入浴は利用者さんにとって楽しみな時間であると共に、清潔保持や皮膚状況の観察に欠かせない大事なものです。
しかし利用者さんの中には入浴を嫌がる方や介助中に気をつけなければならない事もたくさんあります。利用者さんが安全で快適な入浴を楽しめるように入浴介助のコツをお伝えします。
入浴拒否のある方のお風呂への誘い方
利用者さんの中にはお風呂を嫌がる方もいますが、必ず理由があるので利用者さんとコミュニケーションをとりながら理由を探ります。
1異性の職員が恥ずかしい
たくさんの利用者さんを対応していると忘れがちになってしまいますが、異性に肌を見られるのは恥ずかしいと感じるのは当たり前のことです。私たちも病院で診察の際に体を見せる事がありますが、相手は医者で仕事だと分かっていても恥ずかしいものです。利用者さんの中には「恥ずかしい事を伝えるのも恥ずかしい」と感じて理由を口に出さない方もいるので、こちらから「職員は女性しかいませんよ」「今は男湯の時間ですよ」と同性しかいない事を伝えると入浴してくださるかもしれません。
2面倒くさい、気が向かない
私たちも疲れている時や他にやりたい事があると「お風呂面倒くさいなぁ」と感じる事があると思います。特に高齢者の方は身体状況によっては、お風呂場に行くのも着替えも一苦労という方もいるので面倒と感じる事あります。
気が乗らない方には入浴剤を使って「今日は特別に温泉ですよ」「お手伝いで背中流しますよ」と特別感を出したり、難しいところは手伝う事を伝えると気分を変えてくれるかもしれません。
3タイミングをはかる
利用者さんにとってはお風呂場に行く事が大変で歩きたくない方がいます。トイレに向かった際など席を離れて立ち上がった時に、お風呂にお誘いすると「立ち上がったついでだしね」とお風呂に足を向けてくださる事もあります。
利用者さんの負担を減らすためにも普段から観察して利用者さんのタイミングに合わせる事が大切です。
一般浴のコツ
施設によって差はありますがストレッチャーを使わずに座った状態でお風呂に入るスタイルです。
一般浴での注意点
1お手伝いは必要最小限 できるところはやって頂く
介護者は基本的にできないところだけお手伝いします。人に体を触られると恥ずかしいですし、利用者さんの残存機能のためにも必要以上の介助はしない方がいいです。
背中や足の裏、腰回りなど手が届き難いところや汚れが残りやすいところは必要に応じて介助します。
2移動の時は転倒に気をつける
お風呂場は濡れて滑りやすくなっているので転倒のリスクが高まりますし、服を着ていないので転倒の際に衝撃が直に伝わり、擦り傷や打撲・骨折等怪我をしやすくなっています。
移動の際には万が一転倒しても素早く支えられる位置に付き添い、必要に応じて体を支えるなどの移動介助を行い、足元に気をつけてもらえるように声かけをする事が大切です。
3湯船では姿勢と急変に気を付ける
湯船につかる際には利用者さんが安定した姿勢をとれるように配慮します。体の軽い方や麻痺がある方は湯船の浮力や他の方が動いた際の湯船の波で体制を崩しやすいので、小柄な方は湯船に椅子を用意して高さを合わせたり、手すりをしっかり掴んでもらう等気をつけます。
入浴中特に湯船に浸かっている時は体温の上昇により気分が悪くなってしまったり、心臓に負担がかかり苦しくなる可能性があるので常に顔色を観察したり、声を掛けて体調に気を配ります。長湯しすぎないように時間も気にかけてください。
特浴のコツ
体に麻痺があったりお風呂場では歩行が不安定で一般浴は危険な方が、ストレッチャー上で横になって入れるお風呂です。特浴では一般浴よりも介助者のお手伝いが必要になってくるので、配慮すべき点も違ってきます。
1動作の前に声をかける
特浴はストレッチャー上で横になっているので介助者が何をしているのか、何処にいるのかが一般浴よりも分かりにくく不安感を感じやすいです。
例えば頭を洗う時には「これからシャワーをかけますよ」「リンスを流しますね」と声をかけ、体を洗う際には「右腕を洗いますよ」「お腹こすりますね」等どこを洗うのか体に触れる前に何をするのかを伝えると利用者さんも安心します。
2できるところは協力してもらう
