呼吸状態のアセスメントと言われて、どのような観察項目を思い浮かべますか?様々な観察項目があるかと思いますが、それらを観察することで、呼吸状態を正しくアセスメントできる自信がありますか?私が実際に病棟で経験した事例をもとに、呼吸の正しいアセスメント方法について考えてみようと思います。
今からある一つの事例をご紹介します。
【事例紹介】
登場人物:患者(A様)、A様の日勤担当看護師(B看護師)、A様の夜勤担当看護師(C看護師)
場面:日勤→夜勤への交代時
事例紹介:
A様:指定難病(神経の進行性疾患)、肺炎で入院中の18歳。栄養摂取はなんとか経口摂取で行っている状況です。ADLは全介助で、おむつ内で排泄中です。言語的なコミュニケーションは難しい方です。点滴で水分が20ml/Hほどのペースで投与されています。
【概要】
私は、C看護師の立場でこの事例を経験しました。この事例から、呼吸状態のアセスメントが適切に行えないことで、患者の回復が遅れるばかりか、命に係わることもあるという経験を得て、アセスメントについて考え直す機会となりました。
実際の経過を以下にまとめます。
【事例の経過】
入院2日目、C看護師は、B看護師からの申し送りや看護記録からは「酸素5L投与しSpO2値90%台後半。入眠できている。経口摂取は家族が進めて少しずつできている。」との情報を得て病室へ向かいました。そこには、明らかに顔色が不良でぐったりしているA様がいて驚きました。体をゆすって呼び掛けても反応が乏しかったため、面会している家族に状況を伺うと 「今日はほとんど寝ているね。」と返答がありました。C看護師は、最低量かそれ以下の輸液量しか投与されていないことを思い出し、家族へ水分摂取状況を確認すると「いつもはストローで飲んでるけど、今日はスプーンに1、2口ぐらいしか口にしてないね。やっと飲んだと思ったら眠っていっちゃって。」と返答がありました。すぐに尿量を確認すると、おむつ内はからからに乾燥しています。末梢循環も悪く、血圧が68/40mmHg、SpO2:98%(酸素5L投与下)、HR:112回/分です。呼吸は明らかに努力様で、低血圧、ショック状態にあると判断し、すぐに医師をコールし状況を報告しました。その結果、輸液量の増量、採血、レントゲン等処置を行うこととなりました。採血結果では、pCO2:70mmHgであり、CO2ナルコーシスと診断され、すぐに酸素量を1Lへ減量しました。また重度の脱水も示していました。「入眠できている」のではなく、「高流量酸素投与によるCO2ナルコーシスによる傾眠状態」であったのです。C看護師はすぐにB看護師に状況を報告し、日中どのようなアセスメントを行っていたのか確認し、指導しました。患者はその後数日かけて次第に状態が回復し、他病棟へ転棟となりました。
【この事例の問題点】
上記事例の問題点は、B看護師が、呼吸状態をはじめとする全身状態のアセスメントが適切にできておらず、病状が悪化したというところにあります。
「入眠できている」のと、「傾眠傾向」とでは、全く状況が異なります。B看護師は、「入眠できていてSpO2値も安定していたから、それで良いと思った。」と話していましたが、呼吸音、呼吸様式、バイタルサインをしっかりと観察した上で、観察した情報を丁寧にアセスメントすれば、意識レベルに問題があることや、呼吸・循環動態に問題があることはすぐにわかるはずです。また飲水量の観察についても、家族に「飲めていますか?」とだけ聞くのではなく、「どれくらい飲めていますか?」と具体的に量を聞かないことには、IN量として十分なのか不足しているのかの判断はできません。血圧低下に気付かれずに経過していたことを考えると、ぞっとします。
この事例では、対応が遅れてしまったものの、幸い処置や治療により患者が回復へ向かうことができましたが、場合によっては急変を招き命に繋がることだって考えられます。
医師は治療を行いますが、看護師には、患者の状態を一番そばで観察して、アセスメントして、必要な場合には医師へ報告するという義務があります。
