうことは、精神的苦痛や身体的苦痛を伴います。そのため、疼痛で夜間、覚醒することなく、ぐっすり眠れることは身体的にも精神的にも重要です。夜間、熟睡感を得ることで、ストレスが減ります。そして、身体的にも楽になるのです。
第1段階がクリアし夜間良眠が得られるようになると、第2段階「昼間、安静時の痛みが消失している」です。とにかく安静にしているときだけでも、痛みを感じたくありません。これが達成されるとその人らしい穏やかな療養生活が送れるようになります。
次は、第3段階「身体を動かしても痛みがない」です。安静時の痛みが消失したら、やはり体動時も痛みがなくなると、どれだけ良いことでしょう。これをクリアできれば、起き上がりたい時に起き上がったり、自分で食事をしたり、入浴したり、外出や外泊をしたりとできることが増え、日常生活を問題なく行うことができるようになり、日常に笑顔が戻ってきます。そして、社会復帰も可能となります。
このように緩和ケアにおいて、オピオイドを上手く使用することは、患者のQOLの維持向上となり、とても大切なことです。
【オピオイドと便秘のメカニズム】
人の身体の各種臓器からは、多くの消化酵素が分泌しています。消化酵素は唾液や胃液、膵液などに含まれており、それぞれ、分解する物質が異なります。消化酵素の特徴の1つは、順番に仕事(化学的消化)をしていくことです。最初は、食物に含まれる栄養素を分解し、消化管を辿るにつれ、細かく分解していきます。胃で分泌される消化酵素であるペプシン、膵液から分泌される消化酵素のトリプシン、キモトリプシン、小腸の絨毛上皮細胞上のアミノペプチダーゼなどによって分解されていきます。消化酵素は食物に含まれる栄養素を分解し、血液やリンパ液に吸収されやすい形に変える働きを持っています。
しかし、オピオイドの副作用で、その消化酵素の分泌を抑制してしまいます。さらに、消化管の蠕動運動も抑制するため、食物の消化が遅滞してしまい、腸管での食物の通過時間が延長するのです。さらに食物が大腸で長時間とどまっているため、腸管の水分吸収が一段と進み、便は固くなり、結果、便秘が起こってしまいます。
【オピオイド以外の便秘の要因】
もちろん、オピオイド以外にも便秘の要因はたくさんあり、アセスメントすることが大事です。
例えば、がん関連では、腹水貯留や胸水貯留、腸閉塞、高カルシウム血症などが考えられます。もしくは、オピオイド以外の使用薬剤の影響として、抗がん剤、抗コリン薬、利尿剤抗けいれん薬、抗うつ薬、抗精神薬、鉄剤なども重度の副作用として便秘が挙げられます。また、食事摂取量の低下や水分摂取量の低下に伴う脱水もあります。他にも、麻痺・体力低下による腹圧低下、蠕動低下などの活動性低下も要因となります。痛みによるストレス、不安など精神的苦痛も要因となり得ます。
【便秘の悪循環アセスメント】
オピオイドと便秘のメカニズムで述べたように、便秘を起こしてしまうと、さらに悪循環にハマってしまいます。
便秘になると、腹部膨満感や腹部不快感が出現し食欲も低下します。他にも、胃部を圧迫し、嘔気や嘔吐などの消化器症状が出現する可能性が出てきます。すると、食事摂取量が減り、食事摂取できないことにより、栄養状態も低下していきます。そして、体力が低下し、悪液質が憎悪することがアセスメントできます。
また、便秘の状態で、トイレで怒責をかけることで、症状が悪化します。例えば、呼吸器症状のある患者は、有効な呼吸が困難となり呼吸困難感が出現し、症状悪化するかもしれません。疼痛がある患者は、怒責をかけることで、不必要な力が入り疼痛が増強する可能性があります。出血している患者は、さらに出血するかもしれません。無効な怒責をかけることで、体力までも奪ってしまい、そのあと入浴予定だったのに、疲労感で入浴できなくなることも考えられます。そうなると、ADLまで落としてしまいます。
このように便秘になることで、他症状の出現の可能性があり、ただただ苦痛を伴うしかありません。たかが便秘、されど便秘!オピオイド使用している患者の看護の中で、排便コントロールは重要です。
【下剤使用についてのアセスメント】
便秘にならないように、オピオイド開始時の下剤投与を検討します。
オピオイド開始時の下剤投与に関して、国内のガイドライン(がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン)においては、「オピオイドを開始する時は、患者の排便状態について十分な観察を行い、水分摂取・食事指導や下剤の投与など便秘を生じないような対応を行う」と述べられています。そのため、以下2パターンでアセスメントします。
1.以前より便秘ではない患者、便が柔らかい患者、もともと下痢をしている患者:オピオイド開始時の下剤の定期的併用は、必ずしも必要ない。排便状態を観察することが重要である。
2.以前より便秘傾向の患者、下剤を服用している患者:オピオイド開始時から下剤を定期的に投与、または作用機序の異なる下剤を追加し、排便状態を観察して調節する。
全ての患者に、下剤を使用するのではなく、個別性に合わせて使用方法を検討することが大事です。
【看護師としてできること】
基本的なことですが、やはり患者の負担にならない範囲で、水分摂取し脱水にならないようにすること、食物繊維の多い食品を摂取すること、可能な範囲で軽く身体を動かし活動性をアップすること、腹部のマッサージや温罨法し保温をおこない、腸蠕動を動かすことが大事な看護ケアとなります。そして、日々の観察として、排便状況、便の性状、回数、腸蠕動の状態、腹部症状として腹部不快感、腹部膨満、腹部膨満感、消化器症状として嘔気や嘔吐、他にも、食事内容や、食事摂取量、水分摂取量、ADLなども大切です。
緩和ケアにおいて、オピオイドによる疼痛コントロールは欠かせない治療です。しかし、効果が期待できる分、副作用も大きいものです。その副作用を最小限にとどめるため、患者の状態をアセスメントし、個別性のある看護ケアを提供しましょう。それが、患者のQOL維持向上につながります。
まとめ
これまで述べてきたように、オピオイドを使用して疼痛コントロールし痛みが軽減することは、患者の日常生活をより良いものにできます。上手くコントロールするためにも、重大副作用である便秘にならないよう気をつけることが必須です。看護師として、便秘にならないようにアセスメントし排便コントロールをおこない、患者のQOL維持向上に努めましょう。
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