脳血管疾患を発症する患者様の中には、急性期の治療を終えた後も意識障害が遷延する場合があります。
意識障害のある患者様は様々なADL動作や身体機能の低下から、二次合併症を併発するリスクが高くなります。
今回受け持った患者様との関りを通し、急性期の段階から治療と並行し、あらゆる側面で患者様の二次合併症予防へ向けた介入を行うことの重要性について報告したいと思います。
Ⅰ. 意識障害のある患者への、二次合併症予防についてのアセスメントと看護介入
II.患者紹介
患者名:A氏 60歳代 男性 職業:運送業
既往歴:心筋症(10年ほど前まで他院を受診していたが、その後通院を自己中断)
家族構成:妻(50歳代)、長男夫婦、孫2人と同居。キーパーソンは長男の嫁。
診断名:脳室内出血、脳室穿破、急性水頭症、脳腫瘍疑い
入室時JCS200 瞳孔3.0mm/3.0mm 対光反射+/+ 血圧124/83mmHg 心拍数77回/分 呼吸数23回/分 JSS㊨5/4/4 ㊧3/3/3
両側脳室ドレナージ術施行となりました。
III.入院後の経過
手術施行後ICUへ入室。3病日目、抜管施行後鎮静解除となる。JCS100-30へ。胃管より経管栄養が開始となるりました。7病日目、胸部レントゲンにて右肺野全域と左下肺野に浸潤影増大あり再度挿管・人工呼吸器管理となり、抗生剤開始となりました。8病日目、頭部CT上出血なし。11病日目抜管、左脳室ドレーン抜去。13病日目右脳室ドレーン抜去。14病日目、安静度が車椅子まで可能の指示。16病日目、状態安定のためICU退室となりました。
IV.看護診断リスト
♯1.非効果的脳組織循環リスク状態(1病日目立案)
→長期目標:適切な組織循環を維持できる
♯2.不使用性シンドロームリスク状態(6病日目立案)
→長期目標:臥症に伴う二次合併症の発症を予防できる
♯3.ガス交換障害(7病日目立案)
→長期目標:気道開通性を維持でき、肺野が清明である
V.アセスメント
6病日目時点、鎮静解除から3日が経過しているが、意識レベルはJCS100-30と変わらず経過しており、体位変換時に時折開眼がみられる程度でした。また、自動運動は少なく筋緊張が強いことや、PTより四肢の筋緊張が亢進しているとの情報もあり、臥床生活が続いていることからも二次合併症を生じやすい状態にありました。よって、拘縮予防や消化管運動の低下による便秘の予防、沈下性肺炎の予防へ向けた看護介入が必要であると考えました。また、意識障害が続くことは、これらのリスクをさらに高めることから、上記アセスメントより「不使用性シンドロームリスク状態」を立案しました。
患者目標としては①関節可動域を最大限に保つことができる②皮膚の損傷がなく末梢血管組織循環が良好で、肺機能が正常である③排便機能と排尿機能を正常に保つことができる、を挙げました。
関節可動域を維持するための介入としては、主に上下肢の他動的なROM訓練を実施しました。開始時点の関節可動域は、PTより最大角度まで可能である(肘関節0-140°、肩関節0-180°、足関節底屈0-40°、背屈0-20°)との情報があり、右上下肢は反射での伸展動作、左上下肢は自動で屈曲動作がみられていました。筋緊張の強さは時間や体位により変動があり、また体位変換直後やケアの後には収縮期血圧が20-30mmHg程度低下、心拍数も140-150回/分台まで上昇することもあったため、清拭時に上肢・下肢と時間をずらしてROM訓練を取り入れるなど循環動態に注意しながら行いました。ROM訓練の内容は、上肢と下肢の屈曲・伸展運動を実施する事をスタッフ間で共有しました。
7病日目、肺炎による呼吸状態悪化のために再度挿管・人工呼吸器管理となり、鎮静剤の持続投与が開始となりました。また、リハビリ介入の刺激で容易に血圧や心拍数の変動がみられたことからプランを一時中止しました。8病日目、抗生剤投与により解熱がはかれ、胸部CTより肺炎の悪化はなく経過していることから、プランを再開しました。鎮静中は、上下肢の自動運動はみられていませんでしたが、11病日目、抜管後に鎮静を解除すると、鎮静前と同程度の自動運動がみられました。循環動態も安定したことから、ベッド上でのROM訓練の量を増やすため、PTと相談し実施方法をプランへ追加しました。14病日目時点、PTより関節可動域の低下はなく経過しているとの情報がありました。
