勤務中に起こってほしくない出来事で、遭遇したくないと思っている看護師は多いと思います。ましてや夜勤中に人がいない時、医師が連絡しても直ぐにかけつけれない時、また医師が専門的な知識を持っていない時など、このような事態は比較的、容易に起こりうる状況です。患者の命を救うためには、医師だけでなく、当事者の看護師が重要な役割を担います。そのコツを紹介したいと思います。
病棟で不幸にも起こってしまう、患者の急変。
病棟で不幸にも起こってしまう、患者の急変。その時に、あなたは適切な役割を実行することは出来ていますか?
焦ってしまい、振り返っても何をしているのか分からなかったり、医師の指示に従っておけば間違いはないと思っている看護師は沢山います。残念ながら救急蘇生に関しては、医師の指示を遵守していても助からない場合もあります。適切な処置を、適切なタイミングで、正確に行うことが重要となってきます。ここでは、起きてほしくない急変に対して、起きても大丈夫と思えるようなコツを紹介していきたいと思っています。
焦りは禁物!看護師の蘇生のコツ
私は、高度救命救急センターや災害救助などで、何度もCPA(心肺停止)の状態を目撃し、介入してきました。正直、最初は焦りが先行して、自分のやっていることが分からなくなったり、医師の指示に従えばいいという他力本願な部分もありました。しかし、実際には、パニックになったり、医師に頼るだけでは、患者の一命をとりとめることは出来ません。
医療者である以上、患者の命に対しては、真剣に向き合う必要がありますし、我々看護師の仕事は、命を扱っているのです。
このことをしっかりと認識することが、蘇生方法を習得するうえで大切なコツとなります。
自動車学校でならった、消防隊員に教えてもらった、などは、ハートセイバーであり、BLSではありません。きちんと、その違いを認識することが大切です。次に手順を番号表記しながら説明をしていきたいと思います。具体的なイメージをすることが大切です。わかっていると思い込まず、きちんと再学習を行っていきましょう。
周囲の安全確認
倒れている人がいたら、周囲の安全を確認して介入しましょう。焦って近寄るのではなく、自分、また患者さんが安全な場所にいるのかを確認することは、お互いの命を守るうえでも大切なことになります。
人を集める
意識がなかったら、とりあえず大きな声で人を集めましょう。一人で頑張るのではなく、早い段階で大勢の人を集めましょう。その時に重要なのはAEDと119番通報です。
「救急車を呼んでください!」と言ってしまうと、間違って110番通報する一般市民の方が多いというデータもあります。医療者なら救助者の背景も読み取った行動が重要です。院内の場合は人・物(救急カート・AED・モニター)・救急コール(ハリーコールやコードブルーなど)を迅速に依頼しましょう。
脈と呼吸の確認
脈と呼吸を同時に確認します。脈は橈骨動脈ではなく、頸動脈で触知するようにしましょう。抹消血圧は拡張期80あれば触れることが出来ます。頸動脈は60以上あれば触知できるといわれています。比較的大きな動脈でしっかりと触知しましょう。
同時に胸の上りも確認します。
呼吸はしていないかなど、顔を近づけるのも良いです。この確認は5秒以上10秒以内に行います。時間をかけ過ぎないようにしましょう。実際にことが起こったときは脈拍の触知に時間がかかり過ぎているケースが多いです。これは自己脈を検知してしまったり、脈があってほしいと思って何度も確認に至ったり、死戦期呼吸と正常な呼吸の判別がつかずに悩んでしまっていることも原因の一つです。脈がないかも?呼吸が不規則かも?っと思ったら胸骨圧迫に移行しましょう。
胸骨圧迫
胸部中央、胸骨の下半分に片手のひらを置き、その上に手を重ねるようにして、垂直に胸骨圧迫を開始します。意外と知られていませんが、胸骨とは、解剖学的に胸骨丙・胸骨体・剣状突起の三つの骨を合わせて胸骨といいます。
今一度、解剖学の教科書で骨を確認しましょう。
胸骨の下半分です。勿論医療従事者なら、剣状突起は避けなければなりません。剣状突起が折れてしまうと、その下の臓器(肝臓や腸など)にダメージを与えてしまい、取り返しのつかない事態に移行する可能性があります。
