訪問看護のサービスのなかでぶつかる1つの壁が認知症の方の入浴介助ではないでしょうか?数カ月~何年もの間入浴されていない方も多く、家族やケアマネージャーからも「お願いだからお風呂に入ってほしい!」と期待も強い入浴介助。私自身が実際行っていた導入のポイントをお伝えします。
認知症の方の症状は人それぞれですが、不安が強く、感情の起伏が激しい方も多くいらっしゃいます。
サービスのなかでは強制的な態度を取ってはいけないこと、いつも穏やかで受け身的な態度でいること、そして信頼関係を築くことがとても重要になります。認知症の方はとくに時間をかけて信頼関係を作っていかなければなりません。毎回私の顔を忘れてしまう利用者も嫌なことをされたと印象に残るサービスをしてしまうと次回の訪問からサービスが入りにくくなってしまいます。そのなかで信頼関係もないのにいきなり利用者の大嫌いなお風呂場に行き、介助をしなければなりません。
病院や施設とは異なり、訪問看護の場では基本1人で利用者の自宅で対応しないといけないので観察・工夫がとても大事になってくると思います。毎回四苦八苦しながらも試し、成功した私の入浴介助導入方法のポイントをお伝えします。
ポイント①身体に触れるかな?利用者の反応チェック!
まずはお話を伺い、利用者がどういう方なのかを観察します。そして、訪問看護師は利用者の健康を守るために訪問していることを伝えます。「私たちはあなたの味方よ!」という態度で傾聴同感を中心に利用者に寄り添います。会話のなかでは「お風呂」「シャワー」「清潔」のキーワードについては一切話しません。そして、「身体を触らせてくれるかな?触ったときの反応はどうだろう?」とバイタルサインから利用者の反応を観察していきました。
また、身体への触れ方も重要です。最初は利用者の身体が見える範囲の手や腕からゆっくり触れてみます。触れる前は「今から血圧を測りますね。腕触りますね。」と声をかけ、今から行う行動の説明をします。
ポイント②身体に触れれたときは?触れれなかったときは?
バイタルサインを行ってみて、身体に触らせてもらえたら、まずは私を受け入れてくれたと認識します。そして次の行為に行けるように会話をすすめます。
触らせてもらえなかったらこの日はお話でサービスは終わりです。利用者にはそれぞれ要望があり、「今ではないんだ」と理解し傾聴に努めました。一歩ずつ訪問看護師の私を受け入れてくれるよう努力をします。また、直接身体に触れるケアからではなく、お薬チェックなど身体に触れないケアから始めることも一つの方法だと思います。「この看護師は味方だ」と思ってもらえるよう接することが大事だと思っています。そして、工夫してもバイタルサインも測れないこともあるかと思いますが、その時は担当看護師を変えてみることも考慮します。
ポイント③爪切りから始める。
利用者は訪問看護師の私を受け入れてくれている、私が身体に触ることは嫌ではないとわかったら、簡単な清潔ケアを一つ試します。その一番手早く簡易なケアが「爪切り」です。爪切りは服を脱がなくていいこと、身体の中心部分から一番離れた部位なので利用者にとっても不安感が少ないように感じます。入浴を拒む認知症の方は爪も伸び切ってる方も多く見られ、また、伸びた爪を「気持ち悪い」と感じてる方も経験のなかで多くおられました。「爪を切ると気持ちがよくスッキリする」というポジティブな印象を持ってもらうことが最初の清潔ケアでとても大事になってきます。
ポイント④入浴が嫌な理由を明確にする。
清潔ケアをしている最中は利用者も私を受け入れてくれているので話を伺いやすく、情報収集を行いやすいです。話の流れでお風呂が嫌いな理由を聞き、なぜ嫌なのか、何が利用者の苦痛になっているのかを明確にすることが大事になってきます。
理由の多くは
・お風呂が面倒くさい
・お風呂の入り方がわからない
・お風呂に入る行為が怖い、自信がない。裸をみられたくない。
・そもそもお風呂がわからない
