病棟勤務は忙しいことが多いと思います。忙しさは病棟の特徴によって違いますが、重症度・介助度が高い、処置やケア、誘導、ご家族への対応、そもそも看護師が足りないなど、本当に目が回りそうです。本当は一患者さんを十分に観察して話をしてアセスメントしたい。でも、やりたくでも出来ない、そんな状況はありませんか?時間を費やさずに観察し、アセスメントするコツがあります。
・忙しいのに、あの看護師が、患者さんのことをよく知っているのはなぜ?
病棟で働く同僚看護師の中に、患者さんのことを把握するのがとても得意な人はいませんか。そして、どうしてこんなに患者さんの情報を多く把握しているのだろう、どうしてこんなに患者さんの変化に気づけるのだろうと、疑問に思ったことはありませんか。
看護師として、患者さんの手助けをするためには、必要な情報を集め、そこからアセスメントし、患者さんへの援助を考えていきます。それには、ありとあらゆる医療や看護知識が必要なことはもちろん、患者さんとの信頼関係や話しやすい雰囲気作りなどが必要です。
自分も患者さんのことをよく知っている看護師になりたいと思って、一生懸命勉強し、積極的に患者さんとコミュニケーションをとり良好な関係を築く努力は必要です。
しかし、その努力をしたにも関わらず、自分の持っている患者さんの情報が少ない、患者さんの変化に気づけない、患者さんのことがよく分からないということがあります。患者さんのためを思ってい一生懸命努力したにもかかわらず、成果が出ないのはとても残念なことだと思います。努力しても成果が出ない、その原因は、業務の多忙さにあるかもしれません。
観察する必要があることを分かっていても観察する時間が無いのです。
では、なぜあの看護師は同じ病棟で同じ忙しさで同じ業務をしているのに、自分より患者さんのことをよく知っているのでしょう。それは、患者さんと関わるときの、心がけの違いかもしれません。
・血圧測定しているときは血圧しか測れない?そんなことはありません。
患者さんの血圧を測るとき、どんな道具を使って、どのように測定していますか。看護学校などでは、正確さを期すためや練習のために、水銀血圧計を使っていたという人もいると思います。
水銀血圧計を使用し血圧を測定するためには、橈骨動脈の脈拍を触知しながら行う触診法と、聴診器を使って行う聴診法を合わせて行います。しかし、実際の現場では、デジタル血圧計を使用して行うことがほとんどです。
ボタンひとつで血圧と脈拍が測定でき、作業スペースの確保も簡単にでき、1回患者さんの腕を圧迫するだけで測定が終了するので患者さんへの負担も少なく、とても便利です。この簡単な血圧測定の時間ですが、自動で測定された血圧と脈拍の情報だけを得るのか、プラスアルファで情報を得てアセスメントするかで大きな違いが出ることがあるのです。
・気づけて良かった!時間が無いのに房室ブロックをアセスメントできたわけ(事例)
その日は夕方からの夜勤で、出勤した瞬間から激務でした。病床がほぼ満床、最低限の看護師の人数、新規入院患者さんの引き継ぎ、日勤で終わっていない検査や処置、誘導、食事の介助、日常生活の援助など、ナースコールもやむことは無く、体も頭もフル回転で精一杯でした。
そんな中でも、もちろん患者さんへの笑顔は忘れません。とはいえ、ひとりひとりの患者さんのところへ行き、ゆっくり観察しアセスメントする時間はありませんでした。急な発熱が多いという特徴のある病棟だったため、なんとか消灯前に担当患者さんの体温の把握と血圧測定だけは終わらせようと動いていました。
私はAさんという患者さんのところへ向かいました。
Aさんは胸部に腫瘍があり、今回の入院で内科的な治療を行っていました。
既往歴はありません。治療の副作用は出現しておらず、比較的元気に過ごしていました。自分が入院で大変なのにも関わらず、看護師を気遣ってにこやかに接してくれる方です。
元気そうに過ごしているものの、治療中であり、本来であれば、よくお話をして、観察も行って、異常がないか、辛いところはないかアセスメントするべきですが、それが出来る状況ではありません。なんとか時間を確保し血圧を測定していたとき、異変に気付きました。Aさんが体外式ペースメーカーを装着する緊急処置に向かったのは、それから30分とたたないうちでした。Aさんは突然心停止する可能性のある房室ブロックになっていたのです。
私はデジタル血圧計で測定する際、同時に橈骨動脈を触知していました。こうすることにより、血圧と脈拍のみではなく、その脈拍が正常なのか異常なのか、皮膚の温度はどうか、皮膚の張りはどうか、皮膚が乾燥していないか、汗はかいていないかどうか、手は清潔に保たれているかなどの、得られる患者さんの身体情報を大幅に増やすことができます。
Aさんの場合、日中の検温では異常がありませんでしたが、私が気付いた際、脈拍は1分間50回台、脈拍は明らかに不整でした。しかし、本人に自覚症状はなく、血圧も正常値、脈拍は静脈ですが軽度であるため、電子血圧計で血圧と脈拍を計測するだけでは気付けず、Aさんは突然死していた可能性があります。
すぐさま主治医への報告と12誘導心電図で検査を行い、循環器医師へのコンサルトを行い、緊急処置を行うことを決定し、Aさんへ説明、処置の準備を行い処置に送り出しました。無事に処置が終わり、Aさんが病棟に戻ってきた時、Aさんは自分が大変な状況だったのにも関わらす、私に「ありがとう」と言ってくれました。異常に付くことが出来て本当に良かったと思いました。この日は感謝され、一人の患者さんが命を落とす前に救うことが出来たことに安堵しました。残念ながらもともと忙しっかったのが更に多忙になったため、この日は辛い日になったのはまた別の話です。
異常に気付けたか、気付けなかったかの違いは、ついでに触ったか、触らなかったか、ただそれだけです。特別な時間は少しも費やしていません。
・短時間でも情報を得てアセスメントにつなげることができる。
これは血圧測定のついでに橈骨動脈を触知するだけで脈拍測定が十分に行えるということを言いたいのではありません。しっかりと患者さんを観察し、得た情報からアセスメントするためには、正しく観察するのがいちばん良い方法です。丁寧に出来るのにやらないのは、患者さんに対する誠意が欠けています。脈拍を測るのであれば、しっかり1分間行うのが良いでしょう。私が伝えたいことは、同じ時間でも、意識すればより多くの情報を得てアセスメントし、患者さんの手助けを行うきっかけを増やすことができる、ということです。血圧測定の他にも、たとえば、患者さんの清拭の介助をする際、ただ皮膚を拭くだけではもったいないのです。皮膚の状態を観察し、皮膚に異常はないか、熱はないか、乾燥していないか、発汗していないか。患者さんの表情や顔色を見て、気分はどうなのか、体調はどうか、患者さんが清拭する動作を見て、動かしづらいところはないか、痛いところはないか、患者さんのベッド周囲を観察して、生活用品は清潔に出来ているか、患者さんの持ち物から患者さんの家族背景はどうかなど、アセスメントにきっかけになる情報は、意識すればたくさんあるのです。
まとめ
忙しい中でも意識すれば、患者さんの情報はたくさん集めることが出来ます。もちろん、ゆっくり時間をとって教科書通りの観察をするのがより正確です。でも時間がなくて出来ない。そんな状況で、患者さんの重要な情報を取り漏らさず、患者さんを救える看護師になるために、〝ついで〟にできる観察方法を身につけてください。情報が多ければより患者さんにあったアセスメントができ、患者さんの助けになるのです。
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