病院勤務経験がある看護師が転職する時には色々な壁にぶつかる事があります。けれど転職前にある程度の覚悟をしてシュミレーションしておく事で、ストレスを軽減出来るものです。今回は、私が転職経験で感じたいくつかの壁についてお話しします。
今まで同じ病院で何年も勤務をしていた看護師が何かの理由で転職をする事があります。結婚だったり夫の転勤だったり、様々な理由があって、今まで働いていた居心地の良い職場を離れなければならないのは辛い事です。経験年数が長い人ほど看護師としての自信もあり、新しい職場で思い通りにいかない事に強いストレスを感じると思います。転職先ではいくつもの壁にぶつかる事をまず想定しておき、その事についてある程度自分の中でシュミレーションしておけば、実際に壁にぶつかった時のストレスが軽減出来ます。私が転職した際に感じた壁をいくつかお話します。
1.転職先の病院の施設や物品の場所は分からない
いざ転職をして新しい職場にワクワクしながら出勤してみると、何も出来ない自分にショックを受けるかもしれません。
出勤初日はもちろん一人の看護スタッフが病院内の施設を案内してくれたり物品の場所などを教えてくれたり、その病院の看護手技のやり方などを教えてくれます。けれど彼女も自分のその日の業務に追われているので、全てをくまなく教えてくれるわけではありません。しかも経験年数のある看護師には、誰も新人看護師相手のように手取り足取り教えてはくれません。きっと相手も逆に、気を使ってしまうのかもしれません。なので分からない事は自分で誰かに聞き、他のスタッフがやっている事を見ながら自力で覚えて行く必要があります。
数日で全ての物品の場所を覚えられるはずもなく、その後はその時その時に必要になった物の場所を他のスタッフに聞きながら、だんだんと物品の場所を把握していくのです。他のスタッフも忙しいのに「あれはどこにありますか?」と聞かれればその物品の場所まで連れて行って説明しなければならないので、申し訳ない気持ちでいっぱいになります。かつて自分が新人看護師に教える立場だったからこそ、その面倒くささも分かってしまうのです。
けれど白衣を着ていればもちろん患者さんは容赦なく色々頼んできます。また、たまにしか病院に来ない外部の医師などは誰が今日初日の新入りかなどという事など知る由もありません。普通に「薬剤部から薬を貰ってきて下さい」と言われてしまう事も。薬剤部がどこにあるかなんて知らない、、、。他のスタッフに聞いて迷いながら取りに行ったりして、業務がどんどん遅れていくのです。
私が転職した時は、本当にこういう事が辛かったのを覚えています。何がどこにあるかが分からないのは相当なストレスになります。新卒の頃も同じように何も分からなかった時期があったはずですが、あの頃はそれ以上に看護業務を覚えるのに必死で、物品の場所を知る事などは二の次に感じていたように思います。数年の看護経験を経て手技や業務内容は分かるのに、物の場所が分からないから何も出来ない、そんなもどかしさがとても辛かったのです。仕方のない事なのですが。
せめてもの出来る事といえば、一度聞いた場所は絶対に忘れない事。私はノートに病院や病棟、ナースステーションの簡単な見取り図を書いて、一度分かった物の場所はすぐに書き込むようにしていました。
2.看護スタッフとの信頼関係はゼロから
当たり前の事ですが転職後は、一緒に仕事をしていく看護スタッフからの信頼はゼロからスタートです。今までの病院で優秀な看護師だったとしても、誰もそんな事は知らないのです。何かの業務を頼もうとする時に「頼んでも大丈夫かな?」「これ、出来るかな?」などと多少なりとも心配しているかもしれません。しかもそれは、かつての自分が新人を教育していた時に思っていた事なので、相手がそう思っている事も敏感に感じ取れてしまうものです。何年も看護師として経験を積んできた方にとっては心外で、悔しい気持ちになるかもしれません。
でも考えてみれば、それは当たり前の事なのです。もしも自分が相手の立場だったら、どこぞの病院からヒョッコリ入って来た新入り看護師に、大事な業務は頼めません。
