「何も話してくれない…」
「怒ってしまった…」
患者さんとのコミュニケーションが取れなくて困るという場面に出くわすことは、それほど少なくありません。わたし自身も、不機嫌だったり、話が続かなかったりして戸惑った経験があります。
今回は、友好的ではない患者さんとのコミュニケーションのとり方・対応の仕方のコツを、わたしの経験も踏まえてお伝えしたいと思います。
沈黙を怖がらない
看護におけるコミュニケーションの基本は「傾聴」と言われています。それは、耳だけでなく、「心も傾けて聴く」ということです。
でも、何も話してくれなかったら聴きようもない、と思うかもしれません。ですが、そんな時は「なぜ話さないのか」を考えてみましょう。
そんな時は何を聞かれても、「話さない」のではなく、「話せない」という状況が考えられます。
沈黙が続いたときには、「なぜ」を考え、その時間を有効に活用してみましょう。
表情・顔色・手足の動き・呼吸の速さ…、怖がらずに患者さんから見てとれるものをじっくり受け取ってみると、「なぜ」の理由が考えられるかもしれません。
観察とはいっても、ジロジロ眺めては患者さんの気分を損ねかねないので、わたしの中では感覚として1~2分はベッドサイドなどで待つようにしています。そして観察しながら、患者さんがますますイライラしてきたら
- 「一旦失礼しますね」
- 「また必ず伺います」
- 「いつでも声をかけてください」
などと声をかけて退室するなど、臨機応変に対応していくと良いかと思います。
答えを急がない
自分自身に置き換えて考えてみると理解しやすいと思うのですが、何かを考えている時に矢継ぎ早に質問を畳み掛けられると、余計に混乱したり、焦りますよね。患者さんも同じなのです。
看護師の業務は時間勝負なところもあり、会話がスムーズに進まないと気持ちが焦ってしまい、早く答えを求めがちなのですが、患者さんとのコミュニケーションにおいては答えを急がないことです。
看護師側が急いでいるという雰囲気は、患者さんには往々にして伝わるものです。
わたしも以前勤務していた際に、業務が立て込んで気持ちが焦っていた時には、自分では全く意識していなかったのに行動が雑になっていたようで、
「今日はどうしたの?いつもと違うよ」
と指摘されたことがありました。また、
「ここの看護婦さんたちはいつも忙しそう」
という話を聞いたことがあります。
焦って忙しくしている看護師には、話したくても「話せない」ものですし、患者さん自身が「早く答えないと」と焦ってしまい、余計に時間がかかってしまうことも考えられます。
対応した患者さんが言葉に詰まっているようなら、「急がなくていいですよ」「ゆっくりでいいですから」という声かけをするのがひとつのコツです。
看護師サイドがどれほど焦っていても、このような声かけをすることで患者さんの緊張が緩み、その後のコミュニケーションが円滑に進むこともあります。
むやみに何度も謝罪しない
語弊のある言葉ではありますが、これにも理由があります。
自分の行った看護や行動にミスや問題があった場合は、素直に謝罪するのが大原則です。しかし、患者さんとのコミュニケーションにおいては、患者さんが「怒りやイライラをぶつけてくる」という場面も起こりえます。
以前わたしに起こった出来事をお話しすると、その日わたしは、担当の患者さんの部屋で身の回りの環境整備をしていました。
一旦物の置き場所を変えて、後から元の場所に戻す予定で行動していたのですが、その行動が患者さんの逆鱗に触れたのです。
わたし「申し訳ありません。これから順番に戻します」
患者さん「他の看護師とやり方が違う!お前はどこの学校を出たんだ!このマヌケが!」
と、患者さんはヒートアップし、イライラと怒りが止まらなくなりました。
わたしは怖くなり、なんとかこの場を収めようと「申し訳ありません」を何度も口にしましたが、患者さんの怒りが収まることはありませんでした。
その後、相談した先輩看護師さんが言った、
と言う言葉で、わたしは思いました。
患者さんは、病気という不安や入院という環境の変化で、多かれ少なかれストレスを感じています。そのストレスを出す場所もなく、ちょっとしたことでイライラすることもあるし、全く関係のない日常の中でそのストレスが噴出する可能性もあります。
患者さん自身も、怒りたくて怒っているわけではない時もありますし、怒っている最中に「なぜやってしまったんだろう」「こんなこといいたくないのに」と後悔して、自分自身を責めるときもあるかもしれません。そんな時に相手に何度も謝られると、余計に追い詰められ、逆に責められているような感覚になります。
相手が怒っている時や不機嫌なときほど、落ち着くことが必要ですし、その場を焦って収めようとして、低姿勢になりすぎると逆効果です。
まずは患者さん自身が思いを吐き出し、それを看護師が受け止めることで、自然と怒りが落ち着くこともあります。
そして、不快感を与えたことについては謝り、決して意図的なものではないことをお伝えしてみるといいかもしれません。「わたしはこう考えていた・考えている」ということも真摯に説明することが大切です。
どうしても怒りが収まらない時や身の危険を感じる時は、患者さんの身の安全も守りつつ応援を呼び、第3者を介入させることで、その場が落ち着くこともありますので、ひとりで抱え込まないことも、とても大切なコツです。
「わたしはいつでも待っています」の精神
傾聴もした、でも何も会話が進まない・・・という時は、「今は話したくない」という状況が考えられます。
患者さん自身が悲しみの中にいる、何も考えられない、誰とも関わりたくない、そんな時もあるのです。そして、看護師と患者さんの相性であったり、その日はたまたま気持ちが擦り合わない、という時もあると思います。
そのように「患者さん自身が閉じている時」に、無理にその心をこじあけようとしては、信頼関係は崩れます。
人間同士のお付き合いはしても、あくまでも関係性は患者さんと看護師です。相手のプライベートな部分に触れる仕事だからこそ、看護師の業務の都合で踏み入ることは決してしてはならないことであり、相手を傷つけることになりかねません。
話すか話さないかは、患者さんの判断であり、患者さんが自分の意志で選ぶことです。私たちが決めることではないのです。
ですが、目の前の看護師が背を向けていることや答えを無理やり引き出そうとしていることは、患者さんにも伝わります。
そんな時は、
「話したくなったら、いつでも声をかけてくださいね」
そう声をかけてみてください。
どれほど暗いところに落ちていても、「誰かがそばにいる」ということが力になることもあります。何も返答がなくても、ベッドサイドで背を向けていても、聞こえていたりするのです。
わたしも担当患者さんにこの声かけを繰り返して、3回目くらいに「実は・・・」とお話を切り出されたことがありました。
まとめ
外来でも病棟でも、私たち看護師と対面する時には、ある程度の緊張を感じているものです。たとえフレンドリーな方でも心の中では不安が渦巻いていることも少なくありません。
患者さんと向き合った時に、怒りや不機嫌・イライラなど友好的ではない、いわば負の感情を受け取ったときには、焦りや困惑、怖さなどの感じて身構えてしまうものですが、まずは一旦深呼吸して、自分の緊張を解いてあげましょう。
そして、時間がかかっても、患者さんに耳と心を傾けて、焦らず感情を受け止めてあげることです。
そうすることが、その先のコミュニケーションを円滑にすすめることに繋がるはずです。コミュニケーションは経験を積み、たくさん考え、関わることでより深みのある声かけや言葉が増えていくようになります。
失敗を恐れず、たくさんの人との関わり、学びを深めていきましょう。
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