何かと対応の難しい認知症患者のアセスメントと対応方法のコツについて、
症状別に体験談を元に解決策をお伝えします。特に、「被害妄想」と「帰宅願望」について、認知症患者への声かけの仕方や対応について
事例を振り返りながら、お話していきます。
病院で看護師をしていると避けては通れない「認知症患者」への看護。
一口に「認知症」といっても、その症状は人それぞれで、多種多様です。
物忘れの多い患者、思ったように言葉が出ない患者、幻覚や幻聴を感じる患者、徘徊を繰り返す患者、
暴力的になり制止の効かない患者、急に泣き出したり、笑い出す患者などなど…
穏やかな人もいれば、怒りっぽい人もいて、もともとの性格がどうだったんだろう?とわからなくなってしまっている患者もいます。
看護学生時代には、
「認知症の患者には、否定しないことが大切」
「認知症患者のペースに合わせて、その人が感じている世界を体験しなさい」
と学んだ覚えがあります。しかし、実際に現場で働いていると、
「こんな忙しいのに認知症患者とゆっくり関わるなんて無理!」
「いくら認知症と頭では分かっていても、もう付き合いきれない…!」
「どう声をかけたら落ち着いてくれるの!?」
と、認知症の様々な症状に振り回されてしまうことがよくありますよね。
特に夜勤帯など、人手が少ないときに認知症症状が強く出てしまうと、
「もうどうしたらいいの…」「アセスメントなんてできない!」と思ってしまう気持ち、本当によくわかります。
認知症は、脳の細胞の変性や委縮によって起こるもので、徐々に進行します。
判断力や理解力も低下し、「忘れたことを忘れる」状態になってしまいます。
そのため、社会生活や日常生活に支障をきたす状態になってしまうのです。
認知症患者の症状は主に、
・記憶障害や、見当識障害などの「中核症状」
・妄想や幻覚、抑うつなどの「周辺症状」
の2つに分けられます。
中核症状は、脳の細胞が変性したり、委縮したりして起こってしまうもので、脳の機能的な問題が大きいのですが、
周辺症状は、認知症患者が周りの環境や現実の生活に適応できず、引き起こしてしまうものなのです。
つまり、周りの環境次第=私たち看護師の関わり方次第で、認知症症状が良くも悪くもなる可能性がある、ということなのです。
少しでも認知症患者も、私たち看護師も、穏やかに過ごしていきたいですよね。
日々の看護の中で、特に認知症の周辺症状は対応が難しいな…と感じる場面が本当に多いです。
そこで、実際に私が体験した事例を元に、認知症患者のアセスメント方法と対応について、お話していきたいと思います。
少しでも同じように悩んでいる看護師の皆様のヒントになればと考えています!
①被害妄想、物盗られ妄想
認知症患者:「あんた私の財布、とったでしょう!?」
看護師:「お財布なんてとっていませんよ。」
認知症患者:「嘘つき!どこに隠したの!?泥棒!!!警察呼ぶわよ!」
看護師:「…」
認知症患者によくある「被害妄想、物盗られ妄想」の一場面です。
看護師側は何もしておらす、ましてや財布なんて盗っていないのに、認知症患者が突然一方的にこのように怒り出すことがあります。
認知症患者が被害妄想や物盗られ妄想になったとき、してはいけないのが「頭ごなしに否定したり、怒ること」です。
看護師側が「盗っていない」と伝えるのは正しいことなので、それを伝えるのは正しいのですが、
「盗るわけないじゃないですか!!!」などど強い口調で伝えてしまったり、
「〇〇さんの勘違いじゃないですか!?」
「ちゃんと探しましたか?ないわけないでしょう!!」
などど怒ってしまうと、認知症患者は余計に興奮し、事態は悪化します。
患者さんは私たち看護師の表情や言葉をよく見ているし、聞いています。
「看護師は絶対に〇〇さんのお財布を盗ったりはしません。」「ここは病院ですから、人の目もあるし、安全ですよ。」
「どうしてなくしたと思われたんですか?」「どんなお財布ですか?」
「一緒に探しましょうか」と、優しく話しかけてください。そして、話を聞いてください。
