厚生労働省老健局は、2025年には認知症高齢者が5人1人になると推定しています。当然、病院に入院してくる患者さんも認知症と診断された方が多くなってきます。
急性期病院においても、入退院対応や手術など業務に追われる中で、認知症患者さんへの看護は避けては通れない問題です。ここでは、急性期病院で働く看護師が、認知症患者のアセスメントと多忙な業務の中で出来るケアのコツをお伝えします。、1番最初に目にするもので、採用につなげるためにも重要なものです。
近年、在院日数の短縮化に伴い、入院患者の入れ替わりも激しくなっています。
入退院対応をはじめ、患者の出入りが多い分、たくさんの患者の情報収集や何件ものオペ出しなど、日々業務に追われている看護師がほとんどだと思います。
そんな多忙な業務の中、「あの患者さん、また点滴の針抜いてるよ!」「患者さん帰るって徘徊してるよ!」と認知症患者さんも待ってくれることはありません。「抜かないで下さいって説明したじゃないですか!」とつい言葉もきつくなり、こんな看護師になりたいわけではなかったのに・・・と悩み、反省した経験のある看護師も多いと思います。
否定しないこと、寄り添うこと、と学生時代から教わってきました。しかし、急性期病院において、病気を治療するためには、やらなくてはいけない点滴や手術、安静度があります。安全に治療をすることを考えると、認知症と分かっていながらも付き合ってられないと思ってしまうこともあります。
認知症といえば、アルツハイマー型認知症や血管性認知症などがありますが、認知症を起こす疾患は他にも多くあります。同じ認知症であっても障害されている脳の部分により、症状も異なります。
認知症の症状には、中核症状と周辺症状(BPSD)の2つがあります。
中核症状・・・脳の神経細胞の障害に関係して起こる症状であり、記憶障害や見当識障害、失認や失語など。
周辺症状・・・環境の変化や体調不良などのストレスから起こる症状であり、幻覚や妄想、暴言や徘徊など。
私たちがよく悩まされる暴言や徘徊は周辺症状にあたり、認知症患者さんが何かにストレスを感じているサインとも言えます。認知症患者さんの状態をアセスメントし、看護ができれば暴言や徘徊も減らすことができます。
私は急性期病院での仕事を通し、認知症患者さんにスタッフ全員で関わることが認知症患者さんストレスの軽減に繋がっていることを実感しています。そこで、私自身が実際に行った事例を紹介していきます。そして、その中で行った認知症患者さんへのアセスメントとケアのコツについてもお伝えします。
事例紹介
事例1.「徘徊」
尿路感染症で入院中の患者Aさん。既往に認知症があり、自宅での生活は困難とされ、施設に入所されていました。歩行は可能ですが、心電図モニター、点滴があり、付属物を認識できずに、自己抜去や転倒を繰り返していました。
Aさんは、決まって16時になるとそわそわと落ち着かず、ベッドの柵を外します。バタバタしている中で柵の音に気付いた看護師は「Aさん!危ない!柵外したら落ちちゃうじゃないですか!」と強い口調で言ってしまいます。そうなるとAさんはもう看護師の声なんて聞いてはくれません。「うるせえな!」と何としてでも病室から出ようとします。
看護師は転倒歴のあるAさんが、転倒リスクが高いとアセスメントしたことに加え、他の患者さんのナースコール対応にも追われて強い口調になってしまいました。
ここで重要なのは、否定しないこと、怒らないことです。
この状況の後、私が「どこかに行かれますか?」と聞くと、Aさんは「外の様子を確認するんだよ」とのことだったため、一緒に行かせて欲しい旨を説明し、病室を出ました。
話を聞くと、私たちが忙しく働いている所を見て、Aさん自身も働かなくてはいけないと思ったそうです。夕暮れ症候群とも言われ、夕方になると落ち着かず徘徊する患者さんも少なくありません。さらに、勤務交代前であり看護師の入れ替わりでバタバタしている雰囲気を感じさせてしまったのでしょう。