押す深さは5cm以上です。以前は5cmとなっていましたが、心停止後の胸骨圧迫データをとると、看護師が明らかに深さが足りなかったというデータが上がったため5cm以上となっています。
骨折のリスクは5cmで27%、6cm以上で49%とされています。過度の押し過ぎは患者に対してリスクにも繋がりますが、ここでは救急蘇生が目的ですので、それを認識して5cm以上6cmまでの深さを意識しましょう。
また押した胸はしっかりと戻すことが重要です。心臓の栄養血管である冠動脈の灌流圧は拡張期に8割流れると言われています。つまり、押した胸をしっかりと戻さなければ意味がないということです。
戻すことを意識して圧迫を行いましょう。
この時にポンピング(手が胸から跳ねる)にならないように気を付けてください。押す場所が毎回ずれてしまう可能性があります。速さは100回~120回です。テンポは他者が評価しやすいように毎回声に出して数えましょう。早すぎると、冠動脈灌流圧が低くなり効果的ではない、つまり押せてないという事につながります。しっかりとテンポを認識して介入しましょう。遅すぎても早すぎてもダメです。
ストップウォッチがあれば15秒~18秒以内に30回の胸骨圧迫が終わるように調整しましょう。胸骨圧迫の確認は深さ・戻り・テンポです。胸骨圧迫30回に対して2回換気を行いますが、毎回30回の胸骨圧迫を確認しましょう。
換気を行う
換気、ポケットマスクやバックマスク(アンビュー)があれば使用しましょう。ポケットマスクがない場合は購入をすることを検討してください。ポケットマスクは一方弁がついており、感染を防ぐデバイスにもなります。
患者の鼻を口をしっかりと覆い、一秒に一回胸が上がる程度2回換気をします。小児乳児の場合は、2回目にエアが入らなければ三回目にトライしてください。成人は二回目に入らなければ直ちに胸骨圧迫に移行してください。換気量は胸が上がる程度です。過剰な換気はしないようにしましょう。胃に空気が入り、嘔吐の可能性が増加します。
AED
AEDの適正使用。胸骨圧迫とAEDはどちらが重要かという質問をすると、大体胸骨圧迫という返答が返ってきます。それは間違いです。AEDが優先になります。VF(心室細動)pVT(無脈性心室頻拍)に関しての治療法は除細動しかありません。これはclass1で絶対有効と言われています。つまり心臓の痙攣であれば、早期AEDが実施されることが患者の予後につながります。AEDは国内7メーカー21種類あると言われています。
AEDによって使用方法も様々なので、使い方がわかるではなく、AEDの指示に従いましょう。日本のAEDは解析中には「離れてください」とガイダンスが流れます。その間に胸骨圧迫を実施しようとする看護師を見かけますが、解析中に患者に触れると、自己心拍を再開したという誤解析につながるので、指示に従ってください。
この項目がしっかりと出来ることが救急蘇生では重要なコツになります。緊急時にしっかりとした蘇生法が行えるように、繰り返し練習したり、学習を行いましょう。苦手な蘇生方法が得意になるはずです。
まとめ
結論として、救急蘇生率は一分間に7~10%低下すると言われています。早期に介入することで、蘇生率を3~5%/分に低下させることが出来ます。
大切なのは、適切な患者の評価と早期CPRです。
BLSがしっかりと成り立っていなければACLS(二次救命処置)は成功しません。医師が来たから大丈夫ではなく、第一発見者の介入によって、その患者の予後が左右されるのです。アメリカではBLSの資格を持っていない人は、病院では働けません。命を扱う以上、きちんとした蘇生技術を学ぶ必要があるという事です。
これを機会に多くの看護師が救急蘇生法に対して、学びを深め、ひとつでも多くの命を救えることを願っています。緊急事態の場面は日ごろの訓練の成果が明確に現れます。専門的な資格を取得し、院内でトレーニングを繰り返すことが弱点を克服することにも繋がりますし、多職種との連携をとるきっかけにもなります。
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