近年、社会人からの「看護師」が増加しています。
つまり、看護師以外の就労経験を経て看護師になる人が増えている、ということです。
では、社会人から看護師になるためにはどうしたらいいのか、私自信どのような苦労を経験したのかご紹介出来ればと思います。
私は社会人から看護師になりました。
それから10数年、看護師を続けてきました。
今となっては黙っていれば誰もわたしが社会人経験後に看護学校に入り、看護師になったと気づく人はいません。年齢相応に任されることや相談されることも増え、指導担当者の考えていることや気を遣っていることもよくわかるようになりました。さぞかし新人のわたしをどう扱うべきか頭を悩ましただろうなと、当時の(年下だった)プリセプターに詫びたい気持ちに時々なります。しかし同時に、居心地の悪さをどこかしら感じながら、それでもやっていこうとしてる社会人入学看護師にも、何かできることはないかとも考えてきました。
それだけ、社会人を経て看護師になるということは、しんどいものです。
ここ数年、わたしの勤める病院でも採用される新卒者の半分は社会人入学組です。もうこれだけ増えたんだから、ウェルカムじゃないまでもさすがに普通に受け入れられているだろうと思いきや、指導担当者たちから聞かされる話はわたしが新人だった頃とほとんど変わっていないんですね。わたしはそれがいつもツラくて(泣)どんな良い方法があるのか考える毎日でした。
厚生労働省の発表によれば、看護師養成校の入学者の約16%が25歳以上、准看護師養成課程ではその割合は50%にものぼります。
看護師資格は取得さえすれば景気動向に関係なくほぼ100%就職できる最強資格と言われており、またその取得に関して必要な学費などのコストも(奨学金やひとり親家庭のための高等職業訓練促進給付金をうまく活用して)低く抑えることができる、そして就職してからもある程度以上の給与は保障されており、今問題になっている「奨学金が返せない!」という問題も少ない、いわばローリスク-ハイリターンの優良案件…
であるかのように思われていますが果たして実際のところはどうなのか。
私が看護師になったきっかけの話をします。
今からもう17年ぐらい前になるでしょうか、日本国内でもかなり大手の証券会社が倒産した頃、その大型倒産につられて勤めていた会社の経営が傾きはじめ、次の航海で沈む船からはネズミがこそっと逃げ出していくように、どこへ行くとも考えないままとにかく会社を辞めることにしました。上司から「次どうするか考えてるの?」と聞かれ、ここで決めてないと言うと関連企業のどこか(といってもどこも道連れになりそうな経営状態だった)に再就職を斡旋されそうな気配を感じ
「がっ、学校にでもまた…行きなおそうかなー…なんて…」とお茶を濁したその時初めて、あっ、また勉強しなおすって道があるじゃん、と気づいたのでした、遅いよ。
さてそれなら何を学び直そうかと考えたときに、一番最初にぶつかったのは「大人が勉強し直す」難しさでした。
当時、平成18年には日本国内の大学入学定員数と18歳人口がイコールになる「大学全入時代」に突入するとし、今後は社会人がまた戻ってきて仕事に必要な知識を学習する「リカレント教育」にシフトしていくこと、そういったモチベーションの高い社会人を受け入れることで大学の質を維持していくことが大学経営のカギになるのではないか、という新聞記事を読んだ記憶があるのですが、現実としてはまだ18歳の時点で大学に入学し、新卒で就職をし、といった「常道」が厳然とそこにあり、その時わたしはまだ20代後半でしたが、学費の問題もさることながら、その時点からまた大学を卒業したとしても、どうしたって新卒としての「常道」には戻れないのでした。
大した才覚もコネもない人間にとって日本の社会で「常道」に乗れないことは生きていく上で大きなハンデとなります。(それは現在でもあまり変わりはなく…いや、大学生の「就活」の大変さを見ると以前よりもっと厳しくなっているように思いますが。)
だったらいっそのこと、どんな学校を卒業しても、全員が一斉に同じ「国家資格」というラインからスタートを切る仕事がよいのではないか、と考え、わたしは看護学校を受験することにしたのでした。何よりこういった「景気」のように不確かなものに振り回される仕事はもうこりごりでした。
しかし看護学校受験のその時、わたしはまた問題に直面します。
受験生がみんな制服姿で。要はみんな現役高校生なのですよ!
これが結構なプレッシャーで。学科試験に関しては、こういうと申し訳ないのですが「これ高校受験の問題?」と思ったぐらいで、まったく肩すかしというかはじめから心配はしていませんでしたが、このどうしようもないアウェー感に関しては本当に途方に暮れてしまいました。
そして面接試験で、面接担当の教員がいきなりハァー、とため息をついてわたしの出願書類をポン、と机に投げて置くと
「いい大学行って、外国語も話せて、上場企業で働いてきて…、ご立派な経歴だけどあなたこれが看護の世界で通用すると思ってるの?それにあなた、いくらでも仕事はあるでしょう?別に今から看護婦(当時名称)にならなくたってねーえ」
と言ったのですよ確かに言った!こんな感じで言った!!最初わたしはどういう意味なのかよくわからず呆然としていたのですが、すぐに猛烈な勢いで腹が立ってきて
「ええそうですね、いくらでも仕事や方法はあります。でもわたしは看護婦としてこの先ずっと働き続けたいと思い受験しました。今後この経歴が通用するかしないかは受験とはまったく別の問題だと思いますが、それが何か?」
と、心に拳を固めていつでも殴りかかれる準備をしながら、とりあえず笑顔で答えはしましたが。
さて受験ですらこうだったのですから、入学してからの学生時代も、新人として働き始めてからも…お察しください、それは追々お話していくことになると思います。
今でこそ冒頭のように社会人入学看護師も増え、看護学校にも社会人入学枠も設置されたりして、看護学校受験を勧めるサイトには「社会人経験で涵養された人間としての成長が看護の質の向上に云々」などという「社会人入学看護師としてのメリット」を強調するものもありますが、わたしが受験した17年前、ほとんどいなかった社会人入学者看護師というのは基本こんな扱いでした。いわば何かの間違いで呼んでもないのに紛れ込んできた規格外の「異物」だったのです。
さて、肝心の指針の内容ですが、別に社会人経験者だからといって学校側が特別に配慮しなくてはいけないような支援かというと…たとえば「入学志望者への情報提供」や「経済的支援」など、むしろどの年代であっても「学生」にとって普通に必要とされるのではないのかと思えるようなことが主だと思います。こういった支援策が、きちんと実践されることがいずれ、すべての学生にとっての学びやすい環境になっていくのではないかと期待しています。
ここにきて知り合った院生の中には、やはり社会人として働いた後、看護師になったという人もいます。わたしより前の、もう20年以上前に看護学校に入りなおしたという人達なのですが、今のような理解もサポートも当然なく、はるかに風当たりも強い中、ベテランの看護教員や師長になるまで続けてきた人達が「こんな支援のための指針まで出されるようになって最近の社会人入学は恵まれている、自分たちのときはあからさまに厄介者扱いされてきたのに」と言います。
まとめ
わたしの頃にはもう「泣かせない指導」が言われるようになっていましたが、それ以前はもう学生や新人指導など泣かせてナンボの指導が「自分もやられてきた」という理由で受け継がれ、現役生でも容赦なくやられていたのに社会人経験者など恰好のターゲットだったわけです。自分達だってそんな「指導」でさんざん嫌な思いはしてきたはずなのですが、こうした変化を「恵まれている」と表現してしまうのはなぜなのか。実際のところ、一番考えなくてはいけないのはわたし達のこのへんの意識なのではないかと思っています。
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