Aさんの場合、まずは徘徊したい理由をアセスメントしました。今回の事例では、様子を確認し何か自分に出来ることはないかと探して下さっていました。そのため、一緒に仕事をしていただくことも看護と考え、ナースステーションで不要になった紙を破ってもらう、テーブルを拭いてもらうなどの仕事をお願いしました。看護方式によっても変わりますが、ナースステーションであれば、受け持ち看護師ではなくてもスタッフがいるため目が届き安全です。
次に本当に心電図モニターや点滴が必要なのかをアセスメントします。医師の指示だから・・・ではなく、既往歴や採血結果からアセスメントすることも看護の1つです。Aさんの場合、既往歴に心疾患がなく、検査でも異常所見はありませんでした。緊急入院になって心電図モニターをつけてそのまま・・・なんてことがないようにしたいです。また、Aさんの採血結果は、炎症反応値はまだ多少高い状況ではありましたが内服薬に切り替えられる数値でもありました。このことを医師へ報告し、Aさんは心電図モニター管理は終了、抗生剤の点滴も内服薬に切り替わりました。付属物がなくなったことで、転倒リスクも減らすことができます。
認知症患者さんは、環境の変化や雰囲気に敏感であり、不安から徘徊してしまうことも仕方ありません。その時に私たち看護師がどう対応するかによって、認知症患者さんの周辺症状の軽減、看護師のスムーズな業務に繋がるのではないでしょうか。
事例2.「うつ状態」
心不全、胸水貯留で入院されたBさん。既往に認知症はありましたが、家族の介護もあり自宅で過ごされていました。入院後は利尿剤を使用し、保存加療を行っていました。お話好きのBさんは「寂しい、寂しい」とナースコールも頻回でした。入院して1週間後くらいから、ナースコールが減り、ぼーっとしている時間が増えました。
環境にも慣れてナースコールも減ったと思う看護師もいましたが、なぜ急にナースコールが減ったのか、ぼーっとしてるのかアセスメントをする必要があります。業務に追われてるからと見過ごしてはいけません。
Bさんの場合、治療のために利尿剤を内服していました。薬の影響もあり、尿量も多かったです。電解質異常が原因ではと考え、医師に採血を依頼し、採血結果から脱水を起こしていることが分かりました。補液や内服を追加しBさんは活気を戻しました。
認知症患者は体調不良にも敏感であり、それがストレスとして周辺症状として現れてきます。Bさんのように電解質異常からうつ状態のようなぼーっとしてしまうことがあります。採血結果を見た時に基準値内ではあるけど、電解質の変動があるな、さらに変動がありそうだとアセスメントできた時には、まず栄養士に相談しています。患者の状態を踏まえ、食事での塩分やカリウム、果物の追加が出来ないか相談します。
採血結果や食事の変更、出来ることは限られていますが、患者さんの一番近くで仕事をする看護師だからこそ気付けることがあります。小さな気付きや違和感もアセスメントをすることで患者さんの周辺症状を予防する看護に繋がります。
また、「寂しい、寂しい」というBさんの感情に対しての対応として、受け持ち看護師以外のスタッフもみんなで適宜声をかけるようにしました。「Bさん調子どうですか?」「Bさんこれからリハビリですか?」とちょっとした声掛けを意識的に増やしました。受け持ち看護師が患者さんに24時間付きそうことは出来ませんが、病棟スタッフがみんなで適宜声をかければ、認知症患者さんが不安に思う時間は少なくなります。認知症患者さん自身が私も仲間の一員なんだと思ってもらえることで、病院が少しだけでも安楽で居心地の良い場所になるのではないかと思います。
まとめ
急性期病院において、多忙な業務の中で患者さんの安全を確保しながら、ストレスの軽減に努めることは課題だと思います。
病棟全体が認知症患者さんと関わることで、認知症患者さんにとって日々の入院生活がより良いものになります。また、私たち看護師の観察、アセスメント次第で認知症患者さんの周辺症状は減らすことが出来ます。
この内容が、日々、認知症患者さんへのケアについて悩む看護師さんの参考に少しでもなれると幸いです。
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