理由はさまざまですが、利用者が嫌な理由を明確にして、訪問看護師が介助をすることで嫌な理由を解決することができることを伝えていきます。「恥ずかしい、裸を見られたくない」という理由の方の場合は入浴中に事故がないよう必要な介助だけ行うこと、嫌な場合は席を外すことも伝えていました。お風呂が何かわからない利用者にはタブレットで映像みせると、記憶が戻り、理解する方もおられました。
ポイント⑤お風呂場で足浴・手浴を行う。
上記で説明したように、「清潔行為が面倒くさく、また他人に裸をみせたくない、恥ずかしい」という意識が強い利用者の場合はどんなに訪問看護や介護サービスに慣れてきていてもお風呂に行くことだけはどうしても難しいケースも多々。その場合はまず、「身体をお湯につけると心地いい。お風呂は気持ちがいいものだ」ということわかってもらうところからから試します。理想はお風呂場で手浴・足浴ですが、難しければ利用者のお部屋やリビングなど利用者が移動しなくてもいいスペースから始め、脱衣行為が少ない手浴・足浴がおすすめです。そして、慣れてきたら場所を変え、一歩ずつお風呂場へ移動していきます。
ポイント⑥身体機能を観察し、必要以上の介助をしない。
お風呂に行くことへの拒否がなくなれば、実際に入浴介助をはじめます。「安全に入浴のお手伝いをするから怖くないこと。見られたくなければ席をはずすこと」を何度も伝えます。また、身体を洗う方法を忘れている方もおられるので、身体に触れる前は今から何をするのかひとつずつ説明しながら介助していきます。裸を他人に見られるのが嫌な利用者の場合は必要以上なケアはせず、脱衣所から適宜安全を確認しながら見守りをすることもありました。それでも頭部や臀部など汚染が強く、皮膚トラブルがある利用者は洗浄して清潔にすることの必要性を何度も説明し、できるだけ了解を得てから行います。
ポイント⑦入浴介助はどうだったか感想を聞き評価をする。
入浴介助ができたらまずは一安心なのですが、利用者が入浴した後、「利用者がどういう気持ちになったか」もしっかり分析しサービスの評価をすることが次回の訪問でとても重要になってくると思います。「お風呂にはいって気持ちよかった!」という言葉がきけたら、次回はどのように導入すればケア提供時間内にスムーズに入浴介助ができるか考慮します。また、次回の訪問でも入浴介助が成功するとは限りません。そのため、もし拒否が強い場合はどのような方法を行うかも考え、準備してから訪問に向かいます。
経験豊富な先輩や家族の助けも得る!
利用者の個別性に合わせて色々な方法を試してもうまくいかないときもあります。「今日もダメだったか…。」と訪問帰りはへこみますよね。その時は、経験豊富な先輩に相談して新しい方法を試したり、ケアマネージャーや家族に利用者の経歴や生活習慣を聞いてそれをヒントにしたり、1人で抱え込まないで周りの協力も得ることも大事だと思います。また、自分だけでは出来ない場合や利用者の危険行為がみられる場合、必要であれば2人での訪問も考えていきましょう。
施設と自宅との違い
病院や施設と訪問看護の大きな違いのひとつが看護の場は利用者のご自宅であることではないでしょうか?主体はあくまで利用者です。施設ではある程度看護師主体で行える動作も自宅では全く逆の立場になります。また、訪問看護はサービス提供時間が決まっていて、時間内に必要なサービスをすることが求められます。スムーズに必要なサービスを行うには、利用者ご本人やその周りの環境、家族関係など観察することが第一ステップとなり、利用者ご本人の生活を尊重しながらどのようにサービスを導入すればいいか考慮することが大事だと思います。
まとめ
入浴拒否が強い認知症の方に入浴介助を行うことは簡単ではありません。そして、認知症の症状は人によってそれぞれ。大切なのはその利用者のことを観察し理解し、入浴が嫌な理由を明確にして一歩ずつ穏やかに問題を一緒に解決することが重要だと思います。「いつかサービスを受け入れてくれる日がくる!」そう思って無理せず取り組みましょう。また、拒否が続きサービス介入が難しくなったときは事業所に早めに相談して助けを求めることも大切です。
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