アセスメントを苦手に感じている方、意外と多いと思いのではないでしょうか。
看護師として経験を積み学生指導にも関わるようになってようやく、
自身が学生や新人の時に足りていなかったアセスメントに必要な視点がわかるようになった気がしています。
今回はその視点について、噛み砕いてご説明したいと思います。
では早速、アセスメントすること、患者さんの全体像を把握するために必要なことをお伝えしていきたいと思います。
まず重要なことは、アセスメントしたい内容にかかわる因子を知ること。
それをもとに患者さんから情報収集し、系統立てて整理していくことです。
例をひとつあげてみます。
看護師が避けて通れない「転倒リスク」について考えてみましょう。
転倒に関わる因子としては、以下があげられます。
①高齢
加齢に伴う筋力・視力・平衡能力・反射の低下
②疾患
・循環器系…不整脈、起立性低血圧、
・神経系…パーキンソン症候群、てんかん発作、小脳障害、認知症
・筋骨格系…骨・関節炎、骨折、関節リウマチ
・視覚…白内障、緑内障
③内服
睡眠薬、向精神薬、抗不安薬、抗うつ薬、降圧利尿薬、血管拡張薬、抗パーキンソン薬、鉄剤など
④物的環境
滑りやすい床、履物、モニターなどのコード類、段差、照明不良など
⑤本人の行動欲求
尿意、便意、口喝など
これらの知識があれば、当該患者にこのような因子があるか情報収集しアセスメントすることで、転倒リスクがどの程度あるかがわかります。
また、どういった因子が影響しているかがわかれば、それに応じた対策をとればいいと考えることができます。
転倒リスクの対策に関して言えば、高齢・疾患・内服については基本的には介入が困難と考えられるので、物的環境を整え動線を確保する(患者さんの私物を動かす際はご本人の了承を取ることを忘れずに!)、夜間は熟睡できるよう日中の覚醒を促して生活リズムを整える、就寝前にトイレ誘導を促しある程度コントロールをつける、ナースコールを押しやすい位置に配置するなどの介入方法がとれるかと思います。
もうひとつ例をあげてみましょう。
「せん妄リスク」に関するアセスメントです。
せん妄に関わる因子としては、以下があげられます。
①高齢
70歳以上、理解力低下、聴力障害・視覚障害
②疾患
・脳器質障害(脳転移含む)
・認知症
・炎症高値
・低酸素
・電解質異常(Na,Ca)
・脱水
・便秘
・疼痛
・睡眠への障害 など
③既往歴
アルコール多飲、せん妄の既往
④物的環境
・低活動
・環境変化による戸惑い
⑤薬剤
ベンゾジアゼピン系薬剤、オピオイドなど
せん妄リスクが高い患者さんには、時計やカレンダーを見える位置に設置して見当識を促す、日中の活動を促して生活リズムを整える、常に安全な環境作りに気を配る(転倒転落予防、ルート類を整理するなど)、家族がゆっくり面会できるよう配慮する、できる限り転棟や部屋移動を避ける、排便の確認と排便コントロール、疼痛の評価と適切な鎮痛マネージメントなどが対策としてあげられます。
せん妄を起こさないようにリスクの程度をアセスメントし、事前に介入していくことが重要ではありますが、せん妄を完全に防ぎきることは困難なのが現状です。
せん妄の兆候にいち早く気づき、その原因を洗い出し、できるだけ速やかに介入すること。そのためにもアセスメント因子を知ることは非常に重要です。
さらにもうひとつ心にとめておいて欲しいのは、せん妄状態が「ショックの前兆」を示している場合もあるということです。
せん妄状態の患者さんに出会ったとき、「単なるせん妄」と思うのではなく、ショックの前兆ではないかとまず疑うことができれば、
実際にショックに陥ってしまう前に早期介入することができます。
そのためには、患者さんの原疾患、それに対して行われている治療内容と効果、患者さんの状態を適切に把握している必要があります。
…という風に書くとハードルが上がってしまいますが、上記に示した2例のように、アセスメントしたい因子を理解する、
それに沿って系統立てて情報収集を行う、という方法をとれば、アセスメントに対する心理的な抵抗感は和らぐのではないでしょうか。
また、患者さんの全体像を把握するということを考えるにあたっては、
①身体面②精神面③社会面の3点を意識して情報収集することをおすすめします。
その3点について以下で詳しく解説していきたいと思います。
①身体面の把握について
具体的には次のような情報が必要になります。
・年齢
・既往歴
・現病歴
・治療内容
・入院前のADL
・退院時に予想されるADL
②精神面の把握について
・信仰している宗教
・大事にしている物事、考え方
・死生観(DNR方針の有無など)
精神面に関しては、関係性が構築できていない中で聴取しても把握が困難な場合が多いので、ご本人とお話を重ねる中で情報収集を進めていくことが重要です。
私が実践してみた中でおすすめできる方法としては、身に着けているもの(持参している洋服、小物、アクセサリー、化粧品など)、病室に置いているもの(写真、絵など)、観ているTVの内容、出身地やこれまでの仕事のことなどを切り口に声をかけ、話を深めていくことです。
ほかにも、家族からご本人がどんな人なのか聞いてみるのも大きな手掛かりになります。
これらは、患者さんのそばにいる時間が長い看護師だからこそできる情報収集です。
③社会面の把握
・独居か、だれかと住んでいるか
・マンパワーの有無
・退院先はどこか、ご本人と家族の意思
・(特に若い方の場合)社会復帰を希望しているか
・介護保険の利用の有無(要支援/介護いくつか、ヘルパーや訪問看護の利用はあるか)
いかがでしょうか、皆さんはどれくらい意識して上記の情報を把握していましたか?
