循環器内科というと、「心臓の疾患は難しそう」「急変が怖い」などと嫌煙する方が多いのではないでしょうか。しかし大学病院などの大きな病院で働くと、意図せずに循環器内科に配属となることもあります。私もそんな一人でした。そんな中、働いていくうえで見えてきた循環器内科特有の看護についてお話しします。
循環器内科に配属されるまでの経緯はそれぞれあると思います。
循環器内科の実習が楽しかった方、疾患に興味がある方、知り合いがいるから希望した方、部署異動を命じられた方…など、私が働いている病棟はそういう理由の方々がいました。かくいう私も、大学病院で7年間消化器内科や呼吸器内科や救命救急科などで勤務していましたが、8年目から循環器内科への移動を上司に命じられました。働いてみると循環器内科は今まで経験してきたどの科よりもアセスメントが需要だと感じたので、その経験をお話ししたいと思います。
病院にもよると思いますが、循環器内科は「カテーテル治療目的で入院してくる短期入院の患者」「繰り返す心不全のため入退院を繰り返す長期入院の患者」「不整脈の精密検査」が主な疾患です。その中でも「繰り返す心不全のため入退院を繰り返す長期入院の患者」の患者に対してのアセスメントはとても重要になってきます。
まず、心不全とは何らかの原因で心臓がポンプとして機能しなくなり、全身の臓器に必要な血液や酸素が十分に行きわたらない状態のことを指します。それは心臓に原因のある場合や心臓以外に原因がある場合もあります。
心不全には「急性心不全」と「慢性心不全」があります。名前の通り急性期か慢性期です。繰り返し入院してくる患者は「慢性心不全の急性増悪」で入院となる場合がほとんどです。その増悪要因としては、風邪や過労?ストレス、水分や塩分過多、薬の飲み間違いなどと様々ですが、みな体重の増加・下腿浮腫・息切れなどを認めて緊急入院となります。
そのため再入院となった際は、なぜ今回慢性心不全の急性増悪に至ったのかというアセスメントが重要になってきます。ここが循環器内科特有の看護になります。
最近自宅での生活で変わったことがなかったか話を聞いたり、薬の残数を実際に見せてもらったりすると、なにかしらの原因が見えてきます。その情報をもとに、医師や薬剤師やセラピスト(PT・OT)や栄養士と情報共有を行います。原因に対して看護師がすべて対応しなければならないわけではありません。情報共有を行い、任せられる部分は任せましょう。例えば、薬剤師は内服について看護師より詳しく説明を行ってくれますし、セラピストは医師の指示のもと心臓リハビリテーションを行ってくれます。
また家族からの情報をアセスメントすることも大切です。本人は減塩しているつもりでも実際はそうでなかったり、家族が患者の食事療法について理解を示していない場合もあります。そのため栄養士からの指導が必要な場合は料理を作る家族も同席できるよう、看護師は調整する必要があります。慢性心不全の患者にとって塩分制限はもっとも重要です。心不全はいったん発症すると緩解と増悪を繰り返しながら徐々に状態は悪化していく疾患のため、食事療法は生涯必要であり、そこに対してストレスを感じる患者は少なくありません。患者の好みを把握し、これなら続けられそうと思える方法を模索することが大切です。
そして心不全手帳を記載する習慣がつくように、入院し状態が落ち着いた早い段階で指導を行います。心不全手帳は、毎日決まった時間に体重や血圧を測定し記載してもらいます。慢性心不全の急性増悪で入院となる患者は、「最近ひどいなと思っていたけど、もう少しで再診だから我慢をしていた。」「久しぶりに体重を測ったら前に退院したときより5kgも増えている。」という患者も少なくありません。退院後に自宅での変化に自身で気づいたり、再入院になった際に自宅での状況をアセスメントする材料するため、
入院中から退院に向けて指導していくことが循環器内科の看護の大切な1つであると考えます。
また、「ACP(アドバンス・ケア・プランニング)」という言葉をご存じでしょうか。ACPは別名「家族会議」とも呼ばれており、将来の変化に備え、将来の医療及びケアについて、本人を主体に、その家族や近しい人、医療・ケアチームが、繰り返し話し合いを行い、本人による意思決定を支援するプロセスです。つまり、元気なうちからどういう死に方をしたいか話あっておくということで、これは既往がある人のみならず私たちのような健常者もACPについて考える必要があります。
私は循環器内科に配属になるまでACPが身近なものではありませんでした。消化器内科や呼吸器内科で働いていたときは、繰り返し腹水が溜まり弱っていく患者さんや、耐え難い痛みに対して鎮静剤を用いて常に寝たままの状態の患者さんをみることはありました。それらの患者さんは急変時の対応はどうするか、心臓マッサージを行うか、挿管はするかなど、医師が本人や家族と相談して決める場面はありましたが、概ねいつごろそうなるのが予測された中での話し合いでした。そして、少しずつ弱っていく患者さんの看護をしているとそろそろ死期が近いのかなと看護師の経験を重ねるにつれ、感じるものがありました。
しかし循環器内科の疾患の場合は、そうではありません。家族と面会しいつもと変わらない様子で談話をした後にシャワーに入り急に心停止となった患者さんや、心電図モニターで急に不整脈が出現し、訪室した際にはもう意識がなかったという患者さんを目の当たりにしたときは衝撃でした。
そのため、ACPについて考える機会を設けることも循環期内科の看護の大切な1つであると考えます。なかなか、元気な段階で突然ACPの話をすると、そんなに悪い状態なのかと驚く患者さんもいると思います。そのため患者さんとの関係性をまずは築いたうえで、タイミングを図り、話をゆっくり聞く時間を設ける必要があります。日々業務に追われる中で患者さんと関係性を築くのはなかなか難しいかもしれませんが、勤務の日は受け持ちの患者さんのところに挨拶に顔を出すだけでも少しずつ関係性が築けると思います。まずは名前を毎日患者さんに伝えることから始めてみましょう。
また、ひとりでACPについて話をしようと考えるのは荷が重い看護師もいると思うので、決して1人で抱えずに同じチームのスタッフとカンファレンスを行い助言を求めるとよいと思います。看護はチームで行うものです。先輩でも後輩でも、相談すると自分とはまったく違う視点から意見をくれることがありとても参考になります。また「●●さんの楽しみは相撲観戦らしいよ。」「牛乳が嫌いっていってたからヨーグルトに変わったよ。」など、他のスタッフが持っている情報から思わぬ収穫があるかもしれません。そしてACPに関してはできればパンフレットを作成し、そのときに患者さんがどのように考えていたか記載できると「このときはこういう考えだったんだな。」と患者さん自身振り返ることできたり、患者さんと家族で「こんな話を聞いたよ。」と情報共有ができるツールになるのではないかと思います。
まとめ
慢性心不全の急性増悪の患者に対して大切な看護は、自宅での生活がどのようなものであったか話を聞いたり心不全手帳を見せてもらったりして、今回の入院の原因がなになのかアセスメントすることです。
そのためには入院中から心不全手帳の記載の指導を行っていく必要があります。
そして急に状態が悪化する可能性もあるため、元気なうちからACPについて考える機会を提供することも大切です。
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