臥床が長期化することによる呼吸器合併症予防のための介入としては、体位ドレナージや口腔内の保清を主に行いました。A氏はベッドアップによる血圧の変動が大きかったため、9病日時点では、30~40度程度までのベッドアップで対応していましたが、11病日目、循環動態が安定したため、端座位を20分程度実施しました。その際は、両足底が床面に接地するよう体位を調整した。座位や端座位の時には、頸部や体幹を自身で支えることは難しく、また円背もみられたことからクッションやヘッドボードを用い姿勢が安定するように調整しました。臥床時に比べ、座位時には自発開眼も多くみられ、14病日目時点では、座位や車いす乗車で2時間程度循環動態に大きな変動なく過ごせるようになりました。また、抜管直後は上気道狭窄の出現がありNPPVマスクを装着していましたが、座位の姿勢ではNPPVマスクを外しても上気道狭窄なく酸素化が維持できるようになりました。口腔内の状態に関しては、プラン開始時点、口呼吸により口腔内の乾燥が著明であり、舌苔、上口蓋への唾液の付着、気道内の分泌物も多くある状態でありました。また、歯列も不正であり歯間の汚染も多いため、体位ドレナージや排痰ケア、口腔ケアは歯間ブラシを使用し、ケア後には口腔保湿ジェルを塗布しました。また、乾燥に対して唾液線を刺激する事、覚醒を促す事を目的としてアイスマッサージを取り入れました。アイスマッサージ施行中は開眼がみられることが多く、口腔内の乾燥は軽減がみられましたが、歯間や上口蓋への唾液の付着は依然多い状態が続いていました。7病日目、誤嚥性肺炎の悪化により再度挿管となりましたが、口腔ケア・アイスマッサージは継続して行いました。
覚醒を促すための介入としては、足浴や手浴、アイスマッサージなどの温・冷覚刺激を与えるケアを行いました。3病日目に鎮静を解除した後はJCS30-100程度でありましたが、こういったケアの際には開眼がみられることもありました。5病日目、聴覚からの刺激としてラジオやご家族の声が入ったボイスレコーダーを用いました。A氏の入院時、長男の嫁より「家は孫2人も一緒に住んでるんですけど、おじいちゃんに会いたがってて。声も聞かせてあげたいけど、3歳と5歳だから無理ですよね。」と言う発言が聞かれていました。当院のICUでは15歳以下の方の面会はできない状況でありましたが、声を届ける事はできると考え家族へ伝えました。家族からは「いいですか、孫もおじいちゃんに元気なところを聞かせられると喜ぶと思います。」との発言があり、後日録音されたデータを持参されました。13病日目から自発開眼がみられるようになり、16病日目時点ではJCS3-10程度となりました。
入院時に家族は手術を施行するかについて、本人にとって良い選択なのかを非常に悩んだ上で決断しており、手術後にA氏の意識状態がどの程度まで回復するのかをとても気にされていました。その為、今後の家族の様子を観察した上で、必要時は家族への看護介入も視野に入れていくことが必要であると考えました。入院時にどういった経緯で家族が手術施行を決断されたのかについてカンファレンス内で情報共有を行い、面会時の家族の様子や言動を記録に残し経過をスタッフ間で共有できるようにしました。
面会時には「今日は本人どんな様子ですか、意識はこのままなのでしょうか、目は開くでしょうか。」などの発言や、「私たちが声をかけても本人にはわからないんですよね。」と言うような発言も聞かれていました。そして、面会に来た際も遠目から心配そうにA氏を見守ることが多かったため、面会時にその日のA氏の様子やリハビリでどんなことをしたのか、どんな時に目を開けたか等、伝えるようにしました。さらに、声をかけたり身体に触れてもらうことは、本人の覚醒を促す上でも必要なことであるため積極的に行っていただけるよう伝えました。それ以降、面会の際に「じいじ、聞こえてる?また来たよ。」「(孫の名前)の声、また新しく録音して持ってくるからね。」と積極的にA氏へ声をかけたり、手や足をさするなどの様子がみられました。
まとめ
意識障害のある患者への介入としては、「二次合併症予防の看護」「覚醒を促す看護」の双方への介入を行うこと、そして急性期では患者の状態が変動することも多いため、患者の変化を理解した上で、臨機応変に対応していくことが重要です。そのためには、看護師のみならず専門職と情報を共有しながら、連携して患者へ関わっていくことが不可欠であると思います。また、家族が抱える思いやニードを受け止め、患者の治療に対して同じ目標を持てることで、家族もまたチーム医療の一員として、患者の現状を受け止めた上で治療に参加していけるのだと感じています。
アセスメントをする上で、患者の病態や治療を理解した上で看護介入を考えることは非常に重要だと思います。
また、医療的な側面だけではなく、患者やその家族の想いをくみ取りながら供に患者の回復治療に携われるよう調整することは、看護師だからこそできる事なのではないかと感じています。
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