これらの情報がしっかりとれていれば、患者さんの全体像として、ある程度しっかりとしたアセスメントができ、全体像を把握できるのではないかと思います。
最後に、私が経験した中で特に記憶に残っているせん妄患者さんの事例をお伝えしたいと思います。
その方は脳出血で入院した50歳台の男性で、入院初日の夜勤の時に受け持つことになった患者さんでした。
脳出血という脳の器質的疾患はありましたが、50歳台と若年でコミュニケーションもしっかりとれており、入院初日であったこともあって、
せん妄のリスクはそこまで高くないというのが当時の私のアセスメントでした。
それでも絶対的な床上安静、起き上がることも許可されないという非日常の中に身を置いており、点滴ルート、モニターなどの付属物も多数あったので、
それらをしっかりとまとめ、ナースコールを手の届くところに置いて対応し、ご本人も穏やかに過ごされていました。
しかし21時ごろになって突然、大声をあげて叫びだし、起き上がり動作も頻回、話す内容も支離滅裂な不穏状態に陥りました。
50歳台の男性だったので力もかなり強く、隣の病棟の看護師数人にヘルプに来てもらって5人がかりで抑え込み、数十分かけてようやく抑制を装着。
不穏時指示を確認するも指示自体が出ていなかったため、医師へ来棟を要請。
しかしその医師も他患者対応中のため来棟することができず、かつ脳出血患者であったため鎮静をかけると意識レベルが確認できないとの判断で、
できることは抑制だけとのこと。
叫び続ける患者さんにつられ、他の患者さんも起きだしてそわそわ動き出してしまい、さらに対応に追われる始末で、
本当になすすべなく時間だけが過ぎていきました。
しばらく経った頃、当直の救急医がたまたま通りかかりました。
藁をもすがる思いで状況を説明したところ、
患者の状態を確認してぽつりと「アルコール離脱せん妄なのではないか」とこぼしたのです。
カルテには詳しい飲酒歴の記載がなかったため、医師から家族に連絡をとってもらって確認したところ、かなりの大酒家であったことが判明。
アルコール離脱せん妄として点滴を投与することで、せん妄状態を落ち着けることができたというケースがありました。
当時の私は「せん妄=高齢の方が入院後3日目あたりに発症することが多い」という認識が強く、
医師のカルテにも飲酒歴やアルコール離脱せん妄リスクについて一言も触れられていなかったため、まさかアルコールによるせん妄とは考えもしませんでした。
この時にもっと広い視野でせん妄因子を見直し、アルコールというワードが頭に浮かんでいたら早期に対応できたのではないかと悔やまれます。
しかし、この事例をきっかけに、せん妄因子の中に飲酒歴があることは常に頭に浮かぶようになりました。
このように、自身の経験に基づいて身に着けた知識は、忘れることがありません。
最初からすべてできる人間などいないのだから、スタッフ同士で協力しながらみんなで患者さんを守っていけば良いし、
ひとつひとつ経験を重ねながら、知識を身に着けていけばいいのだと思います。
みなさんもぜひ、参考にしてみてください。
まとめ
アセスメントをする上でのポイントは、①アセスメントしたい内容にかかわる因子を知ること。②その因子をもとに患者さんから情報収集し、系統立てて整理していくことです。
漠然と情報収集してしまうと、時間も手間もかかります。まず自身がアセスメントしたい内容を噛み砕いて理解し、必要な因子を調べ、そのために必要な情報を効率的に収集していきましょう!
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