施設で介護をするにあたって大変なのは身体介護のみならず、認知症の利用者への対応も大変なものです。
しかし実際に介護士として働くと指導を受けるのは身体介護が主で、認知症の利用者への対応については指導を受けることはことのほか少なく悩んでしまう人も少なくありません。ここでは私が実際に介護施設で認知症の利用者へどのように対処をしていたかということについてお教えしたいと思います。
・認知症の利用者の対応は簡単なものではありません。
介護施設で勤務していると、認知症の利用者のお世話をさせていただくことはよくあることです。しかし認知症の利用者は話がうまく通じず、その疾患のために一般常識では対応できないことも多いです。
中には介護士や他の利用者の体を触ったり抱きついたりするいわゆるセクハラ行為や、不意に殴る蹴るなどの暴力行為をすることもあり、それを理由に介護士が退職することも少なくありません。
このような認知症の利用者の対応については、介護を学ぶ学校ではある程度指導を受けるものの、具体的な対応に関して決められたマニュアルはなくその場に応じた対応が求められることになります。
今介護士が人手不足である理由の1つにはこのような認知症の利用者の対応が難しいことが挙げられる一方、人手不足から新人介護士に対して付きっきりで指導する余裕もない状態なのです。
・認知症の利用者の具体的な行動について。
認知症の利用者が起こしやすい具体的な行動については本当に予測がつかないことが多いものの、いくつかのパターンに分かれるため、そのパターンごとに対処方法を覚えて対処していくことが重要になってきます。特に行動が原因となってけがをしたり寝たきりになったり、果ては命に関わるようなリスクが伴う場合にはその行動は何としても止めなければいけないため、新人介護士には身体介護の技術と同じくらい認知症の利用者の対応について覚えてもらう必要があるのです。
・帰宅願望がある認知症の利用者の対応について。
認知症の利用者がよく起こす行動の1つとして帰宅願望が挙げられます。
これは特に入所施設において家に帰りたいために施設内を徘徊して出口を探し、出口を見つけたら外へ出て行って自宅を探してまた外を徘徊するような状態になります。
このような帰宅願望があって外へ出るリスクの高い利用者は暗証番号や鍵で解除される出入り口があるエリアで生活することになるのですが、それでも面会の家族の後を追ったり、あるいは介護士の出入りの隙をついて外へ出ることもあります。
このような帰宅願望のある利用者の対応ですが、最も帰りたいという訴えがあるので夕食を摂った後です。夜勤帯は日勤の介護士が帰宅して働く介護士の人数が少なくなり、他の利用者が自室に戻って就寝したりすることから不安を感じて家や家族が気になって帰りたいという訴えを起こすことがあります。
このような場合には夜だから外に出ると危険だと言ったうえで、家族が面会に来た時に帰りたいと話をしてみましょうと優しく声をかけて対処するのが適切です。認知症になると前後の記憶をすぐなくしてしまうことが多いですが、このような帰宅願望のある時はその記憶がなくなることが逆にメリットとなって、しばらくしたら帰りたいと言っていたこと自体忘れてしまうこともあるため、帰宅願望がある利用者には家族が来るまで待ちましょうと声をかけるのがおすすめです。
・食事を摂っていないと訴える認知症の利用者の対応について。
次に認知症の利用者がよく訴えることとして食事を摂っていないということが挙げられます。
入所施設にいる場合にはきちんと1日3食、施設によってはおやつも1日1回出て食事は問題なく摂っているものです。しかし認知症の利用者は前後の記憶をすぐになくしてしまうため、食事を摂ったこと自体忘れてしまうことが多いです。この場合には食事はすでに摂ったことを伝えるのが正しいように思えますが、認知症の利用者は疑り深い人も多く信じてもらえないものです。
この場合には今食事を用意している、あるいはご飯を炊いているところだと伝え、食事ができたら呼びますから待っていてくださいと伝えるのが効果的なことが多いです。この場合にも前後の記憶をなくすということで、食事を摂りたいと言ったこと自体忘れる可能性が高いため時間の経過とともに食事の訴えを起こさなくなる可能性が高いです。
