私はこれまで7年間看護師として病院で勤務してきました。 看護師として働いている中で、多くの患者さんに出会い、同時に多くの悩みとも出会ってきました。 これから看護師を目指す学生の方や、既に現役で働いている看護師の方も、
「アセスメントってなんだろう?アセスメントってムズかしい」
と思ったことは少なからずあるのではないでしょうか。 アセスメントをする上でのコツを人工肛門の実例を交えてお話しします。
「アセスメント」って何?
「アセスメント」という言葉自体が聞き慣れない言葉だと思います。「アセスメント」という言葉にはどんな意味があるのでしょう?
看護における「アセスメント」は、患者の問題点を理論的に分析することを意味しており、看護過程の中でも大変重要な部分です。
具体的には、患者本人が訴える言葉などの主観的情報と、患者の基本情報や看護師が観察することで得られるバイタルサインや身体の異常所見などの客観的情報、その双方を元に理論的に分析していくことで、この患者が今どんな状態にある可能性があるのか、今後どのようなケアが必要なのかということを導き出すことです。
それでは具体的な例を見ていきましょう。
例1:患者A氏(人工肛門+認知症)の場合
80代男性。70代の妻と二人暮らし。息子はいるが遠くに住んでいてすぐに来ることはできません。普段は杖を使って歩いていますが、基本的には家にいることが多く外出は多くありません。認知症があり何度も同じことを尋ねてくるなど短期記憶が難しいことも多くあります。大腸がんがあり、大腸切除をして永久人工肛門を造設する予定です。手術前には「なんで病院にいるんだろうね。どこも悪くないのにね。」と話している。
主観的情報
本人の話している「なんで病院にいるんだろうね。どこも悪くないのにね。」が主観的情報となります。
客観的情報
主観的情報以外の情報が客観的情報と考えても多くは差し支えありません。
アセスメントのポイント
まずは患者の基本情報と疾患を見ていきましょう。高齢で認知症もあり、頼れる家族は妻のみです。現在は病院での生活ですが、手術した後は最終的に家に帰るというところがアセスメントする上で大きなポイントとなります。疾患は大腸がんで大腸切除し人工肛門を造設するという部分も大きなポイントとなります。
アセスメント例
A氏は高齢であり、外出も少なく歩行も杖歩行であり筋力が低下していると考えられます。術後は体力の低下が予想され、転倒のリスクが高い可能性があると考えられます。認知症も患っており、術後のベッド上安静を守れない可能性があるため、何度も説明を行い、必要時はベッドセンサーなどを用いて転倒予防を行っていく必要があります。
また、術後の安静に伴いさらなる筋力低下が予想されます。日常生活動作のレベルを落とさないためにも術後のリハビリは重要であると考えます。
今回手術を受けるにあたり、A氏は認知症があり病識にも乏しいため、手術の説明など医師と面談を行う際には、息子の同席が望ましいが遠方であり困難なため、妻の同席が必須であると考えます。
手術により永久人工肛門を造設するため、身体障害者手帳の手続きが必要となりますが、人工肛門の装具の費用も年金生活であるA氏夫婦にとっては負担となるため、装具の価格を抑えての装具選択も必要となります。
また、人工肛門の管理についても、本人管理できる可能性は低く、妻の協力が必要であるため、妻への指導も検討していく必要があります。
妻も高齢であり、生活していく上で人工肛門の管理が負担になりすぎないように、社会資源として訪問看護を利用し、人工肛門管理をサポートしていく体制の調整も行っていく必要があると考えます。
例2:患者B氏(心筋梗塞+胸が重苦しい)の場合
40代男性。身長170cm、体重85kg。妻と息子の3人暮らし。仕事は大工で、朝早くに出勤し、帰宅も遅くなることが多々ありました。仕事中に胸の痛みが出現し意識消失し救急車で搬送されました。病名は急性心筋梗塞。カテーテル治療を行い冠動脈にステントを留置しICU管理となりました。翌日には苦痛症状は何もなく、「前から肩が痛いなと思ってたんだけど仕事してたら急に胸が重苦しい感じがして激痛が出たんだよ。今はもう体治ったし家に帰るんだ。仕事も行かないと。」としきりに訴えています。
主観的情報
本人の話している「前から肩が痛いなと思ってたんだけど仕事してたら急に胸が重苦しい感じがして激痛が出たんだよ。今はもう体治ったし家に帰るんだ。仕事も行かないと。」が主観的情報となります。
客観的情報
この場合も主観的情報以外の情報が客観的情報と考えても差し支えありません。
アセスメントのポイント
患者の基本情報と疾患をみていくと、仕事は朝早くから夜遅くまでと疲労が溜まっていそうです。身長と体重からBMI数値も高く肥満であることがわかります。急性心筋梗塞の治療の後は苦痛症状が消えたため、帰宅希望が強く病識が薄いことがわかります。
アセスメント例
B氏は40代と働き盛りの年代であり、仕事で多忙のため不規則な生活を送っており、肥満であることから食生活もあまり好ましくない状態であることが考えられます。
そのため中性脂肪やコレステロール値の上昇により心筋梗塞に至った可能性が考えられ、食生活の指導を本人と妻に対して行っていく必要性があると考えられます。
発症時に感じた肩の痛みは、心筋梗塞による肩への放散痛の可能性があり、今後も症状の出現には注意していく必要があります。また、カテーテル治療により現在は苦痛症状がないため、もう治ったと思い込んでいることや、家族を養うためにも仕事に行かなくてはいけないという気持ちが強いため、このままの生活を続けていく可能性があります。
生活習慣を改善しなければまた再発してしまう可能性があり、食事指導も含めた生活改善のための退院指導が必要と考えます。また、治ったと思っていつもの体の動かし方にすぐに戻してしまうと、心臓の機能が低下している状態であるために、循環動態の悪化をきたしてしまう可能性が高く、必要性を十分に説明し理解してもらった上で心臓リハビリテーションを実施していくことが必要と考えます。
まとめ
2つの例を通してアセスメントをどのようにしていくか参考になったでしょうか。
看護におけるアセスメントは、患者の基本情報、疾患、治療によってどのような影響を受けるのか、どのような原因で疾患を患ったのか、退院した後どのような生活を送っていくのかといった部分まで視野を広げていくと良いでしょう。さらに、看護師自身が患者だったら、という自身と相手の「置き換え」を行い、どのような看護や調整が必要になっていくのかというところまで考えていくことが大事だと思います。
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