点滴留置、静脈注射、注射ルート。呼び方は様々ですが「血管に針を入れる」という医療行為を指すことに変わりはありません。 コツを聞いても慣れだとか経験だと言われた人も多いのではないでしょうか? ですが、コツが分からなければ慣れも経験もありません。 数千~数万回と静脈注射を刺してきた経験者として、静脈注射が苦手な方へコツをお伝えできればと思っております。
静脈注射のコツ
この記事をご覧の方に静脈注射の手順を一から説明するのは少々失礼かもしれません。ですので、簡単に説明をさせていただきます。
患者さんが極端な痛がり方をした場合は針を抜く
これは大半の人が意識していると思いますが、神経に当たっている可能性があるからです。逆血がある場合や、普段からその患者さんが痛がる傾向にある場合はその限りではありません。 ですが、神経に当たることで神経障害を引き起こすこともあるため、無理に針を進めることは止めましょう。また、神経に当たった場合でもすぐに抜けば数日もすれば痺れが取れることもあります。 逆に言えば「数日痺れが残る」ということを意識してください。医療行為とはいえ針を刺すということを決して軽く考えないでください。
拍動が強すぎる血管は決して刺さない
これもこの記事を読んでいる人には「動脈だからでしょ?知ってるよ!」という話かもしれません。 ですが、大事なことなので念には念をということでご了承ください。 簡単におさらいすると①神経に当たったら抜く、②動脈は避けるです。 さて、手順というよりは「してはいけないこと」の説明になってしまいましたね。 ここからはコツを交えた手順の説明をさせていただきます。分かりやすいように初級、中級、上級と分けてお話をさせていただきます。 それと現場ではエラスター針が主流なのでエラスター針での説明をさせていただきます。
初級編「見える血管に入れる」
簡単に言えば正中などに入れる採血だったり、橈骨や手背などの血管が出やすい部位への静脈注射です。 新人時代に誰もが経験したのではないでしょうか?「練習にやってみなよ!」と言われながら先輩の正中で採血をさせてもらったことがあると思います。 私自身も一番最初は先輩の正中でした。もちろん血管に入った感触なんて分かりませんでした。これが「経験」というもので、血管に針が入る感覚は何度も刺している内に「あ、何となく入ったかも?」と思うものでした。 だからチャンスがあれば怖がらずにチャレンジさせてもらって下さい。 ただし、手背は前腕に比べて痛みが強い場合が多いこと、橈骨付近は神経に触れやすいため禁止しているところもあるという話を聞いたことがあるため注意が必要です。 血管さえ見つけてしまえば後は入れるのみです。角度や穿刺の長さに注意するだけです。駆血帯で腕や足を縛った後に実際に血管に触れて見てください。 拍動は強すぎませんか?筋の様に硬い血管を選んでいませんか?弾力のある血管なら、まず大丈夫だと思います。 角度は15~30°、穿刺の長さは逆血を確認したら数ミリ前に押し込んだら、後は外筒を指で軽く弾くように押し込んでください。 穿刺した後は「手先の痺れは無いですか?」と患者さんに確認することを必ず忘れないようにしてください。 また、当たり前の話ですが駆血帯の除去や三方活栓の向きにも注意してください。
中級「見えない血管に入れる」
初級が「見える血管」なので気づいた人も多いと思いますが、中級は「見えない血管に入れる」です。見えないと言っても完全に見えないわけではありません。(見えない場合がほとんどですが)
この「気がする」「何となく」というのが大事です。 駆血帯で腕や足を縛った後に血管に触れてみましょう。初級と同じように弾力を調べます。この時に三本の指で確認すると良いです。(脈を測る時と同様) というのも、三本とも血管が触れる(弾力がある)ということは「エラスター針の外筒が通る位の血管の長さがある」という目安になります。 逆に言えば、指一本しか弾力が無い様な血管は先で曲がっている可能性があります。エラスター針は血管に入れた後に押し進めても、血管の走行に沿ってある程度は曲がってくれます。 ですが、高齢者などではエラスター針の外筒で血管を傷つけることもあります。 ですから必ず指三本分の血管の弾力を確認してから穿刺を行ってください。 また、血管を探ることはしないようにして下さい。 逆血がないときに人によっては右に左に角度を付けて探る人もいますが、この場合は血管の弾力を確認しながら針先を少し引いて、深さを変えて穿刺してみてください。気持ち5°程度位で構いません。あまり角度をつけると神経に当たる可能性もあるので注意してください。
上級「患者さんのQOLを考えて血管を選ぶ」
最後に上級ですが、その前に簡単におさらいをします。 初級、中級と読んでいただければ分かると思いますが、私は基本的に『血管を選ぶ』というのが静脈注射のコツだと思っています。 見えていてもいなくても、血管に入ってしまえば同じです。 ですが、入った後に「ここに点滴の針があったらご飯食べる時に不便だよね」とか「ここだと腕を曲げられないよね?」と言われては患者さんはもちろん、穿刺した私たちも良い思いはしません。 看護師泣かせを自称する患者さんはこの限りではありませんが、なるべくなら患者さんの負担が少ない部位に刺したいものです。 私がよく好んで穿刺するのは上腕です。 新人時代に「上の方は失敗したら後がないから、あまりやらない方が良い」と先輩に言われたことがあります。 確かに同じ血管だった場合に体幹→抹消の順序で刺した場合に失敗した体幹側の血管が内出血を起こすこともあります。 その考えで言えば上腕を選択するのは最後の最後になるでしょう。 ですが、「腕を使う際に動きが制限されない」というのは大きなメリットだと考えています。点滴との落差が近くなるため、動き回る患者さんにはあまりお勧めできないというデメリットはありますが。 また、多くの人で上腕は太い血管が走行していることもあるため、もしも血管が見つからない時には探してみても良いと思います。 そしてQOLを考えた場合に正中や手背への静脈注射は出来るだけ避けた方がいいものとも考えられます。(抜針予定や血管がない場合は除く) それと大切なことを一つ付け加えておきます。人に針を刺すということは緊張することです。それは当たり前です。 だから焦ってはいけません。落ち着いてください。もしも焦っているときや自分には難しいと思ったときには言いやすい先輩にお願いするのも一つの手です。
まとめ
いかがでしたでしょうか?私自身、静脈注射は血管選びで7割は決まると考えています。 弾力のある血管を見つけてしまえば、後は勇気を持って針を入れるだけです。 エラスター針の場合は逆血があったら数ミリ押し込んで、後は外筒を指で軽く弾いて入れるだけです。 余談ですが、私自身は患者さんに刺して神経を傷つけたと思われるようなことは1度もありませんが、後輩に腕を貸した時に神経損傷されたことはあります。 けして簡単な技術ではありませんし、危険も0ではありません。ですが必要となる場面も多い技術です。 恐れずに技術を習得してください。それは自分のためであると同時に何度も針を刺されて痛がっている患者さんのためでもあるのです。 この記事が貴方の技術の向上に少しでも繋がれば幸いです。閲覧ありがとうございました。
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