・被害妄想の強い認知症の利用者の対応について。
認知症の利用者の中には被害妄想が強い人もいます。室内にあったものが見当たらないということで誰かが侵入してきて泥棒したという物盗られ妄想や、他の利用者や介護士が自分の悪口を言っているという妄想などさまざまあります。
このような妄想は実際に起きている可能性が低く、盗られたと思ったものは実際には認知症の利用者自身が誰かに見つかって盗まれるといけないからという理由で目に付かない見つかりにくい場所に隠していてそれ自体忘れてしまっていたということが多いです。また悪口についても非難の対象となった別の利用者に聞いても全く言ったことはないし、近くに行ったことさえもないというケースも少なくありません。
しかし被害妄想の強い認知症の利用者は自分が被害を受けていると思い込んでしまい、しまいには対象となる相手に暴言を吐いたり暴力を振るったりしてトラブルを起こすこともあります。
そのような場合に介護士は物を盗まれていたり悪口は何も言われていないと否定をしても認知症の利用者は余計に疑ってしまうことが多いです。このような場合には認知症の利用者は暗に今の自分の境遇や生活に不満を抱いていてそれが被害妄想になっている可能性が高いので、まずは訴える被害について話を聞いたうえで否定はしないようにするのが適切です。
またそのような認知症の利用者は家族が面会にあまり来ないとか、あるいは普段から他の利用者とはあまり関わりを持っておらず寂しさを持っているがゆえに訴えることもあります。
そのため家族に面会を促したり、あるいはレクリエーション時に誘って介護士が可能な範囲で関わりを持つことが重要になってきます。
・暴力行為のある認知症の利用者への対応について。
認知症の利用者の中には自分が気に入らないとすぐに暴力を振るう人もいます。その行為は叩いたりつねったり、かみついたりすることもあれば、棒や椅子などで叩くなど時には他の利用者や介護士を傷つけたり最悪死に追いやるような行為をすることも多く、実際に年に何回かは施設内で利用者が殺人事件を起こしたというニュースを聞くことがあります。
暴力行為は力のある男性の利用者が起こすことが多く、女性が多い介護士たちだけでは止められないこともあります。
そのような暴力行為のある認知症の利用者については、施設に対応できるだけの力がなければ入所を断るのが適切なのですが、家族も介護に困り果ててやむを得ず入所してもらわなければいけないこともあります。
その場合には介護士でなくてもできる限り他の職種の男性職員が駆けつけられるようにし、暴力行為や合った場合にはまず他の利用者に危害が及ばないように複数の職員で対応することが望ましいです。また家族にも協力を得て、これまで認知症の利用者が一体どのような人生を送ってきてどのような困難に遭ってきたかということを聞き、その認知症の利用者がそれなりに納得して過ごせるような環境を作れるように職員全員が考えていけるような状況を作っていくのが望ましいです。
・セクハラ行為をする認知症の利用者の対応について。
最後に男性の認知症の利用者の中には、介護士や他の利用者に対してセクハラ行為をすることがあります。
このような行為は認知症であっても決して許されるものではありませんが、認知症の利用者は物事の善悪がついていない状態であることも多いことから、セクハラ行為があればその場でしないように伝え、そのような行為があったことを他の介護士全員に申し送りしておくべきです。
また中には他の利用者や介護士が嫌がる反応を見て楽しむケースもありますが、そのような場合には他の利用者を他の用事があるということで別の場所に誘ったり、介護士ならばあえて反応はせず早めにその場を立ち去り、できる限り介護を複数で行ったり男性介護士が対応したりしてセクハラ行為ができないような状況を作るべきです。
まとめ
介護施設において認知症の利用者については状況次第ではその対応がとても難しく、それが原因となって仕事を辞めたいと感じ、実際に退職する人も多いです。そのようなことを念頭に置きつつ、新人介護士の指導は認知症の利用者の対応も身体介護と同じように重視し、認知症の利用者も介護士も居心地のいいような施設にすべきです。
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