看護師が行うアセスメントは、今後の患者の入院生活を支えるうえでまた治療や多愛飲を目指す中で重要なものです。中でも今回は私の専門分野である終末期看護においてどのように重要になり、どんなアセスメントや視点が求められるかを言及していきたいと思います。
終末期とは人生の中で、今まで何かをすることが出来ていた自分を一人ずつ失っていく時間であるとされています。
おいしく食事ができる自分、テレビを見て笑う自分、楽しく運動をすることが出来る自分は時間経過とともに消えていく。
人はそれを自覚した際に、喪失感を感じ無力だと感じるようになる。そしてフィンクの危機も出るなどで紹介されているように衝撃→防衛的退行→承認→適応などの段階を経ていきます。しかし私が今まで関わってきた終末期患者は誰一人としてこの段階通りに経過した人はいません。
そして高齢者になり認知症がある人などは、ものすごく複雑な反応を見せることがあり、認知症状なのか喪失体験から生じる反応なのかがわからないことが多いのが現実です。そのため私たち看護師はアセスメントが求められるのです。
私たちは怒りを感じた際に、眉間にしわが寄ったり何かに八つ当たりしたり、無口になったり、貧乏ゆすりをしたりと案外わかりやすい形で怒りを表現したりします。
もちろん個人差はありますが普段とは様子が異なることがわかり何かあったのだなと察することが出来ると思います。
しかし入院患者の場合は反応が異なり怒りなのか不穏症状なのか。はたまた怒りが引き金となって不穏となっているのかなど怒りをベースに症状が出現することが多くあります。
最近では年齢を見ただけで「高齢であるから、せん妄症状だ。認知症状だ。」などという判断を下してしまう看護師が多いのですが実はその裏には大きな理由があるのです。ここでは実際に渡しが経験した終末期患者の事例をあげたいと思います。
肺癌末期の80代男性。
本人へは病名および余命が告知されていました。
入院当初より「俺は残り時間わずかだ。最後は楽に生きたい。」と話をしていました。ここから考えると一見、自分のことを受け入れてるように感じます。ある日の夜になり突然荷物をまとめ始め「じゃ、帰ります。」と不穏になり始めました。
それから連日のようにこのやり取りが繰り返され、行動を制止すると大きな声で怒鳴り職員に手を挙げるようにもなりました。カンファレンスでは「認知症が悪化している。せん妄だ。」などと話に上がりました。確かにこのアセスメントは否定はしませんが、年齢条件だけで認知症と判断するのは根拠が不足しているようにも感じます。私は再度アセスメントを見直し、入院時の本人の発言に注目してはどうかを提案しました。
余命が宣告されもう治療はできないため対症療法で生活するしかないと告げられた時に私たちはどのような心理段階になりますか。
簡単には受け入れられるはずがありません。ましてや漠然とした恐怖を与える死がすぐ先に待っているとすれば誰しも恐怖を抱え気が狂いそうになるはずです。このAさんも同様だと私は感じました。
そしてフィンクの危機モデルに沿ってどの段階での需要が困難になっているのかを考えました。本人からもっと情報を聞く中で「治療ができないのならこんな入院生活はしたくない。そこらへんで死んでもいいから帰りたい。」と聞かれました。このことから衝撃、防衛的反応、承認の段階についてはクリアしていると考えました。残るは適応です。
おそらくこの患者さんは、自分の余命を知り今現在の急変するかもしれないからという理由で入院させられたことに対して適応が困難となって帰宅願望の出現やまた入院することに合理性を感じていないことから自分の行動を制止する看護師や医師を敵対視したのだと私はアセスメントを行いました。
ここでケアプランとして、家族へ依頼して外出や外泊を依頼してみました。もちろんいつ急変するかわからない家族を家に置くことは家族にとっても不安となります。終末期看護は特に本人だけのケアプランだけではなく家族へのケアプランもアセスメントに入れる必要があります。
どれくらいの家族のストレングス(ストレスに対する抵抗性)があるのか、急変時には誰がどのように対応するのかなどを細かく決めておく必要があります。終末期看護のアセスメントにはそこの特殊性があります。最終的にこの患者は自宅への外出、外泊を繰り返し退院まではできませんでしたが落ち着きを少しずつ取り戻し最後は穏やかに息を引き取っていきました。
看護師が行うアセスメントと一口に言っても、患者が置かれている慢性期、回復期、急性期、終末期の期によってもアセスメント方法が異なります。
私は終末期は、必ずフィンクの危機モデルなどを使用しどの段階での受容や適応が困難となっているのかを考えるようにしています。
そうしていく事でなぜこの段階で適応ができていないのか?なにが適応の邪魔をしているのか?この課題を解決していくために何をすることが出来るのかなどを考えるときにものすごく便利になります。
また忘れてはいけないのが家族看護という視点です。
フィンクの危機モデルの最終段階で適応がありますがこの適応段階では経験上ですが、家族の対応も大切になります。なぜなら大切な家族を失う時間であるからです。家族の一員を失うことで家族の役割変化や経済的な影響を与えることも十分に考えられます。そのためにアセスメント時には患者の事を中心にアセスメントを行うのは何よりも大切ですが、家族という視点を大切にしてほしいと思います。
ここで家族にまつわる事例を紹介します。
肝がん末期の患者は様々な看護を提供し危機モデルの段階の課題をクリアし無事に適応段階へ入り「最後は楽に死にたい。」と本人の意思が提示されました、しかし家族は「DNARは同意しません。延命を希望します。」と話しました。
DNARとは積極的治療を拒否するという意味ですが家族は積極的な治療を希望しました。
患者本人の意思とは反しての家族の希望に驚きを感じました。そして家族から話を聞いているうちに「亡くなってしまったら年金が入らなくなります。
年金がないと子供を学校へやるお金がないんです。」と返事がありました。
看護師はそこまで介入することはできませんので私たちにはそれ以上はなにもすることはできませんでしたが、家族の中にはこういった経済的な事情から延命を希望する人なども少なくはありません。
今年は特にコロナウィルス感染症の関係で経済的な事情を理由に延命を希望する人も増えてきている印象です。
看護師はそういった個人的な事情も考え、家族の問題には踏み込まないように患者を看護していく必要があります。また必要であれば社会福祉士など適切な関係役職へ引き継ぐことも大事な仕事の一つとなってきます。
これから実習などで終末期を学ぶ学生の人や終末期を学ぶ人にはぜひ、危機モデルと患者の現在の状況などを比較しながら情報を収集できるようになってほしいと思います。
このようにしてアセスメントといっても特殊性があるので、必ず患者がどの時期に属しているのか家族の状況はどうなのかを考えたうえでアセスメントを変化させていく事を大切にしてほしいと思います。
まとめ
私は終末期看護のアセスメントは他の時期に比べて考えることが多い時期になると思います。中でも家族の意志と患者本人の意思が必ずしも合致するとは限らず経済的な事情にも左右されるということを忘れてはなりません。家族看護、終末期看護の視点を大切に必要であれば関係職種と連携して課題解決をすることを大切にしてほしいと思います。
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