早く認めてもらおうと焦るのは禁物です。毎日きちんと丁寧に職務を遂行していけば、次第にみんなからの信頼を得る事が出来、また働きやすい職場になっていくのです。
以前職場に、そのような状況で失敗しているなと感じた看護師がいました。彼女はきっと他病院で優秀だったのでしょう。転職してきた当初から若い看護師達に威圧的な態度をとっていました。もちろん主任でも師長でもなくただのヒラ職員なのですが、いつも必死で自分の立場を上に見せようとしているようでした。もちろん他の若い看護師達の方がその病院での職務に慣れているのですが、なぜかいつも上司かのように指示を出すのです。他の看護師の記録の書き方にダメ出しをしたり、些細な事で重箱の隅をつつくように注意をするのですが、当の本人は特に仕事が出来るという感じでもないので、みんなの不満が溜まっているのが目に見えて分かりました。そのうち彼女は完全に孤立してしまい、浮いた存在になってしまいました。結局彼女は1年で辞めてしまいましたが、当の本人が一番辛かったのではないかと思います。
3.他職種スタッフとの信頼関係もゼロから
長い間同じ病院で看護師として働いていると、看護師同士だけではなく、医師や検査技師など他職種の病院スタッフとも信頼関係が築き上げられます。その場合あうんの呼吸で業務が滞りなく進むので、お互いにとてもやりやすいものです。
けれど転職先の他職種スタッフはもちろん全員が初対面の相手である事が多いはずです。きっと相手は「この看護師に頼んで大丈夫なのか?」
「この看護師はこの患者さんの病態をきちんと理解しているのか?」などと多少なりとも不安な気持ちを持ってしまうようのではないでしょうか。なぜなら逆の立場になった時、自分が初対面の他職種の方を100%信頼出来るかといえば、やはりそうではないからです。看護師同士でしたら申し送り等でどれぐらいの情報なら理解しているのかが分かるのですが、他職種のスタッフには何も分かりません。明らかに新入りに冷たく接する医師や検査技師も時々います。けれどそういうスタッフは、きちんと仕事をこなしていくうちに、絶対に打ち解けてくれる日が来ます。
転職前の病院でたくさんのスタッフと信頼関係が出来上がっていた人ほど、最初は辛いかもしれません。けれど、しっかりと、コツコツと仕事をしていくうちに、必ずまた信頼関係が築けるのです。
4.患者さんとの信頼関係はマイナスから
病院には長期にわたって入院している患者さんがたくさんいらっしゃいます。そのような患者さん達はもちろん看護師の名前や顔、性格まで覚えていて、毎日の看護を遂行していく中で、そこには信頼関係が生まれています。医療現場での信頼関係は命に関わるものなので、絶対的な信頼関係でないとなりません。例えば点滴交換をして、そこに間違った薬品が入っていれば、直結的に患者さんの命に関わってくるのです。もちろん看護経験のある方からしたら「そんな事は当然分かっています。」という話でしょう。けれども転職したばかりで色々な事で頭がいっぱいになっている時期は、心を開かず嫌味ばかり言ってくる患者さんや、ルールを守ってくれない患者さんに対して、ストレスが溜まってしまうものです。そんな時は一度、原点に戻って考えてみる事をお勧めします。相手が疾患を持つ患者さんだという事、自分はその命を預かる仕事をしている事。当たり前の事をもう一度思い出してみると、患者さんとの信頼関係はゼロからではなく、マイナスから築き上げていく必要がある事に気付かされます。焦らず、ゆっくりと、心をこめて自分なりの看護をしていれば、患者さんはいつか必ず信頼してくれます。
まとめ
以上が、私が転職した時に感じた壁の数々です。細かい事を言えば、他にもいくつもの壁があったように思いますが、そういった事を転職前にある程度予測し、「きっとこうだろうな」と覚悟しておけば、実際に壁にぶつかった時のショックが小さくてすみます。また、予測してシュミレーションしておく事で意外な解決法を思いつく事もあります。ただでさえ大きなストレスがかかる転職時期を、出来る限り心の負担なく乗り切りたいですね。
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