一般浴と同じですが、できるところは利用者さんにやって頂きます。
例えば右腕が動くなら左腕やお腹は利用者さんに自分で洗って頂いたり、背中を洗う際に利用者さんに横を向いてもらい手すりに掴まって体制の保持を協力してもらと介助者の負担が減りますし、利用者さんも役に立てたと感じて自己肯定感につながります。
3洗髪のシャワーの際は頭皮に近づける
洗髪時のコツとしてはシャワーを頭皮に近づけてお湯が跳ねないようにします。お湯が跳ねると顔にお湯がかかって不快だったり、耳に水が入りやすくなるのでシャワーヘッドを頭皮に近づけるか、シャワーヘッドを手で覆い水の勢いを弱めて跳ね難くします。
4耳周りの泡を流す時は横を向く
耳周りの泡を流すコツはしっかりと横を向いてもらう事です。顔を上に向けた状態では耳周りを流すのは難しいので、顔を横に向けて枕で耳の穴を隠すようにするとお湯が入り難くなります。
例えば利用者さんの左耳周りの泡を流す時は、顔を左に向けると耳の穴は下を向いているので水が入り難いです。間違っても左を向いている時に右耳付近に水をかけないように気をつけてください。耳の穴が上を向いているので水が入りやすくなります。
体の麻痺で横を向けない方や認知症で声かけが入り難く、横を向く事を嫌がる方もいると思います。顔を上に向けて流す時は耳の周りに手の平の横(小指側)をぴったりとつけて耳に水を入り難くした上で、シャワーヘッドを手で覆い水の流れを弱めてから流すと水が入り難いです。
上記の方法でも水が耳に入ってしまう時は、入浴前に耳に綿球等を入れておくと万が一水が耳に入っても、耳の奥までは流れていきません。
高齢者の方は水を出すために頭を強く振る事ができなかったり、水が入った事を伝える事ができない方もいますが、水が入ったままだと不快ですし中耳炎になってしまう場合もあります。洗髪時は利用者さんに合わせて水が入らない工夫をする事が大切です。
5羞恥心に気を配る
特浴は仰向けになって入浴するので一般浴よりも恥ずかしいと感じる方もいます。
服を脱ぎながらバスタオルで体を覆い肌を隠すようにします。入浴中も洗う部分だけタオルを動かし、洗い終わったらタオルを戻すようにすると肌は最小限しか見えませんし、体の保温もできます。
陰部を洗う際には特に気を配ります。可能なら利用者さん自身に洗ってもらい、介助者が洗う際には必ず声をかけてから、手早くかつ丁寧に洗えるように心がけます。
一般浴・特浴共通の注意点
1入浴前にはお手洗いにお誘いする
服を脱いでからお手洗いに行きたくなっても施設の構造によっては行き難かったり、利用者さんが面倒くさくなって洗い場や湯船で排泄してしまう事があります。
尿意や便意を感じていなくても体が温まると自然とお腹が動いて、うっかり湯船で排泄してしまうこともあり、利用者さんの羞恥心が傷ついたり今後のお風呂を嫌がる原因にもなります。
お風呂の前にはお手洗いに行って頂けるように声をかけ、便が続いている方や水様便が出ている方は、落ち着いてからお風呂にお誘いするなどの配慮が必要です。
2入浴時は全身の皮膚観察が重要
入浴時にしかできない部位の皮膚の状態をみます。
背中や臀部・陰部・脇など普段は服で見えない部分に、湿疹や赤み・傷がないかを観察します。爛れや湿疹・褥瘡を早期発見できれば悪化する事を防げますし、帯状疱疹の疑いがある部分を見つけられればシャワー浴に切り替えて受診を勧められます。
また、傷や打撲痕が頻繁にあった際には虐待も疑われますので、他職種にも伝えて連携をとることで、虐待が事実だった際に素早く対応できます。
まとめ
色々と注意点やコツをお伝えしましたが一番のコツは「自分ならどんな風に感じるか考える事」だと思います。「肌が見えたら恥ずかしい」「お風呂の椅子がヒヤッと冷たかったら、嫌だな」等当たり前の事に気をつけるだけで入浴は快適になります。入浴介助は体力も必要ですし注意点が多かったり、コツのいる介助もありますが利用者さんの大きな楽しみであり、何より利用者さんの気持ちよさそうな顔を見るとこちらも嬉しくなります。周りの職員と協力して利用者さんに快適・安全な入浴を提供してください。
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