バイタルサインやモニターの数字をただただ測るだけならば、素人でもできます。看護師という専門職である以上、あらゆる知識や技術を使って、患者が今置かれている状況を総合的に判断するべきなのです。
【この事例から得た学び】
この事例を通して、C看護師の立場であった私も、改めてアセスメントの重要性について学びました。私の持論として、患者さんの状態をアセスメントする際には、悪い方に悪い方に考えるようにしています。あらかじめ”様々な悪い状況を想定して、そういった悪い状況を防ぐために今できることはないか”という考え方です。
先に先に対策することで、最悪の事態を防げることも多くあります。良い方向に向かったのなら、それはそれで結果良しなので、悪くなった場合を念頭において観察やアセスメントすることは非常に有効だと考えています。
呼吸状態のアセスメントはSpO2値の変動だけではできませんよね。呼吸数をはじめとするバイタルサイン値の変動はもちろんのこと、呼吸様式はどうか、呼吸音はどうか、呼吸状態による全身状態への影響はどうか、といったところまでたくさん観察を重ねる必要があるのです。
【アセスメントで大切なこと】
アセスメントで最も大切なことは、刻一刻と変化するそれぞれの値や状態が”何を意味するか”ということを正しく考えるということです。
今回の事例で言えば、SpO2値は良値を保っていましたが、その背景には、呼吸筋が弱った神経進行性疾患の患者に高流量の酸素を流し続けたことによるCO2ナルコーシスが潜んでいました。さらに、CO2ナルコーシスはどんどん進行して傾眠傾向に陥っていました。看護師にアセスメント能力があれば、そこまでの状態に陥るまでに気が付けていたはずです。
正しいアセスメントをする上で看護師の観察力はもちろん重要ですが、患者や家族とのコミュニケーションも大変重要です。
今回の事例ではA様との直接的なコミュニケーションは困難ですので、家族とのコミュニケーションが主となってきます。家族は24時間付き添っていましたが、専門職ではないため、A様が入眠しているだけなのか、意識障害が起きているのかといった判断はもちろん難しいです。ですが、看護師が家族にする質問を工夫するだけで、様々な情報が引き出せます。今回の事例で言えば、患者の普段の様子と現在の様子の違いはないか、家族から見て苦しそうではないか、普段はどのような方法でどのような量の経口摂取を行っているのか、言語的なコミュニケーションが難しくても、非言語的なコミュニケーションでやりとりができるのかどうか等、家族から確認できることは数多くあります。B看護師は日中家族に「水分は取れていますか?」としか聞いていませんでした。その際に、C看護師が後から質問したように質問できていれば、家族からの「いつもはストローで飲んでるけど、今日はスプーンに1、2口ぐらいしか口にしてないね。やっと飲んだと思ったら眠っていっちゃって。」という返答を得られることができ、水分摂取が全く足りていないということに気が付けます。
このように、アセスメントには観察力とコミュニケーション能力、そしてそれら全てから得た情報を総合的にとらえて、今の状況を正しく判断することが必要になります。
まとめ
今回の事例を通してお伝えしたかったことは、看護師によるアセスメントの質によって、患者の今後や予後を左右するということです。それほど、看護師のアセスメント能力は重要なのです。もちろん、誰しもすぐに正しいアセスメントができるわけではありません。自己学習を通して知識を多くつけることはもちろん大切ですが、日々の実習や仕事で目にする事例や患者様の一つ一つ、一人一人の状況と丁寧に向き合い、経験を重ねていくことでアセスメント能力を鍛えることができます。
看護師のアセスメントが、医師が行う治療の際の判断と同等か、場合によってはそれ以上に患者の状況を左右するということを常に頭において、日々アセスメントに取り組んでいきましょう。
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