そうすると、徐々に怒りが収まり、穏やかになってきます。
この事例の場合は、「〇〇さん、10分したらまた伺います。それまで探していてくださいね。そしたら一緒に探しましょう。」
と私が伝えたところ、10分後には少し落ち着き、そこから一緒に探している途中で「疲れたわ」といって落ち着きました。
人によっては、自分でクローゼットの中を探し始める患者もいるのですが、静止せず気の済むまで見守っていたほうが賢明です。
さすがに夜勤などで、「今探してほしくないな…」という時には、
「今日はもうお疲れでしょうから、探すのは明日にしませんか。私も一緒に探しますから。約束です。」と伝えると、「じゃあ明日にしようか」と言ってくれる患者が多いです。
看護師側の誠意が伝われば、患者も「この人は味方だ」と思ってくれるので、
これらの声掛けはオススメです。
②帰宅願望
認知症患者:「あら、もうこんな時間。家に帰ってお父さんのご飯の支度をしなきゃ。」
看護師:「今は入院されているので、家には帰れませんよ。」
認知症患者:「私は入院なんてしていません。荷物をまとめて、歩いてでも家に帰ります。」
看護師:「…」
これは、俗にいう「夕方症候群」というものです。
特に高齢女性に多く、夕食の準備をし始める16~17時ごろに多いのが特徴です。
まだ術後で安静を守らないといけない患者さんや、転倒リスクが高い患者さんは特に困りますよね。
「お願いだから今はじっとしてて!!」ついそう言いたくなってしまいますよね。
帰宅願望の場合にも、してはいけないのが「無理やり制止することや、怒ること」です。
この状況の患者さんは、すでに自分の荷物をまとめ、部屋から出てこようとしたり、エレベーターに乗ろうとする場合が多いです。
少し目を離すといなくなりそうな患者さんばかりなので、注意が必要なのですが、
「ちょっと待ってください!!!」と腕を掴んで制止したり、
通れなくして行く手を阻むなどの行動は逆効果で、余計に興奮します。
「お荷物重くないですか?」「お手伝いするので、少し座ってお話しませんか?」
「お家はどこですか?」「どうして病院に来たか覚えておられますか?」
などど、認知症患者が現状を理解できるように、ゆっくりと穏やかに話しかけましょう。
そして、
・一人で帰ることは難しいこと(もうバスがないよ、歩いて帰ると疲れて倒れてしまうよと伝えると効果的です)
・ご家族さんも、元気になるまでは病院にいてほしいと思っていること
・なぜ入院しているのか、疾患などを正しく伝える
・今はまだ〇〇さんは元気じゃないから、元気になってから帰ろうね
などを優しく伝えてください。
家族に協力を仰げる場合は、電話で患者と話してもらうなどし、
家族側から「安心して病院で寝てほしい」と伝えてもらいましょう。
この事例の場合は、「お父さんの世話をしなきゃ」という思いがあったので、
「お父さんの世話は、家族がするから、安心してね」と家族から伝えてもらうと、とても効果的でした。
このように対応すると、人が変わったかようにコロッと「じゃあ、今日はここで寝ます」と言ってくれる患者が多いです。
また、まとめた荷物をそのままにしておくとそれを見て「帰らなきゃ」と思い出してしまう場合があります。
荷物はそのままにせず、「クローゼットに直しておきますね」などど伝え、片づけるようにしましょう。ここでも「無理やり」は厳禁です!
認知症患者が「なぜ家に帰りたいのか」を傾聴し、アセスメントすることで解決策が見えてきます!
まとめ
認知症患者の周辺症状には、様々な症状がありますが、「否定しないこと、怒らないこと、受け止めること」が大切です。
「落ち着いて話を聞き、認知症患者が何を言いたいのか」「焦っている時ほど穏やかに対応することで、早く問題を解決できる」
ということを、事例を通して学びました。私の経験が、ぜひ、同じように困っている看護師の皆様のお役に立てれば幸いです。
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