入浴介助と聞くと、介護士さんと看護師さんではやっていることが一緒のように感じる方もいるかもしれません。確かに、どちらも従事する可能性があり、病院によっては看護師が携わらない事も少なくありません。しかし、看護師ならではの注意点があります。看護師だからこその入浴介助のコツ・ポイントを身に着けることが大切です。
介助の中でも大変な入浴介助のコツ
看護師だけではなく、介護士も行う介助の中でも特に大変なのが入浴介助です。入浴介助といえば、移乗や更衣など行う際に体をフル活用するため肉体労働の側面も強く、疲れる業務とも言えます。病院によっては介護士しか行わないという病院や、そもそもお風呂がついていないのでシャワー浴程度しか介助をしていなかったり、入浴介助自体をしたことがないという方もいるかもしれません。
しかし、高齢化社会においては老人ホームや老健施設などで働く看護師も増えていきます。看護職は医療的な側面と日常の生活面のケアを担う専門職ですので、どのような施設であっても専門性を発揮するべきなのは言うまでもありません。そこで、入浴介助において看護師ならではの視点からどのように取り組めばいいのかというコツを紹介します。
そもそも入浴の意義とは?
入浴はなぜ行うのかといえば、健康な人からすればなんとなく習慣づいているからと話されるでしょう。
しかし、本来入浴とは体を清潔にするために必要なものです。
肌の清潔を保たなければ皮脂や日常の中での汚れを放置する事となります。数日であればそこまで大きな問題にはなりませんが、長期間放置すれば皮膚炎などになる事も珍しくはありません。陰部などで病原菌が繁殖し尿道炎や膀胱炎になるケースもありますし、下肢に水虫などを引き起こす場合もあります。
また高齢者で自力で動くことができない方の場合に注意したいものとして褥瘡があります。そういった方の清潔が保てなければ褥瘡リスクを高くするだけでなく、褥瘡ができている場合の治りが悪くなる事もあります。もちろん、入浴の際に擦りすぎるなどして洗いすぎる事も良くはありませんが一定の清潔は保たなければなりません。そのため、入浴できなくても清拭や洗髪を行うのです。
また、清潔の保持だけが入浴の意義ではありません。リフレッシュするという事も入浴の意義として挙げられます。入浴しなければ体は臭くなるので気分も落ち込みますし、周囲からどう思われているのだろうと心配になる方もいます。
入浴時、男性であればひげを剃り女性であれば髪を整えるなどをするだけで、気持ちが明るくなる事だってあります。また、お風呂場にいかずとも洗髪や清拭だけでも気持ちがマシになったという方もいます。フットケアの一環として足湯をしたりしてコミュニケーションを図るきっかけにもなります。日々の介入の中でうまくやるコツにする事だってできます。リフレッシュするという意味でも非常に重要なケアといえるでしょう。
看護師ならではの視点でみる、入浴介助のコツとは
それぞれの施設によって入浴介助を誰が行うのかという違いはありますが、看護師ならではの視点があります。
それは病態や障害を踏まえた入浴の介助という事です。
例えば訪問入浴サービスなどでは、看護師とヘルパー、介護職員の三人が役割を分担しています。これは病棟などで行う入浴介助でも同じです。流れとしてはどこもバイタルサインの確認後、移動、更衣、洗髪・洗身、浴槽での入浴・入浴後の処置・移動となります。その中でもまず血圧や体温というデータからはたして患者さんがお風呂に入っても良いのかという事を判断しなければなりません。
移動に関しても独歩が可能なのか車いすで移動するのかを判断するのは、本来看護師が行うべき判断です。移動中に転倒するリスクは常に生じていますので適切な計画の立案と実施が求められます。
更衣や洗身・洗髪という場面で看護師として持つべき視点は、やはり自力で出来る事をなるべくサポートするという事です。
依存傾向に陥る患者さんも中にはおられます。つい私たち看護師はやってあげようと思ってしまいますが、できる限り自立できるように支えることが重要です。脳機能の低下などがみられる患者さんでも、声掛けを繰り返すことで洗身などの動作を再度取り戻すことができるケースは少なくありません。元来やってこられた動作を人は覚えているのです。
なお対象となる方によっても介助の程度は異なります。オペ後なのか、それとも慢性期の方なのか、在宅を目標にしているのか、それとも施設が目標なのか。お風呂を自力でどの程度まで出来るようにするのかという事を入浴介助計画に組み込む事もまた看護業務の一つです。
そして、浴槽へつかるのはリラクゼーション的な側面も強いのですが、患者さん自身が入浴した気になるという意味では重要なポイントです。ここで特に気を付けるのは床が滑りやすい状態での移動と、浴槽に浸かってからの様子観察です。入浴介助中の事故は全国の施設で対策を講じている要注意項目です。溺れるなどして生命にかかわる事故につながる事もあり得ますので、安全とのバランスを考えていかなければなりません。
ただただ入浴させることは何となくでもできるかもしれません。しかし、そこには様々な生活動作の状況が把握できる機会でもありますし、事故などの潜在リスクが眠っている場所でもあります。
看護師としてもしっかりと把握しておきたいポイントは?
実は見落としがちなポイントとして入浴環境の調節があります。
お風呂場と着替え場の温度差をなくすなどは単に寒いからという理由だけではありません。冬場のヒートショックを予防するために必要不可欠なものでもあります。また、使用する介助道具の選定も大切です。安易に介助しやすいものではなく、患者さんのADLをフルに活用でき、できるだけ自力で入浴してもらえるように援助できる方法を検討しなければなりません。
- どちら側に手すりがあれば効果的なのか
- どのような床であれば滑りにくいのか
- どちら側の椅子が見えやすくなっているのか
といった事が具体的な介入といえます。
そして風呂の温度は注意が必要です。麻痺の方が熱さを感じずにやけどしてしまったという事は少なくありません。適切な温度を維持する事も事故防止、安全管理という面で非常に大切です。
また入浴前後で観察できる項目はたくさんあり、入浴には多くの情報が眠っています。中でも皮膚状態の観察はお風呂で行う事が多くなっています。軟膏や保湿クリームの塗布はもちろんですし、創処置を行う事もあります。
傷の程度を専門的に見るのは介護士ではなく看護師です。
褥瘡があるのであればその程度を確認しなければなりませんし、適切な創部保護剤の選定も看護の一つです。また新たな傷に気づいたり、転倒などが知らないうちに起こっていないかを痣などから確認する事も大切な仕事です。全身を観察する場面はそう多くありませんし、わざわざ服を脱いでいただくという事は患者さんの羞恥心を生じさせます。ですのでお風呂などで清潔にしている時に一緒に行うことは不快さを感じさせないコツだともいえます。
また入浴の頻度も患者を知る手がかりです。
入浴の日によく外出する方であれば何かしらの理由がそこにあるかもしれません。また、抑うつ気分などから入浴が遠のいている可能性も否定できません。それは治療の中で変わっていったのであれば、ボディイメージの変化に伴うものかもしれません。身体状態だけでなく精神状態や社会的な変化など入浴一つで情報を手に入れるきっかけとすることができるかもしれないのです。
看護師側が業務をする上でのコツは
患者さんの把握だけが入浴で気を付けることではありません。忘れがちですが、看護師自身の体調管理も重要です。入浴場は温度が外よりもかなり蒸し暑く脱水になる可能性があります。こまめな飲水を心がけましょう。また、移乗などで腰痛などになる可能性もあります。無理のない態勢での介助は欠かせません。また、しっかりと看護師自身も清潔に保つ必要があります。水虫などにかからないように清潔にする事を務めましょう。
まとめ
以上からもわかる通り、単純だと思われがちな入浴介助ですが実はかなり奥深いものですね。清潔を保つことと安全に気を付けることを原則としつつ、看護師ならではの視点として、全身状態の観察や転倒予防などを行う事が求められています。その中で安易に介助するのではなく、本人のできる力を伸ばしたり維持することを考えながら関わっていく事を忘れずに看護介入を行っていきましょう。そのためにも看護師自身が健康で仕事できるようにする事